↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
362/401

ルミの失われた記憶と星の守り人

 忘却の星へ続く白い塔。


 悠真、アヤ、ナナ、ハル、ミオ、ソラ、そしてルミの七人は、光に包まれた入口をくぐり、塔の内部へと足を踏み入れた。


 そこには、壁も床も透き通った水晶でできた不思議な空間が広がっていた。


 天井には無数の星が浮かび、足元には七人の姿が鏡のように映し出されている。


 しかし、そのうちルミの姿だけは、時折、ぼんやりと消えかけていた。


「ルミ、大丈夫?」アヤが心配そうに声をかけた。


「はい……。でも、さっきから頭の中に、知らないはずの光景が浮かんでくるんです」


「どんな光景なの?」ミオが尋ねた。


「白い塔と、大きな紫色の星。それから……誰かが私の手を握っているんです」


 ルミは自分の手を見つめた。


「その人の顔は見えません。でも、私にとって、とても大切な人だった気がします」


 悠真は、ルミを安心させるようにうなずいた。


「焦らなくていいよ。少しずつ確かめていこう」


「ありがとう、悠真」


 七人が塔の奥へ進むと、正面に大きな扉が現れた。


 扉には、七つの星の模様が刻まれている。


 その中央には、こんな文字が浮かんでいた。


『忘れられた名前を呼ぶ者よ。失われた約束を思い出せ』


「名前を呼ぶ……?」ナナがつぶやいた。


「誰の名前を呼べばいいんだろう?」ハルが首をかしげる。


 すると、扉の向こうから優しい声が響いた。


『ルミ』


 ルミがはっと顔を上げた。


『おかえり、ルミ』


「この声……!」


 ルミは扉に駆け寄った。


「あなたは誰なの? どうして私の名前を知っているの?」


 声は答えなかった。


 代わりに、扉の表面に一つの映像が浮かび上がった。


 そこには、まだ幼かったルミが映っていた。


 幼いルミは、白い塔の庭で、銀色の髪をした少年と一緒に星を眺めていた。


「わあ……きれい!」


『うん。あの星は、みんなの記憶を守っているんだよ』


『じゃあ、悲しい思い出も守っているの?』


『もちろん。楽しい思い出だけが大切なわけじゃないからね』


 少年は笑顔で答えた。


『いつか、この星が困ったときは、僕たちが助けよう』


 幼いルミは、力いっぱいうなずいた。


『約束だよ!』


 映像が途切れた。


 ルミは目を見開いたまま、しばらく動けなかった。


「私……この場所を知っています」


「今の男の子は誰なの?」ソラが尋ねた。


 ルミは首を横に振った。


「わかりません。でも、あの約束をしたことは、確かに覚えています」


 そのとき、扉の中央に文字が浮かんだ。


『彼の名前を思い出せ』


 ルミは必死に考えた。


 銀色の髪。優しい声。星を見上げる横顔。


 けれど、名前だけがどうしても思い出せない。


「どうして……? こんなに大切な人なのに……」


 ルミの目に涙が浮かんだ。


 ナナがそっと隣に立った。


「大丈夫。今すぐ思い出せなくても、私たちが一緒に探すよ」


「うん。七人でここまで来たんだからね!」ハルも力強く言った。


「それに、記憶がなくても、ルミがその人を大切に思っていたことは伝わってくるよ」ミオが微笑んだ。


 アヤとソラもうなずいた。


 悠真は扉を見つめた。


「ルミが一人で思い出さなきゃいけないわけじゃない。僕たちも手伝うよ」


 ルミは涙をぬぐった。


「みんな……ありがとう」


 七人が扉の前に並ぶと、七つの星の模様が一斉に輝き始めた。


 すると、扉がゆっくりと開いた。


 その向こうには、巨大な円形の部屋が広がっていた。


 部屋の中央には、紫色の星を模した祭壇がある。


 祭壇の前には、黒いローブをまとった人物が立っていた。


「ようやく来たか」


 忘却の星の門で出会った人物だった。


「あなたは、ルミのことを知っているんですね?」悠真が尋ねた。


「知っているとも。彼女は、かつてこの星を守るために選ばれた者の一人だからな」


「この星を守るために……?」


 人物はうなずいた。


「忘却の星は、ただ記憶を保管する場所ではない。第∞世界に存在する記憶の流れを守り、失われた記録をつなぎ直す役目を持っている」


「それなら、どうしてルミは自分の記憶を失ったんですか?」アヤが尋ねた。


 人物は、祭壇に浮かぶ紫色の星を見上げた。


「星が消えかけた日、世界を覆うほどの記憶の嵐が起きた。過去も現在も未来も、すべてが混ざり合い、世界の境界が崩れ始めたのだ」


 七人は息をのんだ。


「そのとき、ルミともう一人の守り人が、星を救うために力を合わせた。だが、星を守るには大きな代償が必要だった」


 ルミは震える声で尋ねた。


「その代償って……何ですか?」


「二人のうち、一人が世界の記憶から消えなければならなかった」


 部屋が静まり返った。


「そして、もう一人は、その人物の記憶を抱えたまま、世界へ戻ることになった」


 悠真は、ルミを振り返った。


「それじゃあ……」


「そうだ。ルミは、自分にとって最も大切な人物の記憶を失うことを選んだのだ」


 ルミの瞳が揺れた。


「私が……自分で選んだ……?」


 その瞬間、祭壇から一筋の光が伸び、ルミの胸元を照らした。


 ルミの周囲に、いくつもの記憶の断片が浮かび上がる。


 幼いころのルミ。


 銀色の髪の少年。


 二人で星を守る練習をした日。


 そして、星が崩れかけた夜。


 映像の中で、少年はルミの手を握っていた。


『ルミ、僕のことは忘れてもいい』


『そんなの嫌! 一緒に星を守るって約束したじゃない!』


『約束は消えないよ。たとえ名前を忘れても、君が誰かを守ろうとする心は残る』


 少年は、最後に優しく笑った。


『だから、いつかまた会えたら、そのときはもう一度、友達になってくれる?』


 映像が消えた。


 ルミは、その場に膝をついた。


「私……あの人と約束したんだ……」


 悠真たちは、何も言わずにルミのそばに寄り添った。


 しばらくして、ルミはゆっくりと立ち上がった。


「私は、あの人の名前を思い出したい。でも、それだけじゃありません」


 ルミは祭壇を見つめた。


「あの人が守ろうとした世界を、今度は私たちで守りたいんです」


 その言葉に反応して、祭壇の紫色の星が大きく輝いた。


 黒いローブの人物は、静かにうなずいた。


「その気持ちこそ、忘却の星が求めていたものだ」


 すると、祭壇の下から一冊の本が現れた。


 本の表紙には、銀色の文字でこう記されている。


『忘却の星・最後の記録』


 悠真が本を開こうとした瞬間、黒いローブの人物が手を伸ばして制止した。


「待て。その本を開けば、消えた守り人の記録が明らかになる。しかし、記録を読み解くには、最後の試練を越えなければならない」


「最後の試練?」ソラが聞き返した。


「そうだ。お前たちが、記憶を守るとはどういうことなのか、本当の意味で理解しているかを確かめる試練だ」


 祭壇の前に、三つの扉が現れた。


 一つ目の扉には「忘れたい記憶」。


 二つ目の扉には「取り戻したい記憶」。


 三つ目の扉には「まだ知らない記憶」と書かれている。


「どの扉を選ぶかで、試練の内容が変わる」人物が説明した。


「でも、どれか一つだけなんですか?」ミオが尋ねた。


「最初に選ぶ扉は一つだ。選んだ先で何を学ぶかは、お前たち次第だ」


 悠真たちは三つの扉を見比べた。


 忘れたい記憶。


 取り戻したい記憶。


 まだ知らない記憶。


 どれも大切な意味を持っている。


 悠真は仲間たちに尋ねた。


「みんなは、どう思う?」


 ナナは「取り戻したい記憶」の扉を見つめ、ハルは「忘れたい記憶」の扉を気にしている。


 ミオとソラは、三つの扉を慎重に観察していた。


 アヤはルミの隣に立ち、静かに言った。


「ルミの失われた記憶を取り戻すことだけが、目的じゃないよね。忘却の星が何を守っているのか、それも考えなきゃ」


 ルミはうなずいた。


「はい。どの扉を選んでも、みんなで考えて進みたいです」


 悠真は、三つ目の扉に目を向けた。


「まだ知らない記憶……。僕は、そこに未来への手がかりがある気がする」


 そのとき、三つ目の扉の向こうから、懐かしい声が聞こえた。


『ルミ、待っていたよ』


 ルミの目が大きく見開かれた。


「この声……!」


 扉の向こうで、誰かがゆっくりとこちらへ近づいてくる。


 そして、扉の隙間から銀色の光があふれ出した。


 黒いローブの人物が、静かに告げた。


「選ぶときが来た。忘却の星が隠してきた最後の真実は、その扉の向こうにある」


 悠真は仲間たちを見回し、深く息を吸った。


「みんな、準備はいい?」


 七人は、力強くうなずいた。


 悠真が三つ目の扉に手をかける。


 カチリ。


 扉が開き始めた。


 その向こうに見えたのは、銀色の髪をした少年の後ろ姿だった。


 少年はゆっくりと振り返ろうとしていた。


 ルミは、震える声でその名を呼ぼうとした。


 しかし、声になる直前、部屋全体がまばゆい光に包まれた。


 ――次回、ルミと消えた守り人の再会へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。