カナタの記録!失われた名前の真実
四つの星が輝く名前のない世界。
ユウマたちは、名前を失った少年を元の世界へ連れ戻すため、未来の世界にいるカナタを訪ねることにした。
「カナタなら、きっと何か知っているはずだよ」
ユウマがそう言うと、少年は小さくうなずいた。
「うん。でも、気をつけて。カナタは僕の名前を知っている。それなのに、ずっと話せずにいたんだ」
「どうして話せなかったんだろう?」
アヤが首をかしげる。
「それは、カナタ自身も本当のことを思い出せていないからかもしれない」
フィリアが答えた。
「黒い輪は、記憶を消すだけじゃない。人によっては、忘れた記憶を別の記憶に置き換えることもできるのよ」
「だったら、カナタの記憶を確かめれば、名前がわかるかもしれないね!」
ナナが笑顔で言った。
ユウマたちは四つの星の光を頼りに、時計の広間へと戻った。
すると、未来の扉がひとりでに開いた。
扉の向こうには、あの巨大な塔が見える。
「みんな、行こう!」
ユウマたちは再び未来の世界へ足を踏み入れた。
## 未来の塔、再び
塔の内部では、無数の文字が空中を流れていた。
しかし、前回来たときとは様子が違っている。
壁に刻まれていた未来の記録が、ところどころ白紙になっていたのだ。
「記録が消えている……」
ミオが壁に触れた。
すると、文字の一部が光となって浮かび上がり、彼女の手のひらに集まった。
「これは……誰かの思い出?」
光の中に、一人の少年が映し出された。
銀色の髪。
星の形をしたペンダント。
そして、笑顔で手を振るカナタの姿。
その少年は、名前のない少年によく似ていた。
「やっぱり、二人は深い関係があるんだ!」
ハルが声を上げた。
「でも、どうして同じ記憶が別々の場所に残っているんだろう?」
ソラが考え込む。
そのとき、階段の上から声が聞こえた。
「君たちなら、ここへ来ると思っていたよ」
カナタだった。
彼は以前と同じ銀色の髪を揺らしながら、ゆっくりと階段を下りてきた。
「カナタ!」
ユウマが駆け寄った。
「聞きたいことがあるんだ。名前のない少年のことを知っているんだよね?」
カナタの表情が曇った。
「ああ。知っているよ」
「だったら、教えてほしい。あの子の名前は何なんだ?」
カナタはすぐには答えなかった。
やがて、胸元の黒いペンダントを握りしめた。
「その名前を口にすると、僕の中に封じられた記憶が動き始める。だから、ずっと避けていたんだ」
「でも、もう逃げなくていいんじゃないかな」
ルミが静かに言った。
「私たちも、忘れていたことを少しずつ思い出している。つらい記憶でも、みんなで受け止められるよ」
カナタはルミを見つめた。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……わかった。ついてきて」
## 記憶の保管室
カナタが案内したのは、塔の地下にある小さな部屋だった。
そこには、四つの星を描いた壁画が飾られていた。
壁画の中央には、五人の子どもが並んでいる。
ユウマ。
レイ。
フィリア。
ルミ。
そして、カナタ。
その隣には、銀色の髪の少年も描かれていた。
「六人……?」
アヤが驚いた。
「でも、四人目の約束とか、名前を失った仲間とか、今までの話では……」
「そう。僕たちは、最初から六人で世界をつなぐ方法を考えていたんだ」
カナタが壁画を見上げた。
「ユウマとレイとフィリアとルミ。それに僕と、あの少年。みんなで協力して、第∞世界を作ったんだよ」
「じゃあ、どうしてあの子だけ、記録から消えたの?」
ナナが尋ねる。
カナタは部屋の奥にある水晶へ手をかざした。
すると、過去の映像が浮かび上がった。
世界の境界が不安定になった日。
六人は、世界をつなぐ力を制御しようとしていた。
しかし、黒い輪が現れ、すべての世界を一つにしようとした。
「黒い輪は、世界をつなぐ力を利用して、境界を消そうとしたんだ」
カナタが説明する。
「僕たちはそれを止めようとした。でも、境界を安定させるには、誰かが世界と世界の間に残り、つながりを守り続けなければならなかった」
映像の中で、銀色の髪の少年が一歩前に出た。
『僕が、その役目を引き受けるよ』
幼いカナタが、慌てて少年の腕をつかむ。
『だめだ! そんなことをしたら、みんなと会えなくなる!』
少年は微笑んだ。
『会えなくなっても、みんなが自由に世界を行き来できるなら、それでいいんだ』
「それが、あの子の選んだ道だったんだね……」
ミオがつぶやいた。
カナタはうなずいた。
「でも、僕は納得できなかった。あの子がいなくなるなんて、絶対に嫌だったんだ」
映像の中のカナタは、少年を引き止めていた。
『僕が代わりになる!』
しかし、少年は首を横に振った。
『カナタ、君には別の役目がある。いつか、ユウマたちが迷ったときに、もう一度道を示してあげてほしい』
カナタは泣きそうな顔をしていた。
それでも、少年の決意は変わらなかった。
やがて、少年の姿は四つの星の光に包まれ、世界の境界へと消えていった。
映像が終わった。
部屋は静まり返っていた。
「僕は……あの子を守りたかった」
カナタの声が震えた。
「だから、黒い輪に頼ったんだ。世界を一つにしてしまえば、あの子を境界から連れ戻せると思ったから」
ユウマは驚いた。
「カナタ……。君が黒い輪に協力していたのは、あの子を助けたかったからなの?」
「そうだよ。でも、僕は間違っていた。世界を一つにすれば、確かに離れ離れになることはなくなるかもしれない。でも、それぞれの世界で生きている人たちの選択まで奪ってしまう」
カナタは顔を伏せた。
「わかっていたのに、あの子を失いたくなくて、目をそらしてしまったんだ」
ユウマは、カナタの肩に手を置いた。
「まだ、やり直せるよ。あの子を助ける方法だって、ほかにあるはずだ!」
「……本当に?」
「うん。僕たちも一緒に探す!」
アヤたちも、力強くうなずいた。
カナタは驚いた顔をしたあと、少しだけ笑った。
「ありがとう、ユウマ」
## 失われた名前
カナタは水晶の前に立ち、目を閉じた。
「ずっと忘れようとしていた。でも、もう忘れない」
彼は、銀色の髪の少年が映る水晶に手を伸ばした。
「君の名前は……」
水晶が輝いた。
その瞬間、カナタの頭の中に、少年と過ごした日々がよみがえった。
一緒に世界の地図を描いたこと。
初めて境界を越えたこと。
星の木の下で約束したこと。
そして、別れ際に交わした言葉。
『カナタ、僕の名前を忘れないで』
『忘れるもんか! 絶対に忘れない!』
『ありがとう。いつか、また会おうね』
カナタの目から、光る涙がこぼれた。
「……思い出した」
彼は少年の名前を、ゆっくりと口にした。
「君の名前は――**アステル**だ」
その瞬間、塔全体が大きく輝いた。
名前のない世界にいた少年の胸元にも、星の形をした文字が浮かび上がる。
**『アステル』**
遠く離れた場所で、アステルが顔を上げた。
「僕の名前……!」
彼の姿が、今まで以上にはっきりと輝き始めた。
「そうだ。僕はアステルだ!」
四つの星が空に浮かび、アステルの周りを回り始めた。
ユウマのペンダントも強く輝いた。
「やった! 名前を取り戻したんだ!」
しかし、その喜びも長くは続かなかった。
塔の壁に、黒い亀裂が走った。
カナタが振り返る。
「そんな……。名前が戻ったことで、黒い輪に気づかれたんだ!」
黒い光が水晶を覆い、あの声が響いた。
『カナタ。約束を忘れたわけではなかったのだな』
黒いローブの人物が、壁の向こうから姿を現した。
「だが、アステルを戻せば、境界は再び不安定になる。お前たちは、本当にその結果を受け入れられるのか?」
ユウマは前へ出た。
「アステルを助けることと、世界を守ること。その両方を実現する方法を探す!」
黒い人物は静かに笑った。
「ならば、最後の場所へ来るがいい。そこに、境界が壊れた本当の理由が残されている」
黒い亀裂が広がり、塔の壁に巨大な扉が現れた。
扉には、見たことのない紋章が刻まれている。
その中央には、黒い輪と四つの星が描かれていた。
フィリアが息をのんだ。
「これは……世界の境界が最初に壊れた場所へ続く扉よ」
レイがうなずいた。
「すべての始まりを確かめるときが来たんだな」
ユウマは仲間たちを見渡した。
「行こう。アステルを助けて、黒い輪の秘密を解き明かすんだ!」
カナタも一緒にうなずいた。
「今度こそ、僕も逃げない。みんなと一緒に最後まで向き合うよ」
扉が開き、向こう側からまばゆい光があふれ出した。
その光の中に、一人の人物の影が見えた。
黒いローブをまとった人物が、静かに振り返る。
そして、ユウマたちが今まで一度も聞いたことのない声で告げた。
「ようこそ。ここが、第∞世界の本当の始まりだ」
次回、「世界の始まり! 黒い輪が生まれた日」へ続く。




