忘却の図書館!消された名前の秘密
鏡の都市を後にしたユウマたちは、青い結晶が示す道を進んでいた。
空には七色の光が細く伸び、その先に巨大な建物が浮かんでいる。
無数の塔が空へとそびえ、建物全体が分厚い本を積み重ねて作られたような姿をしていた。
「あれが、忘却の図書館……!」
ナナが驚きの声を上げた。
図書館の入口には、扉の代わりに巨大な白い本が立っていた。その表紙には、文字が一つも書かれていない。
「名前が記されていない本か……」
レイが表紙を見つめる。
「この図書館には、世界に存在するすべての名前が記録されているんだ。人も、場所も、世界そのものもね」
アステルが説明した。
「でも、忘れられた名前はどうなるの?」
ミオが尋ねる。
「記録から消されても、存在そのものが完全になくなるとは限らない。誰かの記憶の奥底に残っていたり、世界の境界に痕跡が残っていたりするんだ」
ノアはその言葉を聞いて、少しだけうつむいた。
かつて、彼自身も世界の記録から消されていた。
「ノア、大丈夫か?」
ソラがそっと声をかけた。
「うん。今はみんなが僕を覚えていてくれる。それだけで十分だよ」
ノアは笑顔を見せた。
ユウマは白い本に手を触れた。
「よし、行こう。消された名前の秘密を確かめるんだ!」
その瞬間、白い本がゆっくりと開いた。
ページの間から眩しい光があふれ、全員を包み込んだ。
次に目を開けたとき、彼らは図書館の内部に立っていた。
そこには、見渡す限り本棚が広がっていた。
天井は雲の上まで続いているかのように高く、本棚の間を小さな光の球が飛び交っている。床には透明な文字が流れ、歩くたびに新しい本の題名が浮かび上がった。
「すごい……! 一生かかっても読み切れなさそう!」
ハルが首を伸ばして上を見上げた。
「本を探すだけでも大変そうだね」
ルミが周囲を見回す。
そのとき、一冊の本が本棚から飛び出してきた。
パタン!
本はユウマの頭に軽くぶつかり、床に落ちた。
「いてっ! なんだよ、急に!」
ユウマが拾い上げると、表紙には『ユウマの選ばなかった道』と書かれていた。
「えっ、俺の本?」
ページがひとりでに開いた。
そこには、ユウマが仲間と出会わず、一人で旅を続けている世界が描かれていた。
「これは……」
ユウマは思わず息をのんだ。
別の本がアヤの前に飛んでくる。
『アヤが一度も迷わなかった世界』
さらに、ナナ、ハル、ミオ、ソラ、ルミ、レイ、フィリア、カナタの名前が書かれた本まで次々に現れた。
「ここにあるのは、私たちが選ばなかった可能性なのかもしれないね」
フィリアが慎重にページを閉じた。
「でも、目的の本は別にあるはずだ」
カナタが言った。
「世界の始まりに関する記録。そして、黒い指輪を生み出した人物の名前……」
アステルがうなずく。
「図書館の最深部に、創造者たちの記録を保管する部屋がある。そこへ行こう」
全員は案内板を探した。
ところが、どこにも地図が見当たらない。
代わりに、本棚の上に小さな文字が浮かび上がった。
『探す者は、まず自分の名前を答えよ』
「自分の名前?」
ミオが首をかしげた。
ユウマが一歩前に出る。
「俺はユウマだ!」
すると、足元に金色の道が現れた。
「おおっ! これを進めばいいのか?」
しかし、アヤが名前を告げても、ナナが名前を告げても、道はそれ以上広がらなかった。
「どうやら、名前を言うだけでは駄目みたいだね」
レイが考え込む。
そのとき、ノアが前に出た。
「僕も、試していいかな」
彼は胸に手を当て、ゆっくりと口を開いた。
「僕はノア。みんなと一緒に旅をして、これからも自分の意思で歩いていきたい」
すると、ノアの足元から銀色の道が伸びた。
金色の道と銀色の道が交わり、その先に新たな通路が現れる。
「名前だけじゃなく、自分が何者で、何を望んでいるのかを答えるんだ!」
ソラが気づいたように声を上げた。
全員が順番に、自分の名前と願いを告げた。
やがて十人分の光が一つにつながり、最深部へ続く扉が開いた。
扉の向こうには、ほかの部屋とは違う静けさが広がっていた。
中央には、七色の光を帯びた大きな机があり、その上に一冊の本が置かれている。
表紙には、こう記されていた。
『第∞世界・創造者の記録』
「見つけた……!」
ユウマたちは慎重に本へ近づいた。
フィリアがページを開く。
最初のページには、若い頃のユウマ、レイ、フィリアの姿が描かれていた。
その隣には、銀髪の少年アステルと、ノアの姿もある。
「僕たちも、最初からここに記録されていたんだ……」
ノアが驚いたようにつぶやいた。
ページをめくると、第∞世界が誕生した日の記録が現れた。
ユウマたちは、世界同士をつなぎながら、それぞれの世界の個性を守るために白い指輪を作った。
しかし、その記録の最後には、見覚えのない文章があった。
『第六の創造者は、七色の光を守るため、自らの名前を記録から消すことを選んだ』
「第六の創造者……?」
アヤが声を上げた。
「待って。創造に関わったのは、ユウマ、レイ、フィリア、アステル、ノア……。でも、六人目がいたってこと?」
レイがページを何度も確認した。
確かに、記録には六人目の存在が示されていた。
だが、肝心の名前があるはずの場所だけ、黒く塗りつぶされている。
「この部分、誰かが消したんだ」
カナタが顔をしかめた。
アステルは黙ったまま、黒い文字の跡を見つめていた。
「アステル……何か思い出したの?」
アヤが尋ねる。
「いや……まだ分からない。でも、この筆跡には見覚えがある気がする」
その瞬間、本のページが激しくめくれ始めた。
バサバサバサッ!
黒く塗りつぶされた部分から、黒い霧が立ち上る。
「みんな、離れて!」
フィリアが叫んだ。
黒い霧は空中で人の形になり、やがて黒いマントをまとった人物へと変わった。
その人物は、白い仮面を顔に着けていた。
「ここまでたどり着いたか」
低い声が図書館に響く。
ユウマは一歩前へ出た。
「お前は何者だ! 六人目の創造者なのか?」
人物はすぐには答えなかった。
代わりに、机の上の本を指さした。
「その名前を知れば、お前たちは第∞世界の真実を知ることになる。しかし、真実を知ったとき、今まで信じてきたものが崩れるかもしれない」
「それでも知りたい!」
ユウマは迷わず答えた。
「俺たちは、誰かに決められた未来じゃなく、自分たちで未来を選びたいんだ!」
黒いマントの人物は、しばらくユウマを見つめた。
そして、ゆっくりと仮面に手をかけた。
しかし、その瞬間――。
図書館全体が大きく揺れた。
本棚から何千冊もの本が飛び出し、空中で渦を巻く。
机の上の記録書がひとりでに閉じ、表紙に新たな文字が浮かび上がった。
『第六の創造者の名前を読むには、最後の記憶を取り戻せ』
「最後の記憶……?」
アステルがつぶやいた。
黒いマントの人物は仮面から手を離し、後ずさった。
「時間切れだ。次の境界で、その記憶を探せ」
「待て! 逃げるな!」
ユウマが駆け出したが、人物の姿は黒い霧となって消えてしまった。
同時に、床の中央に新しい道が現れた。
その道の先には、巨大な扉が浮かんでいる。
扉には、七色の光でこう刻まれていた。
『第五の境界――名前を持たない庭園』
そして、アステルの手の甲に、見たことのない紋章が浮かび上がった。
それは、創造者の記録に描かれていた六人目の人物の紋章と、まったく同じ形をしていた。
「どうして……僕の手に、この紋章が……?」
アステルは震える声でつぶやいた。
ノアが彼の隣に立つ。
「アステル。もしかしたら、君はその人のことを知っているのかもしれない」
アステルは答えなかった。
ただ、消された名前が記されていたページを見つめ続けていた。
そのページの隅に、小さな文字が一つだけ残っている。
それは、名前の最初の一文字のように見えた。
――「エ」。
ユウマたちは顔を見合わせた。
失われた創造者の正体に、ほんのわずかだが近づいたのだった。
次回、「名前を持たない庭園! 消えた創造者の記憶」
花も木も名前を失った不思議な庭園。そこでは、誰かを名前で呼ぶたびに、その人の大切な記憶が少しずつよみがえるという。アステルの手の紋章が導く先で、ユウマたちは六人目の創造者につながる記憶を探す!




