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先生は勇者と共に…  作者: 朱音
第1章
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それぞれの進む道

 

「俺は、冒険者に、なるっ!!」


 ダンと、勢いよく立ち上がり、その勢いでイスの上に片足を乗せた行儀の悪い格好で、握り拳を作るタイイチに、シシツキは呆れた視線を向けた。


「ちょっと落ち着こうか」

「……」

「あ、さぁーせん…」


 アイカから凍えるような冷たい視線を貰ったタイイチは、スゴスゴと椅子に座り直した。

 タイイチが落ち着いたのを見計らって、シシツキは呆れた表情を崩さないまま、タイイチに問いた。


「なんで冒険者?勇者になるのが嫌なら、戦いの場から遠ざかるべきじゃないの?」

「違う。勇者になりたくないのではなく、俺には、勇者になる実力がない。それだけだ」


 そう言ったタイイチは、悔しそうな、寂しそうな表情をした。

 そこに先程までの、元気の良さはない。


「俺だって、なれるなら、勇者なるよ。けど、俺の実力では、九条さん達の足を引っ張るだけだ。だから、ちょっとでも魔物を減らして、手助けできればいいなと思ったんだ」


 タイイチの言葉に、シシツキは少し目を見張ったあと、ふっと表情を緩めた。

 この幼い勇者達は、既に、自分の道を決めて、歩んでいたのだ。

 だから、今朝、進路の話を持ち出しても、誰もあせらなかったわけだ。


「冒険者は、下手したら命を落とす仕事だよ?それでも、冒険者になるの?」

「もち。友達(ダチ)が命はって頑張っているのに、俺だけのうのうと暮らせねぇよ」


 ニカッと笑ったタイイチの瞳の奥に、強い決意の炎が灯っているのをみて、シシツキは、タイイチが本気であることを理解した。


「そう。そこまで言うなら、俺は止めないよ。ただ、冒険者の人たちに、色々話を聞いておくこと。一応、5日後、もう1度面談をして最終決定にするから」

「りよー」


 最後には、いつもの明るい笑顔を見せるタイイチが退出したのを見計らって、アイカがシシツキに、そっとカフェオレを差し出した。

 次の生徒が来るまでのつかの間の休息に、シシツキは嬉しそうに、甘いカフェオレを口に含んだ。


「まさか、既に進路について考えているとは思いませんでしたね…」


 感嘆したように呟いたアイカは、ダラリと脱力するシシツキに、新しい用紙を差し出した。


「きっと、ダンジョンの夜、カレンくんが頑張ってくれたお陰だよ」


 “私は、勇者になります“


 たまたま、テントの見回りをしていたシシツキの耳に飛び込んできたのは、揺るぎない決意を抱いた言葉だった。

 その後は、小さな声になったので、シシツキは聞き取れなかったのだが、多分、彼女が勇者達の心に石を投げかけたのは間違いない。

 それから、勇者達は考えていたのだろう。

 自分は、何者になるべきなのかを。


「では、次の生徒は、何になると言うのですかね?」

「席順で当てたから、次は確か、シキか…。シキなら、勇者になるんじゃない?大切な幼馴染を守るために」


 シシツキは、真っ先に自分の研究室にやって来て、勇者になります宣言をしたカレンを思い出した。

 正直、彼女については、そうなることは、予想していたので、対して驚きはしなかった。

 ただ、ダンジョン以降徐々に仲を取り戻しつつあるシキは、カレンに付いていくと思ったのだ。

 そう、思っていたのだ。


「えっ、僕は先生についていきますよ?」

「…」

「…えっ?」


 まさにあり得ないことを、聞いたという2人の反応にシキは、首を傾げた。


「何をそんなに驚いてるんですか?」

「いや…いいの?幼馴染とか…」

「ああ、花蓮なら大丈夫」


 あっけらかんと告げるシキに、シシツキは、ガックリと肩を落とした。


「でも、俺についてくる必要は無いでしょ…」

「いえ、あります。おおありです」


 シキは、拳をギュッと握って、力説し始めた。


「まず、先生の研究には、僕が必要です」

「…その心は?」

「だって、魔力はともかく、霊力などの感知は、僕にしかできませんし、そもそも、ここが異世界ではないという証明をするためには、僕がいた方が、都合がいいんですよね?」


 最もな話である。元から、陰陽師として霊力に近しい生活をしていたシキがいてくれた方が、シシツキの研究分野では、非常に有利だろう。

 この世界の根本が、異世界ではなく、シキのいう“地球“であるなら特に。


「まあ、シキがそれでいいなら、良いよ」

「「先生!」」

「アイカくん、シキの教育は任せたよ。どの道、闇属性同士、固まっていた方がいいだろうし」


 シシツキの許可の言葉に、片方は歓喜の声を上げ、もう片方が非難の声を上げた。

 しかし、アイカは、シシツキの説得を諦めた。流石に、自分のわがままで、シシツキに迷惑をかけるつもりは無い。それに、シキがシシツキについて行くのも、理屈が通っている。


「覚悟しなさい」

「受けて立つ!」


 バチバチと火花を散らす2人に、しくじったかなと早くもシシツキは後悔をしつつ、シキの進路相談が終わった。

 その他の、勇者達も、自分の決めていた進路を、シシツキに伝え、スムーズに進路相談は最後のひとりとなった。


「最後の1人は…。ああ、アンドウ・テルアキか」


 召喚された中で唯一の大人である彼は、一体どんな進路を選択するのだろうか。

 ちなみに、今のところ、勇者になるのはカレンを含め、5名いる。

 軽いノックの音に、シシツキがいいよと声をかける。

 すると、恐る恐る研究室の扉が開かれた。


「…お邪魔します、先生」

「うん、ここ座って」


 シシツキが自分の向かい側を指さすと、そこにテルアキは、素直に座った。

 まさか、自分よりも年上の人物に、先生なんて呼ばれるとはと、少し感慨深く思いながら、シシツキは早速本題に入った。


「じゃあ、君は、どんな進路を考えているんだ?」

「俺は…」


 年長であるが小心者で、オドオドしているテルアキは、チラリとシシツキをみて、再び口を閉じた。


「無理矢理いま、決めなくていいから、何かやりたいことはない?」

「…分かりません」

「…」


 やばい、前途多難だ。

 シシツキは、アイカと目を合わせて、そっと息を吐いたのだった。

お粗末さまでした。

今更ですが、Twitterやっております。そこで、三ツ葉きあ様から、素敵なイラストを頂きました。よろしければ、私の固定リプをご覧下さい。

朱音(@akanemonokaki)

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