第∞世界の誕生!三人が交わした最後の約束
白い扉の向こうには、空も大地もない、果てしなく広がる真っ白な世界があった。
ユウマ、アヤ、ナナ、ハル、ミオ、ソラ、ルミ、そしてレイとセイ。
九人は、ゆっくりとその世界へ足を踏み入れた。
「ここが……第∞世界が生まれる前の場所なの?」と、ナナが周囲を見渡した。
「そうだよ」と、レイが答えた。「ここは、まだ何も決まっていない世界。あらゆる可能性が眠っている場所なんだ」
ユウマは胸元の星形のペンダントを握りしめた。
「それなら、ここで第∞世界が生まれた理由もわかるんだね?」
「うん。でも、その前に君たちに見てもらいたいものがある」
レイが手をかざすと、真っ白な空間に小さな光が三つ現れた。
光は少しずつ大きくなり、やがて三人の子どもの姿へと変わった。
一人目は幼いユウマ。
二人目は幼いレイ。
そして三人目は、長い銀色の髪を持つ少女だった。
「この子が……三人目の仲間?」と、アヤが尋ねた。
レイはうなずいた。
「彼女の名前は、フィリア。今、君たちが知っている記録官フィリアと同じ名前だよ」
「えっ!?」
ルミが驚いて声を上げた。
「記録官のフィリアさんが、昔は子どもだったってこと?」
「そう。そして、僕たち三人は、この場所で出会ったんだ」
映像の中で、幼いフィリアが二人に向かって笑いかけた。
『ねえ、二人とも。ここには、まだ名前のない世界がたくさんあるんだって』
『名前のない世界?』と、幼いユウマ。
『そう! 誰かが想像した未来も、まだ選ばれていない可能性も、全部ここに眠っているの』
幼いレイは、目を輝かせた。
『だったら、僕たちで新しい世界を作ろうよ!』
三人は手を重ねた。
『どんな世界になっても、そこにいる人たちが自分の未来を選べるようにしよう!』
映像が切り替わった。
今度は、三人が巨大な光の球を囲んでいる。
その光の球には、まだ形のない大地、海、星、そして無数の命の輝きが浮かんでいた。
「これが……第∞世界の始まりなんだ」と、ソラがつぶやいた。
「そう。僕たちは、可能性を一つにまとめるのではなく、無数の可能性が共存できる場所を作ろうとしたんだ」
レイの声が、少し寂しげになった。
「だけど、世界を形作る力は、僕たちが思っていた以上に大きかった」
映像の中で、光の球が急激に膨張した。
無数の世界が生まれ、それぞれが異なる時間と歴史を持ち始めた。
その中心に、巨大な黒い輪が現れた。
「黒い輪……!」と、ハルが叫んだ。
「世界を生み出す力が、制御できなくなったんだ」と、レイ。
「このままでは、すべての世界が互いに引き寄せられ、境界が失われてしまう。そこで僕たちは、三人で力を合わせて黒い輪を封じようとした」
映像の中で、幼いユウマ、レイ、フィリアが、それぞれ異なる色の光を放った。
青、銀、そして金色。
三つの光が黒い輪を包み込み、少しずつ動きを止めていく。
しかし、最後の瞬間、金色の光が突然弱まった。
『だめ……! このままじゃ、封印が持たない!』
幼いフィリアが叫んだ。
幼いレイは、ユウマを振り返った。
『ユウマ、僕たちの力だけじゃ足りない。世界の境界を守るためには、誰かがこの場所に残らなきゃいけないんだ』
『そんなの嫌だ! 三人で帰るって約束したじゃないか!』
幼いユウマがレイの手をつかむ。
だが、フィリアは静かに首を横に振った。
『誰か一人が犠牲になる必要はないわ。別の方法があるはずよ』
彼女は三人の光をつなぎ合わせた。
『私たちの記憶を、世界を守るための道しるべにするの。そうすれば、未来の誰かが、きっと続きを見つけてくれる』
その瞬間、映像が激しく揺れた。
黒い輪から、巨大な影が伸びてくる。
『世界を分けることに意味などない。すべてを一つに戻せば、失われるものもなくなる!』
その声は、今の境界の創造者と同じだった。
幼いフィリアが、影に向かって叫んだ。
『違うわ! 違う世界だからこそ、出会いには意味があるの!』
金色の光が爆発した。
映像は、そこで途切れた。
白い空間に、静寂が戻った。
ユウマは、しばらく言葉を失っていた。
「じゃあ……フィリアさんは、僕たちと一緒に黒い輪を封じたんだね」
「そうだよ。でも、その後に問題が起きた」
レイは目を伏せた。
「黒い輪を完全に封じることはできなかった。世界を守るために、僕たちは記憶を分け、それぞれ別の場所へ隠すことにしたんだ」
「それで、君は記録から消えてしまったの?」と、ルミが尋ねた。
「正確には、僕の存在を世界の記録から切り離したんだ。そうすれば、黒い輪は僕を通じて世界の境界をたどれなくなると思った」
セイがうなずいた。
「でも、その方法では完全に解決できなかった。だから今も、黒い輪は動き続けているんだね」
「その通りだよ」
アヤが、あることに気づいた。
「待って。フィリアさんが今も記録官として存在しているなら、彼女は自分の記憶を保っているの?」
「全部ではないよ。僕たちは、未来の世界を守るために、それぞれの記憶を別々の場所に封じたんだ」
レイはユウマを見つめた。
「そして、最後の記憶を預かったのが君だった」
「僕が……?」
「君には、黒い輪を封じるための最後の鍵が託された。でも、その鍵を使うと、僕たち三人の記憶が世界から切り離されてしまう。だから君は、僕たちのことを忘れてしまったんだ」
ユウマは胸元のペンダントを見つめた。
亀裂の入った星形のペンダントが、ゆっくりと光を取り戻していく。
「じゃあ、僕が黒い輪の原因だっていうのは……?」
「君が原因なんじゃない」と、レイははっきりと言った。
「君の中に、黒い輪を封じる最後の鍵が眠っている。そして、境界の創造者は、その鍵を使ってすべての世界を一つに戻そうとしているんだ」
そのとき、真っ白な空間に金色の光が現れた。
光は人の姿へと変わり、見覚えのある女性が現れた。
「みんな、ここにいたのね」
記録官フィリアだった。
「フィリアさん!」と、ルミが駆け寄る。
フィリアは、幼いころの自分が映っていた場所を見つめた。
「思い出したわ。私たちが初めて出会った日のことも、第∞世界を作った日のことも……」
彼女の目には、懐かしさと悲しみが浮かんでいた。
「でも、まだすべてが戻ったわけではないの。境界の創造者は、私たちが記憶を取り戻すことを恐れている」
「どうして?」と、ナナ。
「私たちが三人で交わした、本当の約束を思い出してしまうからよ」
フィリアが手をかざすと、空間の中央に一つの文字が浮かんだ。
『選択』
「世界を一つにするか、それぞれの世界を守るか。私たちは、最初からその二つだけを選ぶつもりではなかった」
フィリアはユウマたちを見渡した。
「私たちは、世界同士が互いを壊さずに交流できる、新しい境界を作ろうとしていたの」
ユウマの目が輝いた。
「だったら、その方法を見つけよう! 世界を一つにする必要も、完全に切り離す必要もないんだ!」
レイは、初めて笑顔を見せた。
「そう。それこそが、僕たちが見つけたかった答えなんだ」
しかし、その瞬間――。
真っ白な空間に、黒い亀裂が走った。
ゴゴゴゴゴ……!
境界の創造者の声が響く。
『その答えは、すでに一度、失敗した』
黒い輪が、白い世界の上空に現れた。
『お前たちは、世界同士をつなぐことの危険を知らぬ。境界を開けば、再びすべてが混ざり合うだろう』
ユウマは一歩前へ出た。
「それでも、僕たちは可能性を諦めない!」
『ならば、証明してみせよ』
黒い輪の中央に、三つの扉が現れた。
一つ目は、過去の世界へ。
二つ目は、現在の世界へ。
三つ目は、まだ存在しない未来の世界へ。
『三つの扉を越え、それぞれの世界が自らの意思でつながる方法を見つけよ。さもなくば、境界は永遠に閉ざされる』
フィリアが息をのんだ。
「三つの扉……。これは、最後の試練だわ」
ユウマは仲間たちを振り返った。
「みんな、力を貸してくれる?」
「もちろん!」と、アヤ。
「ここまで一緒に来たんだからね!」と、ハル。
「三つの世界を調べるなんて、興味深いわ」と、ミオ。
「どんな世界でも、みんなで確かめよう」と、ソラ。
「私も一緒に行くよ!」と、ナナ。
ルミとセイも、力強くうなずいた。
レイとフィリアは、二人を見て微笑んだ。
こうして九人は、最初の扉へと歩き始めた。
その扉の向こうに待っているのは、世界がまだ分かれていなかったころの過去。
そして、ユウマたちの選択が、第∞世界の未来を大きく変えようとしていた。
――第∞世界創造の秘密をめぐる、最後の試練が始まる。




