再会したアステル!七つ目の星の目覚め
忘却の境界に、七つ目の星から放たれた光が広がっていく。
地面に並ぶ無数の時計が一斉に動き出し、灰色だった空には、かつて失われた世界の風景が次々と映し出された。
その中心に立つのは、銀色の髪の少年――アステル。
そして、どこからともなく響く、もう一人の少年の声。
『アステル。今度こそ、僕を忘れずにいてくれる?』
「ノア……!」
アステルは空を見上げた。
「忘れるわけがない! 僕はずっと、君のことを思い出そうとしていたんだ!」
しかし、声の主は姿を現さなかった。
『本当に? だったら、どうして僕は一人でここにいるの?』
「それは……!」
アステルは言葉を詰まらせた。
ユウマたちは顔を見合わせた。
「アステル、ノアはどこにいるんだ?」
ユウマが尋ねると、アステルは足元の黒い輪を指さした。
「ノアは、この輪の向こう側にいる。僕が境界の中に入ったとき、彼の記憶も一緒に閉じ込められてしまったんだ」
「記憶が閉じ込められた?」
アヤが聞き返す。
「そう。ノアは、世界と世界をつなぐ力を持っていた。でも、境界に大きなひずみが生まれたとき、彼はそれを止めようとした。その結果、ノアの存在そのものが、世界の記録から切り離されてしまったんだ」
フィリアは驚いた表情を浮かべた。
「だから、私たちの記録からノアの名前が消えていたのね……」
「それだけじゃない」
アステルは苦しそうに続けた。
「ノアが消えたことで、世界をつなぐ輪は、境界を守る本来の役割を果たせなくなった。僕は輪を安定させるために残ったけれど、完全には止められなかったんだ」
カナタは、黒い輪を見つめた。
「それで、黒い輪は世界を一つにまとめようとしていたのか?」
「そうだと思う。輪は、もう一度すべての世界をつなげば、ノアを取り戻せると考えている。でも、その方法では、それぞれの世界が持っている境界まで失われてしまう」
「そんなの、絶対に駄目だ!」
ユウマは強く言った。
「ノアを助けるために、ほかの世界の人たちが自分の世界を失うなんて、そんなの間違っている!」
アステルはユウマを見つめた。
その表情が、ほんの少しだけ和らいだ。
「……君なら、そう言ってくれると思っていた」
* * *
そのとき、七つ目の星が大きく輝いた。
黒い輪の中央に、小さな扉が現れる。
扉の向こうには、白い花が咲き誇る丘が広がっていた。
丘の上には、一人の少年が座っている。
銀色の髪。
胸元の星飾り。
そして、少し寂しそうな笑顔。
「ノア……!」
アステルが駆け出そうとした。
しかし、足元から黒い光が伸び、彼の進路を塞いだ。
『ここから先へは、アステル一人で来て』
少年の声が響く。
『ほかの人たちは、来ちゃいけない』
「どうしてだよ!」
ユウマが扉に向かって叫んだ。
『だって、これは僕とアステルの問題だから』
ノアの声は静かだった。
『僕がいなくなったせいで、みんなは困った。アステルは境界に残り、カナタは黒い輪に頼り、ユウマたちは僕のことさえ知らずに生きてきた』
扉の向こうで、ノアは顔を伏せた。
『だから、もう誰にも迷惑をかけたくないんだ』
「待って!」
ナナが一歩前に出た。
「ノアは、みんなに迷惑をかけたくないから、一人でいようとしているの?」
『……うん』
「でも、それじゃ寂しいよ!」
ナナの言葉に、ノアは顔を上げた。
「困ったときに誰かを頼るのは、悪いことじゃないよ。アステルだって、ずっと一人で頑張ってきたんだよね?」
アステルはうなずいた。
「僕は、みんなを守りたかった。でも、本当はずっと怖かった。境界が壊れたらどうなるのか、みんなを二度と会えなくしてしまうんじゃないかって……」
ルミがアステルのそばに立った。
「だったら、今度は私たちにも守らせてよ」
レイも続けた。
「世界の境界を守る方法は、一人で抱え込まなくても探せるはずだ」
「僕も協力する」
カナタが言った。
「僕は、アステルを取り戻したい一心で、黒い輪の力を利用しようとした。もう同じことはしない。今度は、みんなと一緒に方法を見つける」
ユウマは扉の向こうにいるノアを見つめた。
「ノア! 君がどんな事情を抱えていたとしても、僕たちは君を仲間として迎えたい!」
しばらく、返事はなかった。
やがてノアが、小さな声で尋ねた。
『……本当に、僕も一緒に行っていいの?』
「もちろん!」
ユウマは迷わず答えた。
「ただし、一つ約束してほしい」
『約束?』
「これからは、自分だけで全部を解決しようとしないこと。僕たちも、君と一緒に考えるから!」
ノアは驚いたように目を見開いた。
そして、少しずつ笑顔を取り戻した。
『……うん。約束する』
* * *
ノアが立ち上がると、扉の周囲に七つの星が浮かび上がった。
六つの星がアステルたちの足元を照らし、七つ目の星がノアの胸元で輝く。
七つの光は一本の道となり、黒い輪の中央へ伸びていった。
「道ができた!」
ソラが声を上げる。
しかし、フィリアはすぐに異変に気づいた。
「待って! この光……境界の力が急激に集まっているわ!」
道がつながった瞬間、忘却の境界に並ぶ時計が、次々と逆回転を始めた。
遠くの世界を映していた空には、黒い裂け目が広がっていく。
アステルが顔色を変えた。
「そんな……。ノアと僕の道がつながったことで、境界の力が一気に動き出したんだ!」
「どうすればいいの?」
ミオが尋ねた。
「七つの星を安定させなければならない。でも、今の僕たちだけでは……」
「だったら、全員でやろう!」
ユウマは仲間たちに呼びかけた。
「四つの星を目覚めさせたときだって、みんなの力があったからできたんだ。今回もきっとできる!」
フィリアがうなずいた。
「ユウマの言うとおりよ。七つの星を、それぞれの世界につながる光として安定させるの!」
レイとカナタが左右に分かれ、ルミとアヤ、ナナ、ハル、ミオ、ソラもそれぞれの位置についた。
ユウマはアステルに手を伸ばした。
「アステル! ノアのところまで道をつないでくれ!」
「分かった!」
アステルが手を掲げると、白い光が黒い輪へ流れ込んだ。
ノアもまた、扉の向こうから両手を伸ばした。
『今度こそ、みんなと一緒に!』
七つの星が一斉に輝いた。
黒い輪に刻まれていたひびが、一つ、また一つと消えていく。
黒い光は少しずつ薄まり、その奥から本来の白い輝きが戻ってきた。
やがて、忘却の境界を覆っていた黒い裂け目が閉じた。
時計の針も、ゆっくりと正常な動きへ戻っていく。
「やった……!」
ナナが笑顔を浮かべた。
扉の向こうでは、ノアが一歩ずつこちらへ歩いてきていた。
そして、ついに――。
ノアは、ユウマたちのいる場所へ足を踏み入れた。
「……初めまして、ユウマ」
ノアは少し照れくさそうに笑った。
「それから、みんな。僕のことを見つけてくれて、ありがとう」
ユウマはノアの手を握った。
「ようこそ、ノア。これからは一緒に進もう!」
アステルもノアの隣に立った。
二人はしばらく見つめ合い、やがて力いっぱい抱き合った。
「ごめん、アステル。ずっと一人にしてしまって……」
「僕こそ、ごめん。もっと早く君を助ける方法を探すべきだった」
「もういいよ。これからは一緒だから」
その光景を見て、ルミはそっと目元をぬぐった。
カナタも、ほっとしたように息を吐いた。
ようやく、失われていた二人のつながりが戻ったのだ。
だが、そのときだった。
白く戻った黒い輪の中央に、見知らぬ文字が浮かび上がった。
『第一の境界、修復完了』
『残る境界、五つ』
「……五つ?」
レイが眉をひそめた。
「どういう意味だ? 境界は一つじゃなかったのか?」
ノアの笑顔が消えた。
「そんな……。まさか、あのときのひずみが、ほかの場所にも残っているの?」
フィリアは文字を見つめながら、静かに答えた。
「おそらく、黒い輪が世界を一つにまとめようとしていた原因は、まだ完全には取り除かれていないのね」
ユウマは仲間たちを見渡した。
「だったら、残りの境界も修復しよう。アステルとノアが戻ってきた今なら、きっとできる!」
全員がうなずいた。
その背後で、白い輪が一瞬だけ黒く光った。
誰も気づかなかった、その小さな変化。
そして、遠く離れた場所では、黒いマントの人物が古びた星飾りを握りしめていた。
「ノアが戻ったか……。だが、これで終わりではない」
人物の前に、六つの扉が浮かび上がった。
「残る五つの境界を越えたとき、彼らは本当の選択を迫られる」
その声は、静かな空間に消えていった。
次回、「残る五つの境界! 白い輪に潜む謎」
ノアとアステルが仲間たちに合流し、七人目の星が目覚めた。しかし、修復すべき境界はまだ五つ残されている。そして、白い輪に一瞬だけ現れた黒い光の正体とは……?




