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記憶の源を守れ!黒い影の正体

 忘却の星を守る白い塔が、黒い光に包まれていた。


 悠真、アヤ、ナナ、ハル、ミオ、ソラ、そしてルミの七人は、銀色の結晶が示す光の道を走っていた。


 その後ろでは、銀髪の少年が記憶の光を守っている。


「急ごう! 記憶の源が侵食されたら、世界中の大切な思い出が失われてしまう!」悠真が叫んだ。


「でも、あの黒い影は何なの?」ナナが尋ねた。


「まだわからない。でも、忘却の星を弱らせようとしていることは確かだよ」アヤが答えた。


 ルミは、胸元に手を当てた。


 銀髪の少年と再会したことで、忘れていた記憶が少しずつ戻り始めている。


 けれど、少年の名前だけは、まだ思い出せなかった。


「ルミ、大丈夫?」ミオが声をかけた。


「はい。あの人が守ろうとしたものを、今度こそ私も守りたいんです」


「だったら、みんなで守ろう!」ハルが元気よく言った。


「うん。七人なら、きっと方法が見つかるよ」ソラもうなずいた。


 やがて七人は、光の道の終点にたどり着いた。


 そこには、巨大な円形の空間が広がっていた。


 中央には、透き通った結晶でできた大きな球体が浮かんでいる。球体の中では、無数の星がゆっくりと回っていた。


 これこそが、世界中の記憶をつなぐ「記憶の源」だった。


 しかし、その表面には黒いひびが広がり、星の光が次々と消えかけている。


「これが記憶の源……!」悠真が息をのんだ。


 そのとき、球体の上に黒い影が姿を現した。


 影は人の形をしていたが、顔も名前もわからない。


『ここまで来たか、記憶の探求者たちよ』


「あなたが、記憶の源を侵食しているの?」アヤが尋ねた。


『そうだ』


 黒い影は、ためらいもなく答えた。


『私は、この世界から悲しい記憶をなくそうとしている』


「悲しい記憶をなくす?」ミオが聞き返した。


『そうだ。失敗した記憶、別れの記憶、後悔の記憶。それらがあるから、人々は苦しみ続ける。すべてを消せば、誰も悲しまなくなる』


 ナナは、驚いた表情で影を見つめた。


「でも、悲しい記憶だけを消したら、楽しかった記憶まで変わってしまうかもしれないよ」


『構わない。悲しみがなくなるなら、それでいい』


「それじゃあ、誰かを大切に思った記憶まで失われるかもしれない!」ソラが反論した。


『大切な人を失う悲しみも、最初から知らなければ苦しまずに済む』


 その言葉を聞いて、ルミの胸が痛んだ。


 銀髪の少年との約束。


 自分が忘れてしまった名前。


 その悲しみは、確かに苦しい。


 けれど、その少年と過ごした時間までなくしてしまいたいとは思わなかった。


「私は……悲しい記憶を全部なくしたいとは思いません」


 ルミは一歩前へ出た。


「悲しかったことも、寂しかったことも、大切な人と過ごした時間の一部だからです。思い出すのがつらいこともあるけれど、だからといって、誰かが勝手に消していいわけではありません」


 黒い影が揺れた。


『ならば、お前たちは悲しみを抱え続けるというのか?』


「違うよ」悠真が答えた。


「悲しい記憶に苦しんでいる人がいたら、支え合えばいい。無理に忘れさせるんじゃなくて、その人が自分のペースで前へ進めるように手伝うんだ」


 アヤも続けた。


「記憶を消すことだけが、救いじゃない。誰かに話を聞いてもらうことや、一緒に新しい思い出を作ることだってできるはずだよ」


 黒い影は、しばらく黙っていた。


 やがて、球体の表面から黒い光が噴き出した。


『ならば、お前たちに問おう。記憶を守ると言いながら、忘れてしまった者をどうする? 思い出せない約束を、どうやって守る?』


 その言葉に、ルミは息をのんだ。


 黒い影は、ルミの前に一つの映像を浮かび上がらせた。


 そこには、幼いルミと銀髪の少年がいた。


 二人は白い塔の庭で、星を眺めている。


『いつか、また会おうね』


 少年がそう言うと、映像の中のルミは笑顔でうなずいた。


 しかし、映像は次の瞬間、黒い霧に覆われた。


『お前は彼の名前を忘れた。約束も、彼と過ごした時間も、すべて忘れかけていた。それでも記憶を守ると言えるのか?』


 ルミは、しばらく映像を見つめていた。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「はい」


『なに?』


「私は、忘れてしまったことを悲しく思っています。でも、忘れてしまったからといって、あの人と過ごした時間が無意味になるわけじゃありません」


 ルミは胸元の光を見つめた。


「今、私は少しずつ思い出しています。そして、思い出せないことがあっても、あの人が私にとって大切な存在だったことはわかります」


 彼女は、仲間たちを振り返った。


「それに、私は一人じゃありません。みんなと出会い、たくさんのことを学びました。これから新しい思い出を作ることもできます」


 悠真たちは、力強くうなずいた。


 すると、銀色の結晶がまばゆく輝いた。


 結晶から伸びた光が、記憶の源を包み込む。


 黒いひびの広がりが、一瞬だけ止まった。


「今だ!」悠真が叫んだ。


「三つの鍵を使おう!」


 悠真は青い鍵、銀色の鍵、紫色の鍵を取り出した。


 青い鍵から、過去の記憶の光が広がる。


 銀色の鍵から、現在の記憶の光が広がる。


 紫色の鍵から、未来への記憶の光が広がった。


 三つの光が重なり、記憶の源に届いていく。


「みんな、手をつないで!」ルミが呼びかけた。


 七人は円を作り、互いの手を握った。


 悠真は過去に出会った人々を思い出した。


 アヤは仲間と一緒に考えた時間を思い出した。


 ナナは誰かの笑顔を守ろうとした瞬間を思い出した。


 ハルは失敗しても、みんなに助けてもらったことを思い出した。


 ミオは、違う考えを持つ仲間と答えを探した時間を思い出した。


 ソラは、一人では気づけなかったことを仲間と発見した喜びを思い出した。


 そしてルミは、銀髪の少年と交わした約束を思い出した。


「私たちは、過去も、今も、未来も、大切にする!」


 七人の声が重なった。


 光が一気に広がり、記憶の源を覆っていた黒いひびが少しずつ閉じていく。


『なぜだ……! なぜ、悲しみを消さずに進もうとする!』


 黒い影が叫んだ。


 悠真は、まっすぐに影を見つめた。


「悲しい記憶があるからこそ、誰かの悲しみに気づけることもある。失敗した記憶があるからこそ、次はどうすればいいか考えられる。僕たちは、すべてを消すんじゃなくて、記憶と一緒に前へ進みたいんだ!」


 その瞬間、記憶の源から巨大な光の輪が広がった。


 黒い影は光に包まれ、ゆっくりと小さくなっていった。


 そして、その輪郭が少しずつ変わり始めた。


 黒いローブが消え、その下から、一人の老人の姿が現れた。


 銀色の髪と、深い紫色の瞳。


 老人は、驚いたように自分の手を見つめた。


「私は……いったい……」


 ルミが一歩前へ出た。


「あなたは、どうして記憶を消そうとしたんですか?」


 老人は、長い沈黙のあと、ゆっくりと答えた。


「私はかつて、記憶の源を管理していた者だった。大切な人々の悲しみを目の当たりにするうちに、私は考えたのだ。悲しい記憶さえなくせば、誰も苦しまなくなるのではないかと」


「それで、世界中の記憶を消そうとしたの?」ナナが尋ねた。


「そうだ。私は、誰かを救いたいと思っていた。だが、いつしか悲しみをなくすことだけにとらわれてしまった」


 老人は、うつむいた。


「私は、記憶を守る者でありながら、記憶そのものを否定していたのだな……」


 記憶の源は、再び安定した光を放ち始めていた。


 空に浮かぶ星々が、一つ、また一つと輝きを取り戻していく。


 老人は悠真たちに深く頭を下げた。


「ありがとう。君たちのおかげで、私は自分の過ちに気づくことができた」


 悠真はうなずいた。


「これからは、記憶を無理に消すんじゃなくて、苦しんでいる人たちを支える方法を考えてください」


「そうしよう」


 老人は、静かに約束した。


 そのとき、部屋の入口から銀髪の少年が駆け込んできた。


「みんな! 記憶の源が元に戻ったんだね!」


「うん!」ハルが笑顔で答えた。


 少年は、ルミの前に立った。


「ルミ。君が選んだ道は、間違っていなかったよ」


 ルミは、涙をぬぐいながら微笑んだ。


「あなたも、これからは一人で星を守ろうとしないでくださいね」


「もちろんだよ」


 少年はうなずいた。


 そのとき、彼の胸元から一つの光が現れた。


 光は空中でゆっくりと形を変え、銀色の文字を描き出した。


 そこには、少年の名前が記されていた。


 ルミは、その文字を見つめた。


 そして、長い間思い出せなかった名前を、ついに口にした。


「……セイ!」


 少年は、驚いたように目を見開いた。


「そうだよ。僕の名前は、セイだ」


 ルミは笑顔で涙をぬぐった。


「やっと……思い出せた……!」


 セイは、うれしそうにうなずいた。


「おかえり、ルミ」


「ただいま、セイ!」


 二人は、再び友達として向き合った。


 記憶の源は、七色の光を放っていた。


 しかし、その中心に、今まで見たことのない小さな黒い点が残っていることに、誰も気づいていなかった。


 老人だけが、その黒い点を見つめていた。


「まさか……まだ、終わっていないのか……?」


 黒い点が、一度だけ脈打った。


 そして、誰にも聞こえない声が響いた。


『記憶の源が戻ったか。ならば、次は世界の境界を開こう』


 その声とともに、忘却の星のさらに奥で、巨大な扉がゆっくりと動き始めた。


 記憶をめぐる冒険は、まだ終わっていなかった。

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