未来の扉!選ばれなかった仲間
秘密の図書館から脱出したユウマたちは、再び三つの扉が並ぶ時計の広間へ戻ってきた。
過去の扉は静かに閉じられ、現在の扉には細かなひびが入っている。そして、最後に残された未来の扉だけが、金色の光を放っていた。
「ルミも一緒に戻ってこられてよかった……!」
アヤがルミの手を握った。
「心配かけてごめんね」
ルミは申し訳なさそうに微笑んだ。
「謝らなくていいよ。仲間なんだから!」
ハルが元気よく答えると、ルミの表情も明るくなった。
しかし、ユウマは未来の扉を見つめたままだった。
「さっきの黒いローブの人物が言っていたこと……。『選ばれなかった仲間』って、どういう意味なんだろう?」
「私たち以外にも、世界の始まりに関わった人がいたということかしら」
フィリアが考え込む。
レイも腕を組んだ。
「可能性はある。だが、そいつが味方なのか、それとも黒い輪を操っているのかはわからない」
「だったら、実際に会って確かめよう!」
ユウマが未来の扉に手を伸ばした。
すると、扉の中央に文字が浮かび上がった。
**『未来の世界へ進む者よ。望む未来ではなく、選ばなかった未来を見よ』**
「選ばなかった未来……?」
ミオが不思議そうにつぶやく。
扉がゆっくりと開いた。
その向こうに広がっていたのは、見渡す限りの大都市だった。
空にはいくつもの世界が浮かび、透明な橋がそれぞれを結んでいる。空飛ぶ乗り物が行き交い、さまざまな姿の人々が楽しそうに歩いていた。
「わあ……! すごい!」
ナナが目を輝かせた。
「こんな未来もあるんだね!」
けれど、ユウマはすぐに異変に気づいた。
街の中央にそびえる巨大な塔。その頂上には、黒い輪が描かれた旗が掲げられていた。
しかも、街の人々は全員、同じ方向を向いて歩いている。
誰も立ち止まらない。
誰も寄り道をしない。
誰も、自分で行き先を決めていない。
「なんだか、変だな……」
ソラが周囲を見回した。
「世界同士がつながっているのに、みんな自由に動いていないみたいだ」
そのとき、街頭の巨大な映像板に、黒いローブの人物が映し出された。
『すべての世界を一つにすれば、争いも別れもなくなる。迷う必要も、選ぶ必要もない。すべての人々に、同じ未来を与えよう』
映像を見ていた街の人々は、いっせいに拍手した。
「これが、黒い輪の望む未来なのか……」
ユウマがつぶやいた。
「ううん。違うよ」
ルミが静かに首を横に振った。
「世界をつなぐこと自体が悪いわけじゃない。大切なのは、それぞれの世界が自分たちの道を選べることなの」
その言葉に、フィリアがうなずいた。
「私たちが最初に決めた約束も、そうだったわね」
一行は、塔へ向かって歩き始めた。
ところが、街の中央広場に差しかかったとき、ひとりの少年が走ってきた。
「待って! 君たち、外から来た人たちだよね?」
少年は周囲を警戒しながら、小声で尋ねた。
「ぼくはトワ。この街で、未来の記録を調べているんだ」
「未来の記録?」
ユウマが聞き返した。
トワは小さな本を取り出した。
「この街には、みんながこれから何をするのか書かれた記録があるんだ。誰がどこへ行くのか、何を学ぶのか、誰と出会うのか……。全部、最初から決まっている」
「そんなの、おかしいよ!」
ナナが声を上げた。
「そうだよね。でも、みんなは記録どおりに生きているから、迷わなくて済むんだ」
トワは寂しそうに笑った。
「ぼくも本当は、遠い世界を旅したい。でも、記録には『一生この街を出ない』って書かれているんだ」
ユウマはトワの本を見つめた。
そのページには、確かに文字が記されていた。
**『トワ――未来の記録を守る者。第∞世界の外へ出ることはない』**
「記録に書いてあるからって、必ずそのとおりになるわけじゃないよ」
ユウマが言った。
「未来は、これからの選択で変わっていくものだから!」
トワは驚いたように顔を上げた。
「でも、もし記録を破ったら……?」
「そのときは、その先を一緒に考えればいいんだ!」
ユウマが笑うと、仲間たちも力強くうなずいた。
トワはしばらく黙っていたが、やがて本を閉じた。
「……ぼく、塔へ案内するよ。そこに、記録を書いている人がいるんだ」
一行はトワとともに塔へ向かった。
塔の内部は、無数の光る文字で満たされていた。壁にも床にも天井にも、さまざまな人々の未来が記録されている。
最上階に到着すると、そこには一人の人物が立っていた。
白い服をまとい、長い銀色の髪を揺らしている。
その顔を見た瞬間、フィリアが息をのんだ。
「あなたは……!」
レイも目を見開いた。
「そんな……。本当に生きていたのか?」
人物はゆっくりと振り返った。
その顔立ちは、ユウマによく似ていた。
ただし、瞳の色は金色で、胸元には黒い輪の形をしたペンダントが輝いていた。
「ようこそ、未来の世界へ」
人物は穏やかに微笑んだ。
「ぼくの名前は、カナタ」
ユウマは一歩前へ出た。
「カナタ……。君は、いったい何者なんだ?」
カナタは窓の外に広がる都市を見渡した。
「ぼくは、君たちが選ばなかった未来から来た存在だよ」
「選ばなかった未来?」
「そう。かつて君たちが世界をつなぐ道を作ったとき、もう一つの可能性が生まれたんだ。すべての世界を一つにまとめ、誰も迷わずに済む世界を作る可能性がね」
カナタはユウマを見つめた。
「そして、その未来では――君が、ぼくの仲間だった」
ユウマのペンダントが震えた。
「ぼくが……君の仲間?」
「そうだよ。ぼくたちは一緒に旅をして、たくさんの世界を救った。でも、最後に君は、ぼくの提案を受け入れなかった」
カナタの表情から笑顔が消えた。
「君は、世界を一つにするのではなく、それぞれの世界に選択を残す道を選んだ。だから、ぼくの未来は君の世界から切り離されたんだ」
「それで、黒い輪を使って世界を一つにしようとしているのか?」
レイが問いかける。
カナタは答えなかった。
代わりに、背後の壁に大きな映像が浮かび上がった。
そこには、幼いユウマとカナタが並んで立っていた。
二人は笑顔で、同じペンダントを持っている。
そして、幼いユウマが言った。
『カナタ、約束するよ。どんな未来になっても、ぼくたちは仲間だ!』
映像が消えた。
ユウマは胸元のペンダントを握りしめた。
「ぼくは……そんな約束をしていたのか?」
「覚えていないんだね」
カナタは寂しそうに目を伏せた。
「でも、ぼくは覚えている。君がぼくを置いていった日のことも、そのときに交わした最後の言葉も」
「最後の言葉……?」
カナタは顔を上げた。
「君は、ぼくにこう言ったんだ」
その瞬間、黒い輪が激しく回転した。
塔全体が揺れ、壁の記録が次々と書き換わっていく。
トワが叫んだ。
「大変だ! 未来の記録が崩れていく!」
カナタは黒い輪を掲げた。
「もう時間がない。ユウマ、君には二つの道がある。ぼくと一緒にすべての世界を一つにするか、それとも、この未来を永遠に失うか」
「そんな二択、認めない!」
ユウマが叫んだ。
「世界をつなぐ方法は、ほかにもあるはずだ!」
カナタの瞳がわずかに揺れた。
「……君は、昔からそうだったね。どんなときでも、第三の道を探そうとする」
その声には、怒りだけではない、懐かしさのような響きがあった。
だが、次の瞬間。
カナタの背後に、黒いローブの人物が現れた。
「もう十分だ、カナタ」
「……!」
カナタが振り返る。
黒いローブの人物は、彼の肩に手を置いた。
「約束を思い出させる必要はない。ユウマが真実を知れば、君が守ってきた未来も消えてしまう」
「やめろ!」
カナタが叫んだ。
「これは、ぼく自身が決めることだ!」
黒い輪が光り、二人の間に亀裂が走った。
ユウマは、その一瞬を見逃さなかった。
カナタのペンダントに、自分のものと同じ星の模様が刻まれている。
そして、その中央には、小さな文字があった。
**『四人目の約束を忘れるな』**
「カナタ! 君も、あの約束を知っているんだね!」
ユウマが叫ぶ。
カナタは驚いた表情でユウマを見た。
「どうして、その言葉を……?」
その瞬間、黒いローブの人物が二人の間に割って入った。
「これ以上は許さない」
塔の窓が一斉に黒く染まり、未来の都市に警報が鳴り響いた。
カナタはユウマに向かって手を伸ばした。
「ユウマ! もし本当にぼくとの約束を守りたいなら――」
言葉の途中で、カナタの姿が黒い光に包まれた。
「カナタ!」
ユウマが駆け出す。
しかし、目の前に巨大な壁が出現し、行く手を阻んだ。
壁に浮かび上がったのは、たった一つの文章だった。
**『未来の審判、開始』**
そして、壁の向こうからカナタの声が響いた。
「ユウマ。次に会うとき、ぼくたちは本当の敵になるかもしれない。それでも、君はぼくを仲間だと言える?」
ユウマは壁を見つめ、力強く答えた。
「言えるよ! たとえ君がどんな未来を選んでも、ぼくは君の話を聞く!」
一瞬、壁の向こうが静かになった。
やがて、カナタの小さな声が聞こえた。
「……ありがとう」
その直後、塔の最上階がまばゆい光に包まれた。
ユウマたちの足元に、最後の記録が浮かび上がる。
**『未来の確認、完了。ただし、世界をつなぐ鍵は未完成』**
フィリアが記録を読み、青ざめた。
「未完成……? じゃあ、私たちが探していた鍵は、まだ完成していないの?」
レイは静かにうなずいた。
「そうか。過去、現在、未来の三つを確かめても、まだ足りないものがあるんだ」
ルミが、ユウマのペンダントを見つめた。
「きっと、四人目の約束に関係しているんだよ」
ユウマはペンダントを強く握った。
過去には、忘れられた仲間がいた。
現在には、改ざんされた記憶があった。
そして未来には、自分と約束を交わした、もう一人の仲間がいた。
「みんな、最後まで確かめよう。僕たちが何を忘れていても、これから何を選ぶかは、自分たちで決められるんだから!」
仲間たちは力強くうなずいた。
三つの扉が、再び時計の広間へと続く光を放ち始めた。
しかし、広間に戻った彼らを待っていたのは、見覚えのない四つ目の扉だった。
その扉には、誰の名前も刻まれていない。
ただ、中央に小さな星が一つだけ輝いていた。
そして、扉の向こうから、懐かしい声が聞こえた。
『やっと、ここまで来たね。みんな』
ユウマは息をのんだ。
その声は、カナタとも、レイとも、フィリアとも違う。
それなのに、なぜか誰よりも懐かしく感じられた。
次回、「四つ目の扉! 名前のない仲間」へ続く。




