四つ目の扉!名前のない仲間
時計の広間に、四つ目の扉が現れた。
過去、現在、未来――三つの世界を巡ってきたユウマたちは、今まで存在しなかった扉を前にして、立ち尽くしていた。
扉の中央には、小さな星の紋章が輝いている。
そして、その向こうから聞こえてきた懐かしい声。
『やっと、ここまで来たね。みんな』
「この声……誰なんだ?」
ユウマは胸元のペンダントを握りしめた。
ペンダントの星が、扉の光に呼応するように輝いている。
「ユウマ、そのペンダントを扉に近づけてみて」
ルミがそっと促した。
ユウマがペンダントを扉に近づけると、星の紋章が大きくなり、四つの光が広間に広がった。
すると、扉に文字が浮かび上がった。
**『四人目の約束を確かめる者よ。自分の心で扉を開け』**
「四人目の約束……。やっぱり、僕たちが忘れていることと関係しているんだ」
フィリアがうなずいた。
「過去の世界では、私たちが第∞世界を作った理由を知った。現在の世界では、ルミが記憶を守っていたことを知った。そして未来の世界では、カナタとユウマの約束が明らかになった」
「でも、まだ全部はつながっていないんだね」
ナナが言った。
「うん。だから、この扉の向こうに答えがあるのかもしれない」
ユウマは仲間たちを見渡した。
「みんな、一緒に行こう!」
七人が扉に手をかざすと、星の紋章がまばゆく輝いた。
扉が、ゆっくりと開いた。
## 名前のない世界
扉の向こうには、どこまでも続く草原が広がっていた。
青い空には、七色の星が浮かんでいる。
遠くには小さな丘があり、その上に一本の大きな木が立っていた。
「わあ……きれいな場所!」
アヤが感嘆の声を上げた。
しかし、奇妙なことに気づいた。
「ねえ、あの木……葉っぱが全部、星の形をしているよ」
木の葉は風に揺れるたび、小さな光を放っていた。
ソラが空を見上げる。
「空に星が浮かんでいるのに、太陽もある。ここは普通の世界じゃなさそうだ」
「ここは、名前を与えられなかった可能性が集まる場所よ」
フィリアが説明した。
「誰かが選んだ未来だけでなく、選ばれなかった未来や、記録に残らなかった出来事も、ここに流れ着くの」
「じゃあ、ここには、僕たちが忘れてしまった記憶もあるのかな?」
「きっとね」
一行は丘の上の木を目指して歩き始めた。
すると、草むらから小さな光の玉が飛び出してきた。
光の玉はユウマの周囲をくるくると回り、やがて人の形に変わった。
現れたのは、銀色の髪をした少年だった。
年齢はユウマたちと同じくらいに見える。
少年は、少し照れくさそうに笑った。
「久しぶり、ユウマ」
ユウマは驚いて目を見開いた。
「君が……僕たちを呼んだの?」
「うん。ずっと待っていたんだ」
「君の名前は?」
少年は答えようとした。
しかし、口を開いた瞬間、周囲の空気が震えた。
少年の姿が一瞬だけ薄くなる。
「……ごめん。僕には、名前がないんだ」
「名前がない?」
少年は寂しそうにうなずいた。
「昔はあったはずなんだけどね。世界の記録から消されたとき、一緒に失われてしまったんだ」
レイが少年をじっと見つめた。
「お前……まさか、あのときの……」
少年はレイに視線を向けた。
「レイ。久しぶりだね」
レイは言葉を失った。
フィリアも少年の顔を見つめている。
「そんな……。あなたが、ここにいたなんて……」
「二人とも、知っているの?」
ミオが尋ねた。
しかし、レイもフィリアもすぐには答えられなかった。
少年は丘の上の木を指さした。
「みんなに見てもらいたいものがあるんだ。こっちへ来て」
## 星の木に残された記録
木の根元には、小さな石の台座があった。
台座の中央には、星形のくぼみが四つ並んでいる。
そのうち三つには、すでに光が宿っていた。
残る一つだけが、空白になっている。
ユウマのペンダントが、再び輝いた。
「この形……僕のペンダントと同じだ!」
「そう。ここに、君たちが忘れてしまった約束が残されている」
少年は台座の前に立った。
「昔、僕たちはこの場所で、四つの星を作ったんだ」
「四つの星?」
「過去を記録する星。現在を守る星。未来を照らす星。そして――」
少年は最後のくぼみを見つめた。
「どの世界にも属さない者が、世界と世界をつなぐための星」
ルミが息をのんだ。
「それって……あなた自身のこと?」
少年は小さくうなずいた。
「僕は、世界の境界を越えて、みんなの声を届ける役目を持っていた。でも、ある日、黒い輪が現れた」
少年が手をかざすと、木の幹に映像が浮かび上がった。
幼いユウマ、レイ、フィリア、ルミ、そしてカナタ。
その五人の前に、銀髪の少年が立っていた。
幼いユウマは少年の手を握り、笑顔で言った。
『君がどの世界にいても、僕たちは君を仲間だと思っているよ!』
映像の中の少年は、嬉しそうに笑った。
だが、次の瞬間、黒い輪が空に現れた。
『境界を越える者は、すべての世界を一つにするための鍵となる』
黒い輪の声が響いた。
少年の体から、無数の光が空へと吸い上げられていく。
幼いユウマたちは、必死に少年を助けようとしていた。
しかし、少年は首を横に振った。
『大丈夫。僕のことは忘れてもいい。でも、みんなが自分で未来を選べる世界だけは、守ってね』
そして、少年の姿は光の中へ消えていった。
映像が終わった。
誰も、しばらく言葉を発することができなかった。
やがて、ユウマが少年に向き直った。
「君は……僕たちを守るために、記憶から消えたの?」
少年は静かにうなずいた。
「そうだよ。僕の存在が黒い輪に知られたままだと、世界をつなぐ鍵を奪われてしまう可能性があったからね」
「でも、どうして名前までなくなってしまったの?」
アヤが尋ねた。
「名前は、その人の存在を世界に結びつけるものだから。僕の名前が残っていれば、黒い輪は僕を見つけられた。だから、みんなで名前を封じたんだ」
フィリアが悲しそうに目を伏せた。
「私たちは、あなたを守るために……あなたのことを忘れたのね」
「うん。でも、僕はみんなを恨んでいないよ」
少年は微笑んだ。
「忘れられていた時間も、ここでずっと、みんなが自分たちの道を選ぶのを見守っていたから」
ユウマは一歩前へ出た。
「でも、もう一人で待たなくていい。君も一緒に帰ろう!」
少年は驚いた顔をした。
「僕が戻ったら、黒い輪に見つかるかもしれないよ?」
「それなら、一緒に対策を考えよう!」
ハルが元気よく言った。
「そうそう! ひとりで全部抱え込むのは禁止!」
ナナも笑顔で続けた。
「私たちは、仲間を守るために誰かを忘れるんじゃなくて、みんなで覚えていられる方法を探そう」
ミオの言葉に、ルミも強くうなずいた。
「あなたが守ってきた約束を、今度は私たちが守る番だよ」
少年は仲間たちを見つめた。
その瞳に、涙のような光が浮かんだ。
「……ありがとう」
## 四つ目の星
ユウマはペンダントを台座のくぼみに近づけた。
すると、胸元の星がふわりと浮かび上がり、四つ目のくぼみに収まった。
四つの星が、同時に輝き始めた。
草原を風が吹き抜ける。
星の木の葉が一枚ずつ光り、空へと舞い上がった。
そして、木の幹に新しい文字が刻まれた。
**『世界をつなぐ鍵は、四つの記憶と、これから交わす約束によって完成する』**
フィリアが文字を読み上げた。
「これで、鍵を完成させるために必要な条件がわかったわ」
レイはうなずいた。
「過去、現在、未来。そして、名前を失った仲間の記憶。この四つがそろえば、黒い輪に対抗できるかもしれない」
「でも、まだ最後の問題が残っているよ」
少年が静かに言った。
「黒い輪を動かしているのは、僕の力だけじゃない。あいつは、世界を一つにすることを望んでいる。だから、僕が戻るだけでは、すべては解決しないんだ」
「黒いローブの人物……カナタのそばにいた、あいつだね?」
ユウマが尋ねた。
少年はうなずいた。
「そう。あいつの正体を知ることが、最後の鍵になる」
その瞬間、空が暗くなった。
七色の星が、次々と黒い光に覆われていく。
星の木の幹に、黒い輪が浮かび上がった。
『名前のない者よ。まだ、戻るつもりか』
不気味な声が草原全体に響いた。
少年の表情がこわばった。
「……来た」
黒い輪から、一本の光が伸び、少年を包み込もうとする。
「させない!」
ユウマはペンダントを掲げた。
仲間たちも、それぞれの手を重ねる。
アヤ、ナナ、ハル、ミオ、ソラ、ルミ、レイ、フィリア。
全員の光が一つになり、黒い光を押し返した。
しかし、黒い輪は消えなかった。
『ならば、次はお前たちの絆を試そう』
声が響いた瞬間、草原の向こうに巨大な鏡が現れた。
鏡には、ユウマたちが映っている。
ただし、その鏡の中の仲間たちは、全員が黒いローブをまとっていた。
そして、鏡の中のユウマが、ゆっくりと口を開いた。
『本当に、その仲間を信じていいのか?』
ユウマは鏡を見つめた。
鏡の中の自分は、不敵な笑みを浮かべている。
その手には、黒い輪が握られていた。
名前のない少年が、震える声で言った。
「気をつけて……。次に始まるのは、記憶の試練じゃない」
「じゃあ、何なんだ?」
ユウマが尋ねる。
少年は鏡を見つめたまま答えた。
「君たちが、これまでの旅で築いてきた信頼そのものを試す試練だよ」
鏡の中で、黒いローブのユウマが笑った。
『さあ、選べ。誰を信じ、誰を疑う?』
鏡が大きく揺れ、七人の足元に亀裂が走った。
そして、名前のない少年の姿が、再び薄くなり始めた。
「みんな……僕の名前を思い出して」
少年が必死に叫んだ。
「名前を思い出せば、僕はこの世界に戻れる!」
ユウマは少年の手をつかんだ。
「大丈夫! 絶対に思い出す!」
しかし、名前だけが、どうしても浮かんでこなかった。
四つ目の星が、弱々しく点滅する。
鏡の向こうから、黒い声が響いた。
『思い出せるものなら、思い出してみろ』
ユウマは少年の手を強く握りしめた。
「待っていて。必ず、君の名前を取り戻すから!」
鏡が、まばゆい黒い光を放った。
次回、「鏡の試練! 仲間を信じる心」へ続く。




