鏡映しの街!もう一人のユウマ
七人が境界の扉をくぐってから、しばらく歩いたころ。
目の前に、巨大な街が姿を現した。
空には三つの月が浮かび、建物は透明な水晶でできている。街の上空には無数の扉が浮かび、その向こう側には、それぞれ異なる景色が広がっていた。
「すごい……。こんな街、見たことがない!」と、ナナが目を輝かせた。
「建物の形も、道の作りも、僕たちの世界とは全然違うな」と、ソラが周囲を観察する。
ところが、街の入口に立っていた石碑を見て、アヤの表情が変わった。
「みんな、これを見て」
石碑には、こう刻まれていた。
『鏡映しの街――訪れた者の可能性が形となる場所』
「可能性が形になるって、どういうことだ?」と、ハルが首をかしげた。
そのときだった。
「ユウマ!」
街の奥から、誰かがユウマを呼んだ。
振り返ったユウマは、思わず息をのんだ。
そこに立っていたのは――ユウマ自身だった。
ただし、もう一人のユウマは白いコートを着て、胸元に見たことのない青い紋章をつけていた。
「ええっ!? ユウマが二人いる!」と、ミオが叫んだ。
ハルは二人を交互に見比べた。
「どっちが本物だ!?」
「僕が本物だよ!」と、元のユウマ。
「いや、僕だ」と、白いコートのユウマも答えた。
二人は顔を見合わせた。
「……声まで同じだ」
「そりゃ、僕なんだから当然だろう?」
「僕なんだからって……!」
思わず二人とも黙り込んだ。
ナナは困ったように笑った。
「なんだか、鏡を見ているみたいだね」
すると、白いコートのユウマが仲間たちを見渡した。
「みんなも来たんだね。でも、ここに長くいるのは危険だ。黒い輪が、この街にも近づいている」
「黒い輪のことを知っているのか?」と、元のユウマが尋ねた。
「ああ。僕はこの街で、その正体を調べている」
白いコートのユウマは、街の中央にある塔を指さした。
「あの塔の最上階に、境界の記録を保管する装置がある。そこを調べれば、黒い輪が何をしようとしているのかわかるはずだ」
「だったら、案内してくれ!」
元のユウマが一歩踏み出した。
しかし、白いコートのユウマは首を横に振った。
「その前に、一つだけ確かめなければならないことがある」
「何を?」
「君たちが、この世界に来た理由だ」
白いコートのユウマが手をかざすと、広場の中央に巨大な水晶が現れた。
水晶の表面に、七人の姿が映し出される。
ところが、映像の中の七人は、今の七人とは違っていた。
アヤは見知らぬ王冠をかぶり、ナナは光り輝く本を抱えている。ハルは大勢の人々に囲まれ、ミオは水晶の塔の中で何かを調べていた。ソラは星々が浮かぶ地図を持ち、ルミとセイは巨大な扉の前に立っていた。
そして、ユウマだけは――黒い輪の中心に立っていた。
「なっ……! これは何だ!?」と、ユウマが驚く。
「この水晶は、可能性の一つを映し出す。必ず未来になるわけじゃない。でも、無視していいものでもない」
白いコートのユウマは、真剣な表情で続けた。
「黒い輪が探しているのは、境界を開く鍵だけじゃない。七人の中にいる、世界をつなぐ力を持った人物なんだ」
ルミが不安そうに尋ねた。
「それは……誰なの?」
「まだわからない。ただ、記録装置には、その人物についての情報が残されているはずだ」
セイは塔を見上げた。
「なら、急ごう。黒い輪が先に装置を見つけたら、取り返しのつかないことになるかもしれない」
七人は白いコートのユウマとともに、塔へ向かった。
街の通りには、奇妙な光景が広がっていた。
ある店では、幼いころの姿をした大人たちが買い物をしている。別の広場では、まだ出会っていないはずの人々が、昔からの友人のように語り合っていた。
そして、道の両側に並ぶ鏡には、七人それぞれの異なる姿が映っていた。
「鏡の中の自分たちは、別の可能性なのかな……」と、アヤがつぶやく。
「だとしても、今の自分を否定する必要はないよ」と、ルミが答えた。「どんな可能性があっても、私たちが何を選ぶかは、自分たちで決められるんだから」
やがて、一行は塔の入口に到着した。
扉の前には、七つのくぼみが並んでいた。
白いコートのユウマが説明する。
「この扉は、七人それぞれが自分の意思を示さなければ開かない。誰か一人でも、他人に選択を押しつけられたら開かないんだ」
「自分の意思を示す……か」
元のユウマは、仲間たちを見た。
「みんな、自分で決めてくれ。僕は、この世界の秘密を知りたい」
「私も!」と、アヤ。
「僕もだ!」と、ハル。
「私も、みんなと一緒に進みたい」と、ナナ。
「調べたいことが山ほどあるからね」と、ミオ。
「黒い輪の正体を確かめよう」と、ソラ。
「私も、自分の記憶と世界の秘密に向き合う」と、ルミ。
セイも力強くうなずいた。
七つのくぼみが同時に輝き、塔の扉が開いた。
内部には、螺旋階段がどこまでも続いていた。
一行が階段を上り始めると、壁面に文字が浮かび上がった。
『境界の記録、第七項』
『世界をつなぐ力を持つ者は、二つの選択を迫られる』
『すべての世界を一つにするか。それとも、それぞれの世界を守るか』
ユウマは足を止めた。
「世界を一つにする……?」
その瞬間、塔全体が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ……!
窓の外を見ると、黒い輪が街のすぐ上空まで迫っていた。
輪の中央から、黒い光が塔へと伸びてくる。
白いコートのユウマが叫んだ。
「まずい! 黒い輪が記録装置に接続しようとしている!」
七人は階段を駆け上がった。
最上階にたどり着くと、そこには巨大な水晶の装置があった。
しかし、装置の前には、黒いローブをまとった人物が立っていた。
「ようやく来たか」
その人物が振り返る。
顔は影に隠れていたが、その声には不思議な懐かしさがあった。
ルミが息をのむ。
「この声……どこかで聞いたことがある……」
黒いローブの人物は、ユウマを指さした。
「世界をつなぐ鍵は、お前の中にある」
「僕の中に?」
「そうだ。だが、お前がそれを知れば、今までの旅の意味さえ変わるだろう」
人物が手をかざすと、水晶の装置に映像が浮かび上がった。
そこに映っていたのは、まだ誰も知らない第∞世界の始まりだった。
そして、その映像の中には――幼いユウマと、見知らぬ人物が並んで立っていた。
ユウマは目を見開いた。
「この人は……誰なんだ?」
黒いローブの人物が、静かに告げた。
「お前が忘れてしまった、最初の仲間だ」
次の瞬間、水晶がまばゆい光に包まれた。
七人の知らない記憶が、今まさに明らかになろうとしていた。
しかし、黒い輪はすでに塔の真上に到達していた。
世界の境界が、音もなく崩れ始める。
――第∞世界の秘密をめぐる、新たな謎が動き出した。




