ダンジョンの夜
パチパチと薪の爆ぜる音が、夜特有の静けさの中に、吸い込まれていった。
ダンジョンが、地下にあるのにも関わらず、何故昼と夜の概念や、森林や砂漠果てには海まで存在するのか。この謎は、今でも解明されていない。しかし、シシツキは初めてのダンジョンの夜に、何処と無く、懐かしさを感じながら火の番をしている。
シシツキ達が安全圏に着いてから2時間ほど経過してから、安全圏に到着した勇者達は、皆等しく表情が沈んでいた。
単純に戦っただけではこうはならない。
勇者達は、ゴブリンの様な人に近い形状をした魔物を殺したということに対しての、精神的なダメージが大きいのだ。
例外を上げるとするなら、シキとカレン位か。
騎士や冒険者が場を盛り上げようとしていたが、勇者達は静まり返ったまま、夕食を終え、さっさと就寝してしまった。
シシツキが声をかける暇もなかった。代わりに、カレンがシシツキにひとつ頷いて、彼らの背中を追いかけて行った。
現在は、シシツキとアイカと騎士、冒険者の4人で火の番をしている。
「先生、お飲み物はいかがですか?カフェオレではなく、お茶ですが」
アイカがそっと差し出した、お茶の入ったコップを、受け取りながら、シシツキは火を取り囲むように設置されたテントをみた。
「・・・勇者達は、明日も戦えるんだろうか」
「今の彼らには、少し辛いかも知れませんね」
シシツキの言葉に、アイカは彼が危惧していることを察した。
アイカは、自分もお茶の入ったコップを持って、シシツキの隣に腰を下ろした。
その表情は、あまり良くない。アイカも分かっているのだ。
このままでは、勇者達は挫折してしまうだけであると。
「まあ、心配することも無いんじゃないか?」
そう口を挟んできたのは、王都のエースだと噂されている冒険者のチームのリーダーだった。
服の上からでも分かるほどの筋肉に、ライオンの鬣のような髪。その見た目の近寄りがたさと反して、その気さくな性格に惹かれる人は多い。まさに、シシツキとは真逆の様な人だ。
彼は、アイカと反対側のシシツキの隣に腰を下ろして、シシツキの目を真っ直ぐに見た。
その目を逸らさず、見つめ返すシシツキは、彼の言いたいことも正確に把握した。
「クウガの言いたいことは分かるけど・・・」
「あのお嬢ちゃんが任せろと言っていたんだ。それに、学園からこっそりと抜け出して、冒険者としてやっていた奴もいる事だし、何かあれば、坊主だってどうにかするさ」
二カリと笑みを浮かべたクウガは、ワシャワシャとシシツキの頭をかき乱した。
その手を叩き落として、乱れた髪をおざなりに整えながら、シシツキは、それもそうかと頷いた。
「そういえば、シキが黙って冒険者登録したことを、学園長に言ったのって、クウガだって聞いたけど」
「あー、つい口が滑っちまってな。黒髪黒目だから、もしやと思ったが、ほんとに勇者だったとは。そのせいで、学園長から大目玉を喰らったって、坊主に怒られた」
ガハハと豪快に笑いながらそう告げたクウガに、シシツキは呆れたように肩を竦めた。
そんなシシツキから視点を転じて、クウガはアイカに目を止めた。
「そっちの嬢ちゃんは、シシツキの助手だな?こうして話すのは初めてだな」
「そうですね。よろしくお願いします。ところで、クウガさんと先生は、お知り合いなのですか?」
アイカの言葉に、クウガは大きく頷いた。
「シシツキは、こんなに小さい頃から知ってるぞ」
そうクウガが示したのは、成人男性の腰にも満たないほどの高さだった。
歳にして、5歳ほどの身長になるだろうか。
その身長に、アイカが目をキラキラさせた。
「その頃の先生はどんな子でしたか?」
「ちょっと、アイカくん・・・」
「今よりも可愛げのある子供だったぞ」
「クウガも、余計なこと言わなくていいから」
小声ながらも、賑やかに繰り広げられる会話に、傍で傍観していた騎士も、優しげに目を細めて3人を見ていた。
そして、月が傾きかけた頃、近くの騎士団と冒険者が泊まっているテントから、2人ずつ出てきた。
その中には、アカツキとトウヤも含まれている。
「火の番、お疲れ様です。交代します」
アカツキがそう告げると、今まで火の番をしていた4人は肩の力を抜いた。
「じゃあ、後は頼みます」
「はい。よく寝てくださいね」
そう言うと、アカツキは眠たげに欠伸をしているシシツキに近づく。
「シシツキ、おやすみ。ちゃんと寝るんですよ」
「わかってる。おやすみ」
アカツキはそう言って、テントに入っていくシシツキの背中を見送った。
あの様子なら、きっとしっかり寝れるだろうとアカツキは、安堵する。しかし、次の瞬間、シシツキの肩に何かが見えた。
それが何だったのかは、具体的には分からないのだが、とりあえず、何かがいたということはわかった。
シシツキを呼び止めようと口を開きかけたアカツキは、その言葉が出る前に、アカツキの目の前に割り込んできた冒険者によって、その口を閉じることになった。
アカツキはシシツキが入っていったテントを見て、何事も無いことを祈るのだった。
お粗末さまでした。




