世界の始まり!黒い輪が生まれた日
巨大な扉の向こう側には、空も大地もない、不思議な空間が広がっていた。
足元には透明な道がどこまでも続き、その下では無数の世界が星のように輝いている。森の世界、海の世界、魔法の世界、そして、まだ誰も知らない世界。
「ここが……第∞世界の本当の始まりなのか」
ユウマは息をのんだ。
先頭を歩いていた黒いマントの人物は、振り返らずに答えた。
「そうだ。すべての世界が、まだ互いに交わることのなかった時代。この場所で、最初の道が生まれた」
フィリアは周囲を見渡し、驚いたようにつぶやいた。
「こんな場所があったなんて……。私たちが知っている第∞世界より、ずっと古い」
「フィリア、何か感じるのか?」とレイ。
「ええ。ここには、私たちが作った道の魔力とよく似た力がある。でも、それだけじゃない。もっと古くて、もっと大きな力……」
そのとき、透明な道の中央に、四つの星が浮かび上がった。
これまでに目覚めた四つの星だった。
四つの光はゆっくりと回転し、その中心に黒い輪の紋章を映し出した。
「黒い輪……!」
ナナが思わず声を上げる。
カナタは一歩前に出た。
「やっぱり、すべては黒い輪につながっているんだな」
「けれど、妙だな」
ハルは腕を組んだ。
「黒い輪が世界を一つにまとめようとしているなら、どうしてこんな場所に、世界をつなぐ道が残されているんだ?」
「それを知るために、ここへ来たんだよ」
ユウマはそう答え、黒いマントの人物に向き直った。
「教えてくれ。黒い輪は、誰が作ったんだ?」
人物はしばらく黙っていた。
やがて、空間の奥にある巨大な壁へと歩き出した。
「まずは、目で確かめるといい」
壁には、古びた絵が刻まれていた。
最初の絵には、まだ形の定まらない世界が描かれていた。世界と世界の間には、何もない暗闇が広がっている。
二つ目の絵では、暗闇に小さな光が生まれていた。
三つ目の絵では、その光から細い道が伸び、離れた世界同士を結び始めていた。
そして、四つ目の絵。
そこには、光り輝く輪が描かれていた。
「これは……黒い輪なのか?」
ソラが尋ねると、フィリアは壁にそっと手を触れた。
「いいえ。最初の輪は黒くないわ。むしろ、白く輝いている……」
ミオが絵をじっと見つめた。
「じゃあ、どうして今は黒くなっているの?」
誰も答えられなかった。
その瞬間、壁の絵が淡い光を放ち始めた。
周囲の景色が揺らぎ、全員の目の前に、遠い昔の光景が広がった。
そこには、幼いユウマ、レイ、フィリア、ルミ、カナタ、そしてアステルの姿があった。
「これは……僕たちの記憶なのか?」
ユウマは目を見開いた。
映像の中の六人は、今よりもずっと幼かった。
彼らの前には、白い輪が浮かんでいた。
『この輪があれば、世界と世界をつなげられるんだね』
幼いルミが、目を輝かせて言った。
『うん。でも、世界を一つにするわけじゃない。それぞれの世界が、それぞれのままでいられるようにするんだ』
幼いユウマが答える。
レイは白い輪の周囲を調べ、フィリアは魔力の流れを記録していた。カナタとアステルは、世界同士を結ぶ道の試験を担当していた。
六人は笑いながら、何度も実験を繰り返していた。
そこにあったのは、支配でも争いでもない。
ただ、遠く離れた世界の人々が出会えるようにしたい、という願いだった。
「私たち……こんなふうに始めたんだ」
ルミは胸元に手を当てた。
しかし、映像は突然変化した。
白い輪に、細かなひびが走ったのだ。
『待って! 道の向こう側から、何かが流れ込んでくる!』
アステルの声が響いた。
白い輪の中心に、黒い小さな影が現れた。
影は輪を壊そうとしているようには見えなかった。ただ、世界と世界の境界に生じたひずみを吸い込んでいた。
ところが、ひずみを吸い込むたびに、輪の光は弱くなっていった。
『このままじゃ、道が全部つぶれてしまう!』
カナタが叫んだ。
『輪を守るには、境界の力を集めなきゃ!』
アステルは白い輪の前に立った。
『僕が境界に残る。みんなは道を守って!』
映像の中の六人が、必死に手を伸ばした。
だが、次の瞬間、まばゆい光があふれ、映像は途切れてしまった。
「アステル……!」
ユウマが叫んだ。
目の前の壁には、白い輪が黒く染まっていく最後の場面だけが残されていた。
カナタは拳を握りしめた。
「僕は、アステルがいなくなった理由を知りたかった。だから、黒い輪に頼ってしまった。でも……あのとき、何が起きたのか、まだ全部は分かっていなかったんだ」
「今の映像を見れば、黒い輪は最初から世界を支配するためのものじゃなかったみたいね」
アヤが慎重に言った。
「境界を守ろうとしていた。でも、何かが起きて、変わってしまった……」
ナナは四つの星を見上げた。
「それなら、元の姿に戻す方法もあるのかな?」
「あるかもしれない」
フィリアは答えた。
「でも、輪が黒く染まった原因を突き止めなければ、同じことが起こるわ」
そのとき、壁の奥から低い音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……!
壁の一部がゆっくりと開き、その向こうに小さな部屋が現れた。
部屋の中央には、白と黒の二つの輪が置かれていた。
白い輪はかすかに光り、黒い輪はまるで生き物のように脈打っている。
そして、その間には、一冊の古い記録帳があった。
「記録帳だ!」
ショウの代わりに、ソラが駆け寄ろうとした瞬間、黒い輪から細い影が伸び、床に文字を浮かび上がらせた。
『六人の約束を思い出せ。境界を壊したのは、外から来た敵だけではない』
「外から来た敵だけではない……?」
レイの表情が険しくなった。
「まさか、僕たちの誰かが原因だったというのか?」
黒いマントの人物が、初めてこちらを振り返った。
「原因という言葉だけでは足りない。世界を守ろうとした者たちの願いが、すれ違ったのだ」
「だったら、そのすれ違いを正せばいい!」
ユウマは迷わず言った。
「過去に何があったとしても、アステルを取り戻す方法を探す。世界を一つにして自由を奪うんじゃなくて、みんなが自分の世界で生きられる方法を見つけるんだ!」
アヤがうなずいた。
「うん。誰か一人を犠牲にする答えじゃなくて、みんなで考えよう」
「私も賛成!」とナナ。
「記録帳を調べれば、手がかりが見つかるはずだ」とハル。
ミオとソラも、ルミも、レイも、フィリアも、カナタも、それぞれの思いを胸にうなずいた。
ユウマが記録帳を開こうとした、その瞬間――。
黒い輪が激しく震えた。
部屋いっぱいに黒い光が広がり、記録帳の表紙に、見覚えのない名前が浮かび上がった。
その名を見たフィリアは、息をのんだ。
「そんな……。この名前が、ここに記されているなんて……」
「フィリア、誰の名前なんだ?」
ユウマが尋ねる。
フィリアはすぐには答えなかった。
やがて、震える声で言った。
「これは……私たちが、最初の記録から消したはずの名前よ」
黒いマントの人物が、ゆっくりとうなずいた。
「そうだ。その名こそ、黒い輪が生まれた日の真実へつながる、最後の鍵だ」
記録帳がひとりでに開く。
そこには、六人の約束と、そのすぐ下に、七人目の影が描かれていた。
誰も知らないはずの、もう一人の仲間。
そして、その影の手には――黒く染まる前の白い輪が握られていた。
次回、「七人目の影! 消された約束」
世界の始まりに隠されていた、もう一人の存在。六人が交わした約束には、いったい何が記されていたのか?




