それぞれの進む道
「俺は、冒険者に、なるっ!!」
ダンと、勢いよく立ち上がり、その勢いでイスの上に片足を乗せた行儀の悪い格好で、握り拳を作るタイイチに、シシツキは呆れた視線を向けた。
「ちょっと落ち着こうか」
「……」
「あ、さぁーせん…」
アイカから凍えるような冷たい視線を貰ったタイイチは、スゴスゴと椅子に座り直した。
タイイチが落ち着いたのを見計らって、シシツキは呆れた表情を崩さないまま、タイイチに問いた。
「なんで冒険者?勇者になるのが嫌なら、戦いの場から遠ざかるべきじゃないの?」
「違う。勇者になりたくないのではなく、俺には、勇者になる実力がない。それだけだ」
そう言ったタイイチは、悔しそうな、寂しそうな表情をした。
そこに先程までの、元気の良さはない。
「俺だって、なれるなら、勇者なるよ。けど、俺の実力では、九条さん達の足を引っ張るだけだ。だから、ちょっとでも魔物を減らして、手助けできればいいなと思ったんだ」
タイイチの言葉に、シシツキは少し目を見張ったあと、ふっと表情を緩めた。
この幼い勇者達は、既に、自分の道を決めて、歩んでいたのだ。
だから、今朝、進路の話を持ち出しても、誰もあせらなかったわけだ。
「冒険者は、下手したら命を落とす仕事だよ?それでも、冒険者になるの?」
「もち。友達が命はって頑張っているのに、俺だけのうのうと暮らせねぇよ」
ニカッと笑ったタイイチの瞳の奥に、強い決意の炎が灯っているのをみて、シシツキは、タイイチが本気であることを理解した。
「そう。そこまで言うなら、俺は止めないよ。ただ、冒険者の人たちに、色々話を聞いておくこと。一応、5日後、もう1度面談をして最終決定にするから」
「りよー」
最後には、いつもの明るい笑顔を見せるタイイチが退出したのを見計らって、アイカがシシツキに、そっとカフェオレを差し出した。
次の生徒が来るまでのつかの間の休息に、シシツキは嬉しそうに、甘いカフェオレを口に含んだ。
「まさか、既に進路について考えているとは思いませんでしたね…」
感嘆したように呟いたアイカは、ダラリと脱力するシシツキに、新しい用紙を差し出した。
「きっと、ダンジョンの夜、カレンくんが頑張ってくれたお陰だよ」
“私は、勇者になります“
たまたま、テントの見回りをしていたシシツキの耳に飛び込んできたのは、揺るぎない決意を抱いた言葉だった。
その後は、小さな声になったので、シシツキは聞き取れなかったのだが、多分、彼女が勇者達の心に石を投げかけたのは間違いない。
それから、勇者達は考えていたのだろう。
自分は、何者になるべきなのかを。
「では、次の生徒は、何になると言うのですかね?」
「席順で当てたから、次は確か、シキか…。シキなら、勇者になるんじゃない?大切な幼馴染を守るために」
シシツキは、真っ先に自分の研究室にやって来て、勇者になります宣言をしたカレンを思い出した。
正直、彼女については、そうなることは、予想していたので、対して驚きはしなかった。
ただ、ダンジョン以降徐々に仲を取り戻しつつあるシキは、カレンに付いていくと思ったのだ。
そう、思っていたのだ。
「えっ、僕は先生についていきますよ?」
「…」
「…えっ?」
まさにあり得ないことを、聞いたという2人の反応にシキは、首を傾げた。
「何をそんなに驚いてるんですか?」
「いや…いいの?幼馴染とか…」
「ああ、花蓮なら大丈夫」
あっけらかんと告げるシキに、シシツキは、ガックリと肩を落とした。
「でも、俺についてくる必要は無いでしょ…」
「いえ、あります。おおありです」
シキは、拳をギュッと握って、力説し始めた。
「まず、先生の研究には、僕が必要です」
「…その心は?」
「だって、魔力はともかく、霊力などの感知は、僕にしかできませんし、そもそも、ここが異世界ではないという証明をするためには、僕がいた方が、都合がいいんですよね?」
最もな話である。元から、陰陽師として霊力に近しい生活をしていたシキがいてくれた方が、シシツキの研究分野では、非常に有利だろう。
この世界の根本が、異世界ではなく、シキのいう“地球“であるなら特に。
「まあ、シキがそれでいいなら、良いよ」
「「先生!」」
「アイカくん、シキの教育は任せたよ。どの道、闇属性同士、固まっていた方がいいだろうし」
シシツキの許可の言葉に、片方は歓喜の声を上げ、もう片方が非難の声を上げた。
しかし、アイカは、シシツキの説得を諦めた。流石に、自分のわがままで、シシツキに迷惑をかけるつもりは無い。それに、シキがシシツキについて行くのも、理屈が通っている。
「覚悟しなさい」
「受けて立つ!」
バチバチと火花を散らす2人に、しくじったかなと早くもシシツキは後悔をしつつ、シキの進路相談が終わった。
その他の、勇者達も、自分の決めていた進路を、シシツキに伝え、スムーズに進路相談は最後のひとりとなった。
「最後の1人は…。ああ、アンドウ・テルアキか」
召喚された中で唯一の大人である彼は、一体どんな進路を選択するのだろうか。
ちなみに、今のところ、勇者になるのはカレンを含め、5名いる。
軽いノックの音に、シシツキがいいよと声をかける。
すると、恐る恐る研究室の扉が開かれた。
「…お邪魔します、先生」
「うん、ここ座って」
シシツキが自分の向かい側を指さすと、そこにテルアキは、素直に座った。
まさか、自分よりも年上の人物に、先生なんて呼ばれるとはと、少し感慨深く思いながら、シシツキは早速本題に入った。
「じゃあ、君は、どんな進路を考えているんだ?」
「俺は…」
年長であるが小心者で、オドオドしているテルアキは、チラリとシシツキをみて、再び口を閉じた。
「無理矢理いま、決めなくていいから、何かやりたいことはない?」
「…分かりません」
「…」
やばい、前途多難だ。
シシツキは、アイカと目を合わせて、そっと息を吐いたのだった。
お粗末さまでした。
今更ですが、Twitterやっております。そこで、三ツ葉きあ様から、素敵なイラストを頂きました。よろしければ、私の固定リプをご覧下さい。
朱音(@akanemonokaki)




