忘却の果てへ!消えゆく境界地図
鏡映しの街にある境界の塔。
ユウマたち七人は、記録官フィリアから受け取った境界地図を広げていた。
地図の中央には、空に浮かぶ島――「忘却の果て」が描かれている。
しかし、その周囲に記された道は、まるで生き物のように形を変え続けていた。
「さっきまであった道が消えてる!」と、ハルが驚いた。
「境界の道は、世界の状態に合わせて変化するんです」と、フィリアが説明した。「黒い輪が世界をつなごうとしている今、道の変化も激しくなっています」
ミオは地図をじっと観察した。
「道が変わる規則があるはずよ。ほら、七つの星が描かれた場所だけは動いていないわ」
ソラが地図の端を指さした。
「この星印、僕たちが記憶の源を修復したときに現れた七色の光と似ている」
「ということは、僕たちの力が道しるべになるのかもしれないね」と、アヤが言った。
ユウマは胸元の星形のペンダントを握りしめた。
「レイが残してくれたこのペンダントも、何か関係しているはずだ」
ペンダントが淡い青色に輝く。
すると、地図の上に一本の道が現れた。
その道は、街の外れにある小さな橋へと続いていた。
「道が出た!」と、ナナが声を上げた。
フィリアはうなずいた。
「その橋は、境界の川を渡るためのものです。ただし、渡る前に一つだけ注意してください」
「注意?」
「橋の上では、皆さんが忘れている記憶が姿を現すことがあります。見えたものが本当の記憶なのか、それとも誰かが見せている幻なのか、慎重に判断してください」
ルミはセイと顔を見合わせた。
「記憶の大図書館でも、似たようなことがあったね」
「ああ。でも、今度は七人全員で確かめよう」
ユウマたちはフィリアに礼を言い、塔を後にした。
街の外れに到着すると、そこには透明な川が流れていた。
川の水面には、空に浮かぶ三つの月が映っている。
橋は細長い水晶でできており、向こう岸は白い霧に包まれていた。
「よし、渡ろう!」
ユウマが最初の一歩を踏み出した。
その瞬間――。
「ユウマ、待って!」
聞き覚えのある少年の声が響いた。
ユウマが振り返ると、橋の反対側に幼いレイが立っていた。
「レイ!?」
幼いレイは、あの日と同じ星形のペンダントを身につけていた。
「ユウマ、そっちへ行っちゃだめだよ。君が進んだら、みんながいなくなってしまう!」
ユウマは思わず立ち止まった。
「どういうことだよ? 僕は君を探しに行くんだ!」
「お願いだから、戻って!」
レイの姿が揺らぎ、川の水面に沈むように消えた。
「今のは……本当にレイだったの?」と、ナナが不安そうに尋ねた。
「わからない。でも、あの声は確かにレイだった」
アヤは橋の水晶を調べた。
「フィリアさんが言っていたわ。ここでは、忘れている記憶が現れることがあるって」
「つまり、今のレイは記憶の映像かもしれないってことか」と、ソラ。
「そうだとしても、言葉の意味は確かめたい」と、ユウマは答えた。
七人が橋を進むと、今度は別の光景が現れた。
アヤの前には、誰もいない教室が広がった。
ナナの前には、見知らぬ本で埋め尽くされた図書館が現れた。
ハルの前には、仲間たちとはぐれて一人で立っている自分の姿が映った。
ミオの前には、答えの書かれていない研究ノート。
ソラの前には、星のない夜空。
ルミとセイの前には、二人が初めて出会ったころの景色が広がっていた。
「みんな、立ち止まらないで!」と、ユウマが叫んだ。「幻かもしれない。お互いの声を聞きながら進もう!」
「うん、わかった!」と、アヤが答える。
「私も大丈夫!」と、ナナ。
ハルは映像の中の自分を見つめた。
「一人になるのは嫌だけど、だからって進むのをやめるわけにはいかない!」
ミオはノートを閉じるように手を動かした。
「答えがわからないなら、これから調べればいいだけよ!」
ソラも顔を上げた。
「星が見えない夜でも、空そのものがなくなるわけじゃない!」
ルミはセイの手を取った。
「過去に何があっても、これからどうするかは自分たちで決められる」
「その通りだ」と、セイもうなずいた。
七人がそれぞれの思いを口にすると、橋の上の幻は一つずつ消えていった。
やがて、七人は向こう岸にたどり着いた。
霧が晴れ、目の前に巨大な門が現れる。
門の上には、こう刻まれていた。
『忘却の果て――記録されなかった世界への入口』
「とうとう、ここまで来たんだね」と、ナナがつぶやいた。
ユウマが門に手を触れると、星形のペンダントが強く輝いた。
門がゆっくりと開いていく。
その向こうには、空に大きな星が浮かぶ静かな世界が広がっていた。
地面には古い石畳の道が続き、遠くには時計の針が止まった巨大な塔がそびえている。
しかし、そこには人影が一つもなかった。
「誰もいないみたいだな」と、ハルが周囲を見回した。
「いや……待って」
ルミが道の先を指さした。
石畳の上に、一冊の本が落ちていた。
表紙には、ユウマの名前が書かれている。
ユウマが本を開くと、最初のページに文字が浮かび上がった。
『ユウマへ。
もし君がここへ来たのなら、僕はまだ約束を守れていないということだ。
どうか、黒い輪を信じないでほしい。
そして、僕のことも、すべて信じてはいけない』
「えっ……?」
ユウマの顔から笑みが消えた。
「レイが書いたのか……?」
次のページには、さらに短い文章が記されていた。
『僕たちが初めて出会った日、本当はもう一人、そこにいた』
「もう一人……?」
アヤがページをのぞき込んだ。
「誰のこと?」
ユウマがページをめくろうとした瞬間、本が突然閉じた。
同時に、止まっていたはずの時計塔が動き始めた。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
空の巨大な星が黒く染まり、世界全体が低くうなり始める。
そして、塔の頂上から一人の少年が姿を現した。
銀色の髪。星形のペンダント。そして、ユウマと同じ顔。
だが、その瞳は黒い光に包まれていた。
「やっと来たね、ユウマ」
少年は静かに笑った。
「僕の名前はレイ。君が探していた、最初の仲間だよ」
ユウマは息をのんだ。
「レイ……! ずっと、君に会いたかった!」
しかし、レイは首を横に振った。
「会いに来てくれたのはうれしい。でも、君たちには帰ってもらう」
「どうして!?」
レイの背後で、黒い輪がゆっくりと広がった。
「なぜなら――この世界をつなごうとしているのは、黒い輪じゃない」
レイはユウマをまっすぐ見つめた。
「本当の原因は、君自身だからだ」
その言葉が響いた瞬間、ユウマの星形のペンダントに亀裂が走った。
パキン!
七人の足元に、巨大な光の輪が広がる。
忘却の果てに隠されていた真実が、ついにユウマたちの前に姿を現そうとしていた。
――第∞世界の秘密は、さらに深い闇へと続いていく。




