星のない天文台!未来を見た創造者
名前を持たない庭園を後にしたユウマたちは、七色の光に導かれ、雲の上へと続く石段を登っていた。
やがて、巨大な円形の建物が姿を現した。
高い塔の頂上には、大きな望遠鏡が設置されている。建物の壁には星座の模様が刻まれていたが、頭上の空には星が一つもなかった。
「ここが、第六の境界……『星のない天文台』か」
ユウマは空を見上げた。
「不思議だね。こんなに高い場所なのに、星がまったく見えないなんて」
ナナが不安そうにつぶやいた。
「星がないんじゃない。星の光が隠されているんだと思う」
フィリアは塔の壁に手を触れた。
「この天文台は、かつて第∞世界の未来を観測するために作られた場所なの。星の配置から、世界の境界がどう変化するかを調べていたはずよ」
「未来を観測する……?」
ハルが目を丸くした。
「それって、未来に何が起こるのか分かるってこと?」
「正確には、起こり得る未来の一つを映し出すのよ。未来は一つに決まっているわけではないから」
フィリアの説明に、ユウマはうなずいた。
「よし。ここでセレスのことを調べよう。アステルの失われた記憶も、きっと見つかるはずだ!」
ところが、入口の扉に近づいた途端、アステルの手の甲の紋章が激しく輝いた。
「うっ……!」
「アステル!」
ノアがすぐに彼を支えた。
アステルの脳裏に、懐かしい声が響く。
『未来を見てはいけない。未来を知れば、君はきっと選べなくなる』
それは、かつて聞いたことのある声だった。
「この声……エリオなのか?」
アステルがつぶやいた瞬間、扉がゆっくりと開いた。
その向こうには、壁一面に歯車や星図が並ぶ広大な部屋が広がっていた。
中央には、巨大な望遠鏡が設置されている。
そのレンズは夜空ではなく、床に置かれた小さな水晶球へ向けられていた。
「望遠鏡が、空を見ていない?」
ミオが首をかしげた。
「この水晶球に、未来を映す仕組みなのかもしれないね」
ソラが慎重に近づいた。
そのとき、部屋の奥から声が響いた。
「訪問者よ。お前たちは、何を知るためにここへ来た?」
振り返ると、白い長衣をまとった老人が立っていた。
老人の髪は銀色で、手には星の模様が刻まれた杖を持っている。
「私は天文台の管理者、セファル。お前たちの願いを聞こう」
ユウマは一歩前に出た。
「俺たちは、黒い指輪の秘密を知りたいんだ。それから、白い指輪から七色の光を取り除いた人物の正体も!」
セファルは静かに目を閉じた。
「その答えを知るには、未来を映す望遠鏡をのぞかねばならない。しかし、映し出されるのは望む未来とは限らぬ」
「それでも構わない!」
ユウマが答える。
「俺たちは、どんな真実でも受け止める!」
セファルはしばらく彼を見つめた後、望遠鏡の横へ移動した。
「ならば、まずはお前たち自身の未来を見よ」
彼が杖を掲げると、水晶球が光り始めた。
その表面に、ユウマたちの姿が映し出される。
最初に現れたのは、穏やかな世界だった。
黒い指輪は消え、すべての境界が修復されている。ユウマたちは故郷へ帰り、それぞれの暮らしを楽しんでいた。
「わあ……! みんな、無事に旅を終えてる!」
ルミがうれしそうに声を上げた。
しかし、ユウマは映像を注意深く見つめていた。
そこにいる自分たちは、まるで何かを忘れてしまったかのように、同じ毎日を繰り返していた。
誰も新しいことに挑戦せず、誰も未知の世界へ旅立とうとしない。
「これは、本当に俺たちが望む未来なのか?」
ユウマが尋ねると、セファルは答えた。
「これは、すべての危険を取り除いた未来だ。だが、危険をなくすことと、自由を守ることは同じではない」
水晶球が再び輝いた。
今度は、暗い世界が映し出された。
黒い指輪がすべての境界を飲み込み、異なる世界が一つに混ざり合っている。
そこでは、住民たちが自分の意思を失い、誰かの命令に従って動いていた。
「これが、俺たちが止めようとしている未来……」
カナタが拳を握りしめた。
「でも、どうしてこんな未来が映るんだ?」
レイがセファルを見た。
「黒い指輪が、未来を支配しようとしているからなのか?」
「違う」
セファルは首を横に振った。
「これは、黒い指輪を使って世界を一つにまとめようとした場合に起こり得る未来の一つだ。必ず起こると決まったものではない」
カナタは静かに息を吐いた。
かつて彼も、失われた仲間を取り戻すため、黒い指輪に頼ろうとした。
その選択がどんな未来につながるのか、今なら理解できる気がした。
「……俺は、もう誰かの意思を奪ってまで、望む世界を作ろうとは思わない」
カナタの言葉に、ユウマがうなずいた。
「俺たちで未来を選ぼう。誰か一人が決めるんじゃなく、みんなでな」
その瞬間、水晶球の映像が変わった。
今度は、白い指輪が完成した日の光景だった。
若いユウマ、レイ、フィリア、アステル、ノア。
そして、二人の人物がその場にいた。
一人は、銀色の髪を持つ少女――セレス。
もう一人は、黒髪の少年――エリオ。
「やっぱり、エリオも創造に関わっていたんだ!」
アヤが声を上げた。
映像の中で、セレスは七色の光を手にしていた。
『この光があれば、世界同士をつなげても、それぞれの世界を守ることができる』
セレスがそう話すと、エリオは静かにうなずいた。
『でも、もし誰かがこの光を取り除いたら?』
『そのときは、みんなで取り戻すの。世界を守る力は、誰か一人のものじゃないから』
映像の中のセレスは、笑顔で答えた。
ところが、次の瞬間、映像が乱れた。
白い指輪の光が消え、黒い霧が広がっていく。
エリオが驚いて振り返った。
『セレス、どうして……?』
セレスは何かを言おうとした。
しかし、その声は聞こえなかった。
映像が途切れ、水晶球が暗くなる。
「今のは……どういうこと?」
ナナが尋ねた。
「セレスが七色の光を取り除いたように見えた。でも、あれだけでは断定できない」
フィリアは慎重に言った。
「映像が乱れる直前、誰かが記録に干渉した可能性もあるわ」
アステルは何も言わず、水晶球を見つめていた。
そのとき、彼の手の甲の紋章が光り、記憶が一気によみがえった。
黒い霧に包まれた天文台。
目の前に立つエリオ。
そして、彼の隣で涙を浮かべているセレス。
『アステル。僕たちは、選ばなければならないんだ』
エリオの声が響いた。
『世界の境界を守るか。それとも、失われた人々を取り戻すか』
記憶の中のアステルは、必死に首を横に振っていた。
『どちらか一つなんて選べない!』
『だったら、僕が選ぶ』
エリオは、白い指輪へ手を伸ばした。
その瞬間、記憶は再び途切れた。
「エリオ……。君は、いったい何をしたんだ?」
アステルがつぶやいた。
セファルが杖を床に打ちつけた。
コンッ!
天文台全体が揺れ、壁に並ぶ星図が一斉に輝き始めた。
「ここから先の記録は、封印されている。封印を解くには、最後の星を見つけなければならない」
「最後の星?」
ハルが聞き返す。
セファルは天井を指さした。
「この天文台には、かつて七色の光を象徴する七つの星があった。だが、黒い指輪が生まれた夜、そのうちの一つが消えた」
「それが、最後の星なんだね」
アヤが言った。
「そうだ。その星は、今もこの天文台のどこかに隠されている」
ユウマたちは手分けして、部屋の中を探し始めた。
レイとソラは星図を調べ、ミオとルミは歯車の仕掛けを確認した。ハルとナナは本棚を探し、アヤとフィリアは水晶球の周囲を調べる。
カナタとノアは、アステルのそばに残った。
「アステル、何か思い出した?」
ノアが尋ねる。
「少しだけ。でも、エリオが最後に何を選んだのか、まだ分からない」
「なら、これから一緒に見つけよう」
ノアは穏やかに答えた。
そのとき、カナタが壁の一角に小さな穴を見つけた。
「おい、ここを見てくれ!」
穴の奥には、星の形をした透明な結晶が隠されていた。
アステルが近づくと、結晶はふわりと宙に浮かび、彼の手の甲の紋章と共鳴した。
そして、天文台の天井がゆっくりと開いた。
真っ暗だった空に、一つだけ星が現れた。
その星は七色に輝き、まるで長い眠りから目覚めたかのように瞬いていた。
「最後の星が……戻った!」
フィリアが驚きの声を上げた。
星の光が望遠鏡へ降り注ぐ。
水晶球に、最後の映像が浮かび上がった。
黒い指輪が生まれた夜。
セレスは七色の光を守るため、自らの名前を記録から消そうとしていた。
しかし、その直前、エリオが彼女の手をつかんだ。
『セレス、君だけが犠牲になる必要はない!』
『でも、このままでは世界が一つに混ざってしまう!』
『だったら、僕が七色の光を隠す。君の名前も、みんなの記憶も守ってみせる!』
エリオは白い指輪へ手を伸ばした。
だが、指輪からあふれた黒い霧が彼を包み込む。
映像の中で、エリオは最後にアステルを振り返った。
『ごめん、アステル。僕は、みんなを守るために……』
そこで映像が消えた。
天文台に静寂が訪れた。
「エリオは……世界を壊そうとしたわけじゃなかったのか?」
ユウマがつぶやいた。
「少なくとも、あの記憶では、世界を守ろうとしていたように見える」
フィリアが答えた。
「でも、どうして今は黒いマントの人物として現れるんだ?」
レイが疑問を口にする。
誰も答えられなかった。
そのとき、セファルが静かに告げた。
「未来を見た者は、未来を変えようとする。だが、変えようとした行動そのものが、新たな未来を生み出すこともある」
セファルは望遠鏡を見上げた。
「エリオが何を見て、何を選んだのか。その答えは、最後の境界にある」
床に七色の道が現れた。
その先には、巨大な扉が浮かんでいる。
扉には、こう刻まれていた。
『第七の境界――始まりの間』
ついに、最後の境界への道が開かれたのだ。
しかし、アステルの紋章は、これまでとは違う輝きを放っていた。
紋章の中央に、小さな文字が浮かび上がる。
――「エリオを止めて」。
アステルは、その文字を見つめていた。
「……僕は、エリオを止めなければならないのか?」
ノアが彼の肩に手を置いた。
「まだ、そう決まったわけじゃない。まずは本人の話を聞こう」
ユウマもうなずいた。
「ああ。俺たちは、誰かを最初から悪者だと決めつけたりしない。何が起きたのか、最後まで確かめよう」
アステルは仲間たちを見回した。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「分かった。最後の境界へ行こう。エリオと、セレスと、僕自身の記憶に向き合うために」
七色の星が、彼らの頭上で輝いていた。
その光の向こうには、第∞世界の始まりと、すべての謎を解き明かす最後の扉が待っている。
次回、「始まりの間! 七人目の創造者」
最後の境界へたどり着いたユウマたち。そこには、第∞世界を創造した者たちの記憶が、すべて保存されていた。そして、誰も知らなかった七人目の創造者の存在が明らかになる――!




