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止まっていた時計

翌朝。


悠真たちは、古い集会所を訪れた。


入口には、昨日見つけた写真と同じ看板が残っている。


『島のみんなの家』


しかし、建物の扉には鍵がかかっていた。


リナが言う。


「ここは、事故が起きてからずっと閉じられています。」


悠真は建物を見上げた。


「中に入ることはできますか?」


リナは首を横に振った。


「鍵を持っているのは、町の長だけです。」


---


マリアの家を訪ねると、彼女は古い鍵を取り出した。


「これを使う日が来るとは思わなかった。」


カチャリ。


扉が開く。


中には古い机や椅子、絵本が残されていた。


壁には、たくさんの写真。


そして中央には、大きな時計があった。


針は――


午後三時十七分。


で止まっている。


「事故が起きた時間です。」


マリアが静かに言った。


あかりは時計を見つめる。


「だから、ずっと止まっていたんだ……。」


---


集会所の奥には、一冊の記録帳が残っていた。


そこには、島の人々が昔書いた言葉が並んでいる。


「困った時は助け合う。」


「子どもたちをみんなで見守る。」


「誰かが悲しい時は、一緒に話をする。」


ページをめくっていくと、最後の部分だけが破られていた。


悠真が尋ねる。


「このページは?」


マリアはしばらく黙っていた。


「事故のあと、島の人々は互いに責任を押しつけ合った。」


「その記録を見るのが辛くて、破ってしまったの。」


---


その時、ノアが口を開いた。


「でも、それじゃあ……ずっと終わらないよ。」


大人たちが振り返る。


ノアは続けた。


「僕たちは事故のことを知らない。」


「でも、大人たちが悲しそうにしているのは分かる。」


「もう一度、みんなで話してもいいんじゃない?」


マリアは目を閉じた。


長い沈黙のあと――。


「……そうね。」


---


その日の夕方。


集会所に島の人々が集まった。


最初は誰も話さなかった。


しかし、一人が昔の思い出を話し始める。


「事故の前は、ここで毎週みんなで食事をした。」


別の人が続ける。


「子どもたちは、いつもこの場所で遊んでいた。」


そして少しずつ、過去の出来事についても語られていった。


誰かを責めるためではない。


何があったのかを知るために。


---


最後にマリアが立ち上がった。


「私たちは長い間、この時計を止めたままにしていました。」


マリアは時計の針に手を伸ばす。


「でも、時間まで止めてしまう必要はなかった。」


カチッ。


時計の針が動き始める。


カチ……カチ……カチ……。


静かな集会所に音が響く。


ノアが笑った。


「動いた!」


あかりも嬉しそうに笑う。


「やっと再スタートだね。」


---


数週間後。


島のみんなの家は、少しずつ姿を取り戻していった。


子どもたちが絵を描く。


大人たちが本棚を直す。


昔の写真も飾り直された。


入口には、新しい看板が取り付けられた。


『みんなの家――未来へ』


マリアは看板を見上げた。


「今度こそ、みんなの場所にしましょう。」


島の人々が拍手する。


---


その夜。


悠真たちは世界地図を開いた。


これまで空白だった場所に、新しい光が灯る。


最後の空白が消えた。


台湾。


イタリア。


アフリカ。


南米。


日本。


そして、この島。


世界各地の「みんなの家」が、一本の線でつながっていく。


あかりが感動したように言う。


「全部、つながった……。」


しかし、理事長から届いたメッセージには、もう一つの知らせがあった。


『世界ネットワーク完成記念式典を、日本で開催します。』


さらにその下には、


『そこで、姉妹レンタルの新しい未来について発表します。』


と書かれていた。


悠真たちは顔を見合わせる。


長い旅の終わり。


そして――新しい物語の始まり。

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