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始まりの間!七人目の創造者

 星のない天文台を後にしたユウマたちは、七色の道の先にある巨大な扉へと向かっていた。


 扉には、見たことのない七つの紋章が刻まれている。


 そのうち六つは淡く輝いていたが、最後の一つだけは黒く染まっていた。


「これが、最後の境界……」


 アヤが息をのんだ。


「ここに入れば、第∞世界が生まれたときの真実が分かるんだな」


 ユウマは仲間たちを見回した。


 アステルは、手の甲に浮かんだ紋章をじっと見つめていた。


「エリオとセレス。それから、僕自身の記憶……。全部、ここにつながっている気がする」


「一人で抱え込まなくていいよ」


 ノアが優しく言った。


「どんな真実が待っていても、僕たちは一緒だ」


 アステルはうなずいた。


「ありがとう。行こう」


 ユウマが扉に手を触れる。


 すると、七つの紋章が一斉に輝き、巨大な扉がゆっくりと開いた。


 その向こうには、果てしなく広い白い空間が広がっていた。


 床も壁も天井も見当たらない。


 ただ、空中に無数の光の球が浮かび、それぞれの中に異なる世界の風景が映し出されていた。


 海の世界、炎の世界、空に浮かぶ島々の世界、魔法の森の世界。


 それらすべてが、細い七色の光でつながっている。


「すごい……。これが、世界の始まりの場所なの?」


 ミオが感動したようにつぶやいた。


「そうよ」


 フィリアが答えた。


「第∞世界が作られる前から存在していた、世界と世界の境界。その中心に、この場所があったの」


 そのとき、空間の中央に七つの人影が現れた。


 ユウマ、レイ、フィリア、アステル、ノア。


 そして、見覚えのない二人の人物。


 一人は銀色の髪を持つ少女、セレス。


 もう一人は、黒い髪の少年、エリオだった。


「ついに、ここまで来たんだね」


 セレスの声が響いた。


 しかし、それは過去の映像ではなかった。


 七人の姿は、ユウマたちの目の前でゆっくりと動いていた。


「あなたたちは……?」


 アヤが尋ねると、セレスは微笑んだ。


「私たちは、この場所に残された記憶。あなたたちが知るべき真実を伝えるために、ずっと待っていたの」


 ユウマは驚きながらも、まっすぐに彼女を見つめた。


「教えてくれ! 七人目の創造者って、誰なんだ?」


 セレスは静かにエリオを振り返った。


「七人目の創造者。それは、私たち七人の中にいた最後の一人……」


 エリオが一歩前に出た。


「僕のことだ」


「えっ!?」


 全員が驚いた。


「エリオが、七人目の創造者だったのか?」


 レイが問いかける。


 エリオはうなずいた。


「そうだ。僕は、ユウマたちと一緒に第∞世界を作った。でも、僕の名前は記録から消された」


「どうして、そんなことをしたんだ?」


 カナタが尋ねた。


 エリオは、空中に浮かぶ世界の光を見つめた。


「白い指輪を作ったあと、僕たちは一つの問題に気づいたんだ。世界同士をつなぐ力は、使い方を間違えれば、すべての世界を一つにしてしまう」


「それは、今まで見てきた未来だね」


 ソラが言った。


「そうだ。僕たちは、その危険を防ぐために七色の光を指輪に組み込んだ。七色の光は、異なる世界が互いを尊重しながらつながるための力だった」


 エリオは続けた。


「だが、ある日、僕は未来を観測する装置で、恐ろしい光景を見た」


 空間が暗くなり、一つの映像が現れた。


 そこには、黒い指輪を掲げる人物の姿が映っていた。


 その人物が指輪を使うと、いくつもの世界が混ざり合い、住民たちは自分の意思を失っていく。


「僕は、あの未来を止めようとした。でも、何度未来を観測しても、黒い指輪が生まれる可能性は消えなかったんだ」


「だから、七色の光を隠そうとしたの?」


 アヤが尋ねた。


 エリオはうなずいた。


「そうだ。七色の光がなければ、白い指輪は世界をつなぐ力を失う。僕は、それで危険を防げると思った」


「でも、結果的には黒い指輪が生まれてしまった……」


 ナナがつぶやいた。


「その通りだ。僕は未来を変えようとした。でも、僕の行動が、かえって黒い指輪を生み出す原因の一つになってしまった」


 エリオは悔しそうに目を伏せた。


「僕は、自分が見た未来を恐れるあまり、みんなと相談することを忘れてしまったんだ」


 アステルが一歩前へ出た。


「エリオ。どうして、僕たちに何も言ってくれなかったんだ?」


「……怖かったんだ」


 エリオは正直に答えた。


「もし、僕の考えが間違っていたら。もし、みんなが反対して、世界を守れなかったら。そう考えると、自分一人で何とかするしかないと思ってしまった」


「でも、僕たちは仲間だった!」


 アステルの声が震えた。


「君が一人で全部背負う必要なんてなかったんだ!」


 エリオは目を閉じた。


「分かっている。だからこそ、僕は君たちに謝りたい」


 そのとき、セレスが静かに口を開いた。


「でも、エリオが一人で行動する前に、もう一つの出来事があったの」


 空中に、新たな映像が浮かび上がった。


 白い指輪のそばに、七人の創造者たちが集まっている。


 セレスは七色の光を調べていたが、突然、光の一部が黒く染まり始めた。


「これは……!」


 フィリアが声を上げた。


「七色の光が、誰かの手によって取り除かれたわけじゃない……。内部から変質している?」


「そう。七色の光は、世界をつなぐ力だけではなく、創造者たちの意思も映し出していた」


 セレスは説明した。


「エリオが未来を恐れ、私がすべてを守ろうと焦り、ほかのみんなも、それぞれ異なる未来を望んでいた。私たちの考えがすれ違うにつれて、光の調和が崩れ始めたの」


「じゃあ、黒い指輪は……誰か一人が作ったものじゃないのか?」


 ユウマが尋ねた。


「黒い指輪を完成させた人物が誰なのか、ここに残された記憶だけでは断定できない。でも、黒い指輪が生まれるきっかけには、私たち創造者の過ちも関わっていた」


 セレスは悲しそうに微笑んだ。


「世界を守りたいという願いだけでは、十分ではなかったの。お互いの考えを聞き、違いを認めることも必要だった」


 ユウマは、その言葉をじっと聞いていた。


 自分たちがこれまで修復してきた三つの境界。


 記憶を映す海では、未来を一つだけ選ぶことを拒んだ。


 止まった時間の森では、カナタが過去の過ちを認め、新しい道を選んだ。


 鏡の都市では、アヤが自分の弱さも受け入れ、自分自身を信じることを学んだ。


 すべての試練が、今の話につながっていた。


「俺たちが境界を修復してきたのは、七色の光を元に戻すためだけじゃなかったんだな」


 ユウマが言った。


「それぞれの世界が、違いを失わずにつながる方法を学ぶためだったんだ」


 セレスはうなずいた。


「あなたたちは、私たちができなかったことを、少しずつ成し遂げている」


 その瞬間、空間の中央に七色の光が現れた。


 光は輪を描き、やがて白い指輪の形へと変わっていく。


 しかし、指輪の中央には、まだ小さな黒い亀裂が残っていた。


「これが、白い指輪の本来の姿……」


 ルミがつぶやいた。


「あと三つの境界を修復すれば、七色の光を完全に取り戻せるはずだ」


 アステルが言った。


 だが、そのときだった。


 空間の奥から、低い声が響いた。


「まだ、何も分かっていないな」


 七色の光が一瞬で揺らいだ。


 黒い霧が空間の隅から広がり、白い指輪を覆い始める。


 その霧の中から、黒いマントの人物が姿を現した。


 顔には、白い仮面。


 その手には、黒い指輪が握られていた。


「お前たちは、創造者たちの記憶を見ただけだ。だが、最後の真実はまだ知らない」


 ユウマが前に出た。


「なら、教えてくれ! お前はエリオなのか?」


 黒いマントの人物は、しばらく沈黙した。


 そして、ゆっくりと仮面に手をかけた。


「……そうだと言ったら、お前たちはどうする?」


「話を聞く!」


 ユウマは即座に答えた。


「お前が何を考えて、何をしてきたのか。まずは、それを聞きたい!」


 黒いマントの人物は、わずかに肩を震わせた。


「……相変わらずだな、ユウマ」


 その声は、記憶の中のエリオと同じだった。


 しかし、仮面は外されなかった。


「最後の境界を修復すれば、すべての世界は元に戻るだろう。だが、そのとき、お前たちは一つの選択を迫られる」


「どんな選択だ?」


 レイが尋ねた。


 黒いマントの人物は、黒い指輪を掲げた。


「世界を元の形に戻す代わりに、失われた記憶を諦めるか。それとも、すべての記憶を取り戻すために、世界の境界を再び危険にさらすか」


 ノアの表情が変わった。


 かつて、彼は世界の記録から消えた。


 アステルもまた、境界を守るために長い時間を過ごしてきた。


 もし、すべての記憶を取り戻せるのなら、二人の失われた時間も、セレスやエリオの記憶も、完全に戻るかもしれない。


 しかし、そのために世界を危険にさらすことはできない。


「そんな選択を、俺たちに押しつけるのか?」


 ユウマが問いかけた。


「押しつけているのではない。お前たちが、どんな未来を望むのかを確かめているのだ」


 黒いマントの人物は、七色の光を見つめた。


「次の境界で、答えを出せ。そこには、お前たちが本当に守りたいものが映し出される」


 黒い霧が広がり、人物の姿が消えていく。


 その直前、仮面の奥から小さな声が聞こえた。


「アステル……今度こそ、僕を止めてくれ」


「エリオ!」


 アステルが叫んだ。


 しかし、声はもう届かなかった。


 空間が静けさを取り戻すと、七色の光が再び輝き始めた。


 そして、白い指輪のそばに、新しい道が現れた。


 その先には、次の境界を示す文字が浮かんでいる。


『第∞世界の心臓――七色の回廊』


 ユウマは仲間たちを見回した。


「行こう。エリオの言葉だけで決めるんじゃなく、俺たち自身で答えを見つけるんだ」


 アヤがうなずいた。


「うん。失われたものを取り戻すことも、今ある世界を守ることも、どちらも大切だもの」


 アステルは手の甲の紋章を握りしめた。


「エリオ。今度こそ、君と向き合うよ。君が何を望んでいるのか、最後まで聞くために」


 七色の光が、彼らの進む道を照らした。


 残る境界は、あと二つ。


 そして、世界の始まりに隠された真実は、いよいよ最後の答えへと近づいていくのだった。


次回、「七色の回廊! 二つの願いがぶつかるとき」


 七色の回廊では、仲間たち一人ひとりが「取り戻したい記憶」と「守りたい未来」を映し出される。全員の願いが同じとは限らない中、ユウマたちはどんな答えを見つけるのか――?

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