七人目の影!消された約束
黒い輪が脈打つ部屋で、ユウマたちは記録帳を見つめていた。
そこには、六人の仲間と、彼らの背後に立つ七人目の影が描かれている。
影の顔だけは、黒い霧に覆われていた。
「この人……いったい誰なの?」
ナナが不安そうに尋ねた。
フィリアは記録帳のページをめくろうとした。しかし、指先が触れた瞬間、ページ全体が光り、見知らぬ文字が浮かび上がった。
「文字が変わった……!」
ミオが驚いて声を上げる。
そこに記されていたのは、たった一行だった。
『七人目は、世界をつなぐために生まれ、世界を守るために忘れられた』
「忘れられた……?」
ルミは、記録帳の絵をじっと見つめた。
「アステルも、みんなの記憶から消されていたよね。この人も、同じように消されたのかな?」
「可能性はある」
レイが答えた。
「けれど、アステルの場合は境界を安定させるためだった。七人目にも、何か特別な役割があったのかもしれない」
カナタは、黒い輪を見つめながらつぶやいた。
「もし、この人が黒い輪の秘密を知っているなら、アステルを救う方法も知っているかもしれない」
「だったら、早く探そう!」
ソラが一歩踏み出した。
その瞬間、部屋の奥から声が響いた。
『探しても、見つからないよ』
全員が振り返った。
誰もいないはずの壁に、七人目の影が映し出されていた。
影はゆっくりと顔を上げた。
『だって、みんなが僕を忘れることを選んだんだから』
「待って! あなたは誰なの?」
ユウマが問いかける。
影は答えず、片手を掲げた。
すると、部屋の床が透明になり、過去の光景が映し出された。
* * *
遠い昔。
幼い六人は、完成したばかりの白い輪を囲んでいた。
その輪の前に、一人の少年が立っている。
銀色の髪。穏やかな瞳。そして、胸元には小さな星の飾り。
少年は六人に向かって笑った。
『これで、どんな世界にも道をつなげられるね』
幼いユウマがうなずく。
『ああ! これから、いろんな世界の人たちが友達になれるんだ!』
幼いレイは、慎重に輪を調べていた。
『でも、境界を守る仕組みが必要だ。道が増えすぎたら、世界同士がぶつかるかもしれない』
少年は、胸元の星飾りを外した。
『だったら、僕が境界の管理を手伝うよ。この星を輪の中心に置けば、世界の間に生まれるひずみを見つけられるはずだ』
フィリアが心配そうに尋ねた。
『でも、それをしたら、あなたはどうなるの?』
少年は少しだけ考え、それから笑った。
『大丈夫。僕は、みんなが作った道を見守るだけだから』
六人は少年を信じていた。
少年もまた、六人を信じていた。
しかし、ある日。
白い輪の中心に、今まで見たことのない暗い裂け目が現れた。
世界と世界の境界が、次々に揺らぎ始めたのだ。
『このままじゃ、道が全部つながってしまう!』
レイが叫ぶ。
『輪を止めなきゃ!』
カナタが輪に手を伸ばした。
だが、少年は首を横に振った。
『輪を止めたら、すでにつながった世界まで切り離されてしまう。そうなったら、向こう側にいる人たちが帰れなくなるんだ』
『じゃあ、どうすればいいんだよ!』
ユウマが叫んだ。
少年は、白い輪の中心へ歩き出した。
『僕が、境界の中に入る』
『そんなの駄目だ!』
幼いルミが少年の手をつかんだ。
『ほかの方法を考えようよ! みんなで一緒に!』
少年は悲しそうに笑った。
『ありがとう。でも、今は時間がないんだ』
そして、少年は輪の中へ飛び込んだ。
白い光が世界を包み込んだ。
境界の揺らぎは止まり、世界同士が衝突する危機は去った。
けれど、少年の姿は消えていた。
残された六人は、何度も少年の名前を呼んだ。
そのたびに、記憶の中から名前が薄れていった。
やがて、白い輪には黒いひびが刻まれた。
少年の星飾りだけが、輪の中心に残されていた。
* * *
「そんな……」
アヤが、映像の消えた床を見つめた。
「この少年が、黒い輪の中心に入ったの?」
「でも、どうして名前まで消えたんだ?」
ハルが尋ねた。
フィリアは苦しそうに目を閉じた。
「映像の最後に、記憶を消す魔法が働いていたわ。誰かが意図的に、少年の存在を記録から消したのよ」
「誰がそんなことを……?」
ミオの問いに、フィリアは首を横に振った。
「まだ分からない。でも、あの魔法は少年を守るために使われた可能性もある」
ユウマは、記録帳の影を見つめた。
「この人は、自分から境界の中に入った。みんなを守るために……」
カナタが、ゆっくりとうなずいた。
「アステルと似ている。誰かを守るために、自分がいなくなることを選んだんだ」
「でも、僕たちはもう、同じことを繰り返さない」
ユウマは、はっきりと言った。
「アステルも、この七人目の人も、なかったことになんかさせない!」
その言葉に反応するように、四つの星が輝いた。
星の光は記録帳に集まり、七人目の影の胸元を照らした。
すると、黒い霧の一部が晴れた。
少年の胸元には、星の形をした飾りがあった。
その中央には、小さな文字が刻まれていた。
「名前……?」
ルミが身を乗り出す。
だが、文字は途中で途切れていた。
読み取れたのは、最初の一文字だけ。
――「ノ」。
その瞬間、黒い輪が激しく震えた。
部屋の壁に亀裂が走り、黒いマントの人物が叫んだ。
「離れろ! 記録が目覚め始めている!」
「どういうことだ?」
レイが尋ねる。
「七人目の記憶が戻れば、黒い輪は自分が何を守ろうとしていたのかを思い出す。だが同時に、封じられていた境界のひずみも目覚める!」
床の向こう側で、世界と世界の間に黒い裂け目が広がっていく。
遠くの世界では、空に浮かぶ島が揺れ、海の世界では巨大な渦が生まれ、魔法の世界では光の道が次々に点滅していた。
「このままじゃ、ほかの世界まで危ない!」
ソラが叫んだ。
「みんな、四つの星を!」
フィリアの指示に従い、ユウマたちは星の光を集めた。
四つの光が重なり、黒い裂け目の前に大きな結界を作り出す。
しかし、裂け目は少しずつ結界を押し広げていた。
「持ちこたえられない……!」
ナナが必死に光を送り込む。
カナタはユウマの隣に立った。
「僕も手伝う! 今度こそ、逃げない!」
「頼む、カナタ!」
全員の力が一つになった。
結界は再び輝きを取り戻し、裂け目の広がりが止まった。
けれど、そのとき。
記録帳から、少年の声が聞こえた。
『ありがとう……』
ユウマたちは顔を上げた。
『でも、気をつけて。僕の名前を思い出すだけでは、何も解決しない』
「どういうことだ?」
ユウマが尋ねる。
『黒い輪は、僕を閉じ込めた檻じゃない。僕が、みんなを守るために残した最後の道なんだ』
少年の影が、ゆっくりと手を伸ばした。
『そして、その道の向こうには……僕がずっと待っている場所がある』
映像が消えた。
記録帳の最後のページには、新しい地図が浮かび上がっていた。
そこに描かれていたのは、世界と世界の間に存在する、名前のない小さな世界。
地図の中央には、星飾りと同じ形の印がある。
そして、その下に文字が浮かんだ。
『第七の道――忘却の境界』
「ここに行けば、七人目の正体も、アステルを救う方法も分かるかもしれない」
ユウマは仲間たちを見渡した。
「行こう。今度こそ、誰一人として置いていかない!」
全員が力強くうなずいた。
その背後で、黒いマントの人物は小さくつぶやいた。
「ノ……。まさか、あの子の名前が、まだ残っていたとは」
人物の手のひらには、古びた星飾りが握られていた。
それは、記録帳に描かれた少年のものと、まったく同じ形をしていた。
そして星飾りの裏側には、消えかけた文字が刻まれていた。
――ノア。
次回、「忘却の境界! 七人目の少年ノア」
七人目の名前は、ノア。彼はなぜ世界の記録から消えたのか。そして、黒いマントの人物は、ノアとどんな関係があるのだろうか?




