新しい風
「確かに、彼はアンドウ・テルアキの未来を潰してしまった。それは教師として、間違いなくコヤツの能力不足よ」
「なら…!」
王のその言葉に、スズカは一筋の希望を見出したとばかりに、表情を明るくさせた。
反対に、勇者達の表情が、一気に曇る。
テルアキは、現在王都の刑務所に入っている。
シシツキは、あれから何度か面会に行ったのだが、テルアキは虚ろな目でこちらを見るだけだ。
確かに、あの状況になるまで気づけなかったシシツキの過ちである。
王は、そんな皆々の表情をみて、フッと微笑んだ。
そして、言葉を付け加えた。
「じゃがな、スズカ・センジ伯爵よ。彼はそのこと以外にも、30人の勇者を立派に育て上げているのじゃよ。その功績を無視してはいかんのう…。じゃからな、我はコヤツが、このまま学園に残っていてほしいと思うのじゃ」
王の言葉に、シシツキは瞠目した。
まさか、平民のそれもスラム街出身の自分を、学園においておくはずがないと思っていいたのだ。
まさに予想外。
スズカも、貴族の自分をさしおいて、平民のシシツキが学園に残るとは思わなかったのだろう。
スズカの表情は、驚愕という彫刻を見ているかのような、表情だ。
スズカ以外にも、数人の貴族が、同じような表情をしていることから、同じような考えをしている貴族は、少なからずいたと思われる。
「まあ、それだけではないのじゃが」
あっけらかんと告げた王の口は、こうなれば、すべてしゃべってしまえといわんばかりに、止まることを知らない。その様子は、何かをこらえていた反動のようだった。
それはそれは楽しそうな表情で、次々に言葉を紡いで…いや、言葉をさながら爆弾のごとく投げていく。
ちなみに主な被爆者は、貴族である。
「勇者殿から聞いたんじゃがの、昔の勇者の国では、役人を雇うために、カキョという試験をしておったそうじゃな?」
脈絡が見えない問いに、勇者たちが首をかしげながら頷いた。
厳密にいうと、勇者たちのいた日本ではないのだが、それはこの際、置いておいてもいいだろう。
シシツキは、その聞き覚えのない単語に、目を輝かせて勇者たちを見たが、この状況でシシツキの問いに答える猛者は居らず、結果気まずげに視線を逸らす勇者達だった。
その勇者たちの態度に、シュンと落ち込んだシシツキの哀愁漂う背中に、罪悪感にかられた勇者たちは、心の中で叫んだ。
後からどれだけでも答えるから、今は我慢して!
そんな勇者たちに気にも留めず、王は拳を握って語った。
「そこで、我は考えたのじゃ。このカキョ制度を我が国でも、活用できないかと…。そこでじゃ、本来は貴族の面接のみで合否を決める、学園の採用試験に、新たに試験を加えてみたのじゃよ」
「は??」
何言ってんだこいつ。
そんな言葉が副声音で聞こえるシシツキのとっさの一言に、今回ばかりは同意のサクヤは、動揺を隠すために眼鏡の位置を直した。
「ちなみに、もう受けてもらっておるぞ」
「…ん?…そうか、空耳かな」
ついに現実逃避をし始めたシシツキの耳に、呆れ成分を多分に含んだ聞きなれた声がした。
「一昨日に、先生が学生のテストだと勘違いして、問題解いた後、”学生用にしては難しすぎるでしょ”といっていたあれですよ…」
王の後ろから姿を表したのは、勇者たちも見慣れた、金色の艶やかな髪をもつ、人形のような美しい女性。
シシツキを敬愛して止まない、アイカであった。
アイカの登場に、会場が騒めいたが、本人はそれに構わず、ご機嫌そうに記憶をたどるシシツキの隣を陣取った。
その際に、退けられたシキは不満げにアイカを睨んだが、さすがにこんな場でいつもの喧嘩を始めるわけにもいかず、グッと我慢した。
「ああ、あれか…」
「確かに私も受けましたね…」
同じく、思い当たったサクヤもうなずく。
スズカも、思い出したのか得意げに胸を反らした。
よほど結果に自信がありそうだが、今の現状をしっかり見つめてほしい。かなり切実に。
「その結果を合わせて、貴族会議で決定したのが、これじゃ」
手に持っていた紙をヒラヒラと振り、後から正式な文書を送ると王が言うと、この話は終わりだというように、紙を懐に入れた。
「こんな話は、ここまでじゃ。今日はめでたき日!スズカ・センジ、此度のことは不問にする。シシツキ、主らも今夜は存分に楽しむのじゃ!」
打って変わってにこやかにあいさつ回りをし始めた王に釣られて、徐々に周りも、雰囲気を取り戻してきた。
スズカはシシツキに向かって舌打ちしたのを、アイカに睨まれ、すごすごと人ごみの中に消えていった。
「先生、不快な思いをさせてしまいましたね…」
「いいよ。いくら王族主催のパーティーといえども、アイカくんに責があるわけじゃないからね」
2人の和やかな会話に、先ほど気になっていた勇者たちが一斉に口を開いた。
「アイカさんって…」
「もしかして…」
「お姫様だったりする?」
王族のみに身に着けることが許された、金色をところどころにちりばめられた、淡いピンク色のドレスに、王冠を模した髪飾り。
そして、きれいに結い上げられた金髪に、程よく施された化粧が、高貴な者という印象を見るものに与えていた。
「あれ?言っていなかったっけ?」
「私はこの国の第16王女ですよ」
あっさりと告げられた言葉の重みに、勇者たちは飲み込むのに時間がかかった。
「「「ええっ!?」」」
喧しい叫び声に、会場の視線が集まるが、勇者たちを見て、納得そうに眼を反らした。
こうして、騒がしくも楽しい時間は、無情にも経ってしまった。
翌日、勇者たちのパレードの喧騒を耳にしながら、シシツキは大破した研究室の整理をしていた。
そして、必要な物だけを詰め込むと、研究室をあとにした
『 シシツキ殿
アンドウ・テルアキ氏並びに学園襲撃事件に関する処置について。
貴殿の此度の件の処分を以下の通りとする。
6カ月の停止処分
また、学園襲撃事件の際の功績、勇者たちの教育の功績により、上記の処分が終了次第、新学園長として業務を全うすること。
並びに校舎の修理に伴い、生徒たちは半年の間、王宮の図書館の講義室にて授業を行う。』
ここまでが、第一章という位置づけです。と、一区切り付いたので、とりあえず、ここまでの誤字脱字などの修正などをします。
内容は変えませんが、サブタイトルや文章の大幅な改正を行います。
そのため、勝手ながら次回の更新を4月30日とさせていただきます。
修正が終わりましたら、活動報告で報告いたします。よろしければ、誤字脱字の報告もしていただけると幸いです。
長くなりましたが、今後ともよろしくお願いします。




