現在の世界!すり替えられた記憶
三つの扉が並ぶ、不思議な時計の広間。
過去の扉を調べ終えたユウマたちは、次に中央の扉へと目を向けた。
扉には、こう刻まれている。
**『現在――今を生きる者たちの真実』**
「さっきの声……。三人目の記憶に改ざんの痕跡があるって言ってたよね」
アヤが不安そうにフィリアを見た。
フィリアは自分の胸元に手を当てた。
「私たちの記憶のどこかが、誰かによって書き換えられている……。でも、どこが変えられたのかは、まだわからないわ」
「だったら、確かめるしかない!」
ユウマが中央の扉に手をかけた。
「みんな、行こう!」
扉が開いた瞬間、まばゆい光が広間を包み込んだ。
七人が目を開けると、そこは見覚えのある町だった。
石畳の道。時計台。広場の噴水。そして、通りを歩く人々。
しかし、何かがおかしい。
「……ねえ、ユウマ」
ナナが広場の掲示板を指さした。
そこには、大きな文字でこう書かれていた。
**『本日の記録――ユウマたちは、この町に来たことがない』**
「えっ? そんなわけないだろ! ぼくたちは何度もここに来てる!」
ユウマが声を上げると、近くにいた町の人が不思議そうに振り返った。
「ユウマ? そんな人は知らないなあ」
別の人も首を横に振る。
「この町を救ったのは、黒いローブの旅人さ。君たちじゃないよ」
「黒いローブ……!」
レイの表情が険しくなった。
「まさか、あいつが町の記録まで変えたのか?」
「記録だけじゃないかもしれないよ」
ミオが噴水の水面をのぞき込んだ。
水面には、七人の姿が映っている。
ところが、そこに映るユウマだけが、みんなと違っていた。
水面のユウマは黒いローブを着ていたのだ。
「うわっ! なんだよ、これ!」
ソラが驚いて後ずさる。
すると、水面の中のユウマが、ゆっくりと口を開いた。
『本当のことを知りたいか?』
「もちろんだ!」
ユウマが答えると、水面のユウマは薄く笑った。
『ならば、仲間に聞いてみるといい。君が最初にこの世界へ来た日のことを』
次の瞬間、水面が揺れ、映像が消えた。
「最初に来た日……?」
ユウマは首をかしげた。
「ぼく、そんな日のこと、ちゃんと覚えてるはずなのに……」
記憶をたどろうとした途端、頭の中に白い霧が広がった。
最初に誰と会ったのか。
誰が手を差し伸べてくれたのか。
そして、どうして第∞世界を冒険することになったのか。
大切なはずの始まりが、どうしても思い出せない。
「ユウマ、無理に思い出そうとしないで!」
アヤが肩に手を置いた。
「記憶が曖昧でも、今ここにいる私たちのことまで消えたわけじゃないよ」
「そうだよ!」
ハルも力強くうなずいた。
「ぼくたちが一緒に旅してきたことは、ちゃんと覚えてる!」
「私も!」
「僕もだ!」
仲間たちが次々に声を上げる。
ユウマは少しだけ笑顔を取り戻した。
「ありがとう、みんな」
そのとき、時計台の鐘が鳴った。
ゴーン……。ゴーン……。
町の人々が一斉に動きを止めた。
そして、まるで同じ言葉を覚えさせられたかのように、全員がユウマたちを指さした。
「記憶を乱す者たちだ!」
「この世界に存在してはいけない!」
「記録から消せ!」
人々の声が重なり、広場全体に響き渡る。
「待って! 私たちは何もしていない!」
ナナが訴えても、誰も聞く耳を持たない。
足元の石畳に黒い文字が浮かび上がり、七人を囲むように広がっていく。
「みんな、あの文字を踏まないで!」
フィリアが叫んだ。
「これは人の記憶を記録に固定する魔法よ! 囲まれたら、私たち自身の記憶まで町の記録に合わせて変えられてしまう!」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
カイザーが周囲を見回す。
フィリアは時計台の頂上を指さした。
「あそこに、この町の記録を管理する結晶があるはず! それを調べれば、改ざんされた部分がわかるかもしれない!」
「よし、時計台を目指そう!」
ユウマたちは広場を駆け出した。
しかし、道の先に黒い霧が立ちこめ、ひとりの人物が姿を現した。
黒いローブ。
顔を隠すフード。
そして、その手には、あの黒い輪が握られていた。
「やっと来たね、ユウマ」
謎の人物が静かに言った。
「君たちが探している真実は、時計台にはない」
「だったら、どこにあるんだ!」
ユウマが問い返す。
黒い人物は、ゆっくりとフードを外した。
そこに現れた顔を見て、レイが息をのんだ。
「……そんな。お前は……!」
フィリアも目を見開いた。
「どうして、あなたがここにいるの……?」
その人物は、ユウマたちがよく知っている顔をしていた。
けれど、ユウマにはその人が誰なのか、どうしても思い出せなかった。
人物は悲しげに微笑んだ。
「やっぱり、君の記憶からは消されているんだね」
そして、ユウマに向かって手を差し伸べた。
「ユウマ。君が第∞世界を作ったとき、最初に交わした約束を覚えているかい?」
「最初の……約束?」
「思い出してごらん。君はあのとき、ぼくにこう言ったんだ」
人物の背後に、幼いユウマと誰かが並んで立つ幻影が現れた。
幼いユウマは、笑顔でこう告げていた。
『どんな世界に行っても、君のことだけは絶対に忘れないよ!』
幻影が消える。
ユウマの胸元のペンダントが、強く輝き始めた。
「この人……ぼくは、知っている……?」
その瞬間、黒い輪が音を立てて回転した。
カチリ。
町の時計が一斉に逆回転を始める。
フィリアが叫んだ。
「だめ! 現在の世界が崩れ始めている!」
黒い人物はユウマを見つめたまま、最後にこう言った。
「次に思い出すのは、ぼくの名前だよ。でも、その名前を思い出したとき――君は、ぼくを信じられなくなる」
黒い光が広場を覆った。
そして、ユウマたちの姿は、町から一瞬にして消え去った。
次回、「消えた仲間! 黒い輪が選ぶ者」へ続く。




