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姉妹レンタル  作者: なんなん


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忘れてはいけない六人の約束

 黒い霧が、閉ざされた扉の前で渦を巻いていた。


「思い出を差し出せ。そうすれば、この先へ進ませてやろう」


 低い声が廊下に響く。


 悠真は、隣にいるアヤを見た。


「アヤ……!」


「悠真くん……? あれ、私……あなたの名前、どうして知っているんだろう?」


 アヤの表情が不安に曇った。


 ナナも、ハルも、ミオも、ソラも、少しずつ仲間の名前を思い出せなくなっていた。


「待って! みんな、忘れちゃだめだよ!」


 悠真は必死に声を上げた。


「ぼくたちは一緒に旅をしてきたんだ! 歌う山にも行ったし、笑わない街にも行った! 忘れられた約束の島では、灯台の光を見たんだ!」


 その言葉に、ソラが顔を上げた。


「……歌う山?」


「そうだよ! みんなで最後の一音を探したんだ!」


 悠真が答えると、ソラの目に小さな光が戻った。


「そうだ……。僕たちは一緒に歌ったんだ!」


 ソラが悠真の手を握った。


 すると、二人の手の間から温かな光が生まれた。


 その光は廊下を走り、アヤたちの足元まで広がっていった。


「思い出した! 私たち、ずっと一緒だった!」


 アヤが声を上げた。


「宛先のない手紙を届けたことも覚えているわ!」


 ナナも笑顔を取り戻す。


「リクくんが、お母さんの写真を見つけたことも!」


 ハルが続けると、ミオも大きくうなずいた。


「そうだよ! 私たちの思い出は、誰かに渡すものじゃない!」


 六人の体から、次々と光があふれ出した。


 黒い霧は後ずさりした。


「なぜだ……。なぜ、記憶を消せない?」


 悠真は、仲間たちと手をつないだまま答えた。


「思い出は、頭の中にあるだけじゃないからだよ。一緒に過ごした時間も、助け合ったことも、みんなの心に残っているんだ!」


 その瞬間、六人の光が一つになった。


 まばゆい光が黒い霧を包み込む。


 霧は小さな粒になって空中へ散り、最後に、銀色の鍵を一つ残した。


 鍵はゆっくりと床に落ちた。


「やった……!」


 ハルが歓声を上げる。


 リクは銀色の鍵を拾い、扉の鍵穴に差し込んだ。


 カチャリ。


 重い音とともに、扉が開いた。


 その先には、巨大な円形の部屋が広がっていた。


 天井には星のような光が浮かび、中央には、文字盤のない大きな時計がそびえ立っていた。


「あれが……思い出の大時計?」


 ミオが見上げる。


 時計の周囲には、無数の小さな光が閉じ込められていた。光の一つ一つが、誰かの大切な思い出なのだろう。


 しかし、時計の針は動いていなかった。


 リクは胸元の鍵を握りしめた。


「ここに来たことがある……。僕、昔、この部屋で誰かを待っていたんだ」


 そのとき、時計の台座に文字が浮かび上がった。


 **【第二の記憶を解放するには、忘れられた名前を呼びなさい】**


「忘れられた名前?」


 アヤが首をかしげた。


 リクは目を閉じ、必死に考えた。


「僕が忘れた名前……。お母さんの名前かな?」


 しかし、何度思い出そうとしても、名前だけが浮かんでこない。


 すると、時計の中から、かすかな歌声が聞こえた。


 優しくて、懐かしい歌声だった。


 リクは息をのんだ。


「この歌……僕、知っている!」


 歌声に合わせて、時計の文字盤に映像が浮かび上がる。


 幼いリクが、女性と手をつないで博物館を歩いていた。


 女性は展示品の前でしゃがみ、リクに優しく語りかけていた。


『リク。もし、いつか大切なことを忘れてしまっても、心配しないでね』


『どうして?』


『あなたが誰かを大切に思った気持ちは、すぐには消えないからよ』


 映像の中のリクは、女性に抱きついて笑っていた。


 そして、女性がこちらを振り向いた。


「お母さん……!」


 リクが叫ぶ。


 けれど、映像はそこで途切れてしまった。


「あと少しなのに……! お母さんの名前が、どうしても思い出せない!」


 リクがうつむくと、悠真がそっと肩に手を置いた。


「焦らなくていいよ。僕たちも一緒に考えるから」


「そうだよ! リクくん一人で思い出さなくてもいいんだよ!」


 ハルが励ます。


 そのとき、ナナが時計の台座を指さした。


「ねえ、ここに小さな文字があるわ!」


 そこには、かすれてはいるものの、確かに文字が刻まれていた。


 **『思い出は、名前から始まるとは限らない』**


「名前から始まるとは限らない……?」


 ソラが考え込む。


 すると、ミオがぽつりと言った。


「もしかしたら、名前じゃなくて、お母さんと一緒にしたことを思い出せばいいのかな?」


 リクは目を見開いた。


「一緒にしたこと……」


 彼は時計を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「僕は、小さいころ……お母さんと一緒に、星を見に行ったんだ」


 その言葉と同時に、時計の中に星空が広がった。


「それから、博物館で迷子になった僕を、お母さんが見つけてくれた……。帰り道には、いつも歌を歌ってくれたんだ!」


 時計の針が、ほんの少しだけ動いた。


 ゴーン……。


 大きな鐘の音が響く。


 時計の中から一つの光が飛び出し、リクの胸元へ吸い込まれた。


 リクは目を閉じた。


 そして、とうとう思い出した。


「……エマ。お母さんの名前は、エマだ!」


 その瞬間、時計の針が大きく動き始めた。


 ゴーン! ゴーン! ゴーン!


 閉じ込められていた無数の光が解き放たれ、博物館全体へ飛び散っていった。


 外から、人々の喜びの声が聞こえてくる。


「思い出した! これは、娘がくれた花束だ!」


「そうだ、私はここへ友達と来たんだった!」


 人々が、自分の大切な記憶を次々と取り戻していた。


 リクも、ようやく笑顔になった。


「みんなのおかげだよ。ありがとう!」


 悠真たちが喜び合っていると、大時計の文字盤に新しい文字が浮かび上がった。


 **【第二の記憶、解放】**


 そして、その下にもう一つの文章が現れた。


 **【最後の記憶は、博物館の館長が隠した】**


「館長……?」


 ナナがつぶやく。


 リクの表情が変わった。


「そうだ……! この博物館には館長がいたんだ。でも、僕は館長の顔も名前も思い出せない!」


 そのとき、部屋の奥に隠されていた小さな扉が、音もなく開いた。


 中には、古びた机と一冊の黒い手帳が置かれていた。


 手帳の表紙には、こう書かれていた。


 **『館長の日記――最後の記憶について』**


 悠真が手帳を開こうとした、その瞬間。


 ページの間から、一枚の写真が滑り落ちた。


 写真には、若いころのリクのお母さんと、博物館の制服を着た男性が並んで写っていた。


 そして、写真の裏には、震える文字でこう記されていた。


 **『エマへ。君との約束を、私はまだ果たせていない』**


 リクは写真を見つめた。


「この男性……いったい誰なんだろう?」


 博物館の大時計が、再び静かに鳴った。


 最後の記憶へ続く謎が、いま動き始めた。

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