思い出をなくした博物館
空の郵便町で、宛先のない手紙を届け終えた六人は、郵便局の奥に現れた新しい扉の前に立っていた。
扉には、金色の文字でこう書かれていた。
**【次の物語――思い出をなくした博物館】**
「思い出をなくした博物館か……。今度はどんな世界なんだろう?」
悠真が扉を見上げると、ハルが興味津々で取っ手に手を伸ばした。
「入ってみようよ! 博物館なら、珍しい展示品がいっぱいあるかもしれないし!」
「でも、思い出をなくしたっていうのが気になるね」
アヤが心配そうにつぶやく。
「大切な思い出がなくなっちゃったら、悲しいよね……」
「だからこそ、私たちが何かできるかもしれないわ」
ナナがうなずき、ミオも笑顔で続けた。
「みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫!」
「よし、行こう!」
悠真が扉を開けると、まばゆい光が六人を包み込んだ。
次の瞬間、彼らは巨大な建物の正面に立っていた。
白い大理石の柱が並び、屋根の上には大きな時計が取り付けられている。入口の上には、金色の文字で「思い出博物館」と書かれていた。
「うわあ……! おっきな博物館!」
ハルが目を輝かせた。
ところが、入口の前に立っている人々の様子はどこかおかしかった。
男の人は自分の持っている帽子を不思議そうに眺め、女の人は手にした花束を見つめながら首をかしげている。
「これ……誰にもらった花束だったかな?」
「ぼく、どうしてここに来たんだろう?」
みんな、自分の持ち物や周囲の人々について、何も思い出せないようだった。
「みんな、記憶をなくしているのかな……」
アヤがつぶやいた、そのとき。
「そこの六人! 君たちは、自分が誰なのか覚えているかい?」
博物館の入口から、一人の少年が駆け寄ってきた。
少年は青い制服を着て、首から小さな鍵を下げていた。
「もちろん! ぼくは悠真。こっちはアヤ、ナナ、ハル、ミオ。それからソラだよ」
悠真が順番に紹介すると、少年はほっとしたように息を吐いた。
「よかった……。まだ覚えている人がいたんだね。僕はリク。この博物館で案内係をしているんだ」
「リクくんも、思い出をなくしちゃったの?」
ミオが尋ねると、リクはうつむいた。
「うん。僕が何歳なのかも、家がどこなのかもわからない。でも、一つだけ覚えていることがあるんだ」
「それは何?」
ソラが尋ねた。
「この博物館の一番奥にある『思い出の大時計』を動かさなければ、みんなの記憶は戻らないってこと」
リクは首から下げた鍵を握りしめた。
「だけど、大時計の場所へ続く扉が閉じてしまったんだ。開ける方法も、なぜ閉じたのかもわからないんだよ」
「だったら、ぼくたちが調べてみるよ!」
悠真が力強く答えた。
六人はリクと一緒に博物館の中へ入った。
最初の展示室には、たくさんのガラスケースが並んでいた。
ケースの中にあったのは、古いおもちゃ、色あせた写真、壊れた時計、手作りの人形、そして何も書かれていないアルバム。
不思議なことに、展示品のそばには説明書きがあるのに、文字はすべて白く消えていた。
「ここにある物は、全部誰かの思い出だったのかもしれないね」
ナナが、ガラスケースの中の小さな木馬を見つめた。
そのとき、ハルが一つのケースの前で足を止めた。
「ねえ、これを見て!」
そこには、赤いリボンのついた小さなぬいぐるみが飾られていた。
ハルがガラスにそっと手を近づけると、ぬいぐるみが淡く光り始めた。
そして、ハルの目の前に不思議な光景が浮かび上がった。
小さな女の子が、ぬいぐるみを抱きしめて笑っている。
『ずっと一緒だよ。大人になっても、絶対に忘れないからね』
女の子の声が聞こえた瞬間、光景は消えてしまった。
「今の……誰かの思い出?」
ハルが驚いて尋ねると、リクは大きくうなずいた。
「そうだ! 展示品に触れると、失われた思い出が見えることがあるんだ!」
「じゃあ、ほかの展示品にも、誰かの大切な思い出が残っているんだね」
ミオが言った。
六人は展示室を調べ始めた。
アヤは、古い写真から家族の笑い声を聞いた。
ナナは、木馬から小さな男の子が初めて一人で歩いた日の光景を見た。
ソラは、壊れた時計から、誰かが大切な人との約束に間に合おうと走る姿を見た。
そして悠真が、何も書かれていないアルバムを開いたときだった。
ページの中央に、一枚の写真が浮かび上がった。
そこには、幼いリクと、リクの隣に立つ優しそうな女性が写っていた。
「リク……これ、君じゃない?」
悠真が写真を見せると、リクの表情が変わった。
「僕……この人を知っている気がする」
リクは写真に手を伸ばした。
すると、アルバムが強い光を放ち、かすかな声が響いた。
『リク、どんなに遠く離れても、あなたが楽しかった日のことを忘れないでね』
「お母さん……?」
リクの目に涙が浮かんだ。
「そうだ……僕、お母さんと一緒にこの博物館に来たことがあるんだ!」
しかし、思い出したのはそこまでだった。
写真の女性がどこにいるのか、今も元気なのか、それ以上のことはわからない。
そのとき、博物館全体が大きく揺れた。
展示室の奥から、低い音が響いてくる。
ゴーン……。
ゴーン……。
止まっているはずの大時計が、ほんの一瞬だけ動いたのだ。
壁に、新しい文字が浮かび上がった。
**【第一の記憶、解放】**
続いて、博物館の奥にある扉の鍵穴が、青く輝き始めた。
「今の音……大時計が動いたんだ!」
ソラが叫ぶ。
リクは涙をぬぐい、六人を見渡した。
「みんな、ありがとう。僕、もっと思い出したい。お母さんが何を伝えようとしていたのかも……」
「もちろん! 一緒に探そう!」
悠真が答えた。
六人とリクは、博物館の奥へ向かって歩き出した。
しかし、廊下の突き当たりにたどり着いたとき、彼らは思いがけないものを目にした。
閉ざされた扉の前に、黒い霧が集まり、人の形を作っていたのだ。
その影は、七人を見つめると、低い声で告げた。
「思い出を取り戻すつもりか……。ならば、まずはお前たち自身の思い出を差し出せ」
黒い霧が扉を覆い尽くす。
そして、悠真たちの足元に、見覚えのある景色が次々と浮かび上がり始めた。
それは、彼らがこれまで旅してきた世界の光景だった。
次の瞬間、悠真の頭の中から、アヤたちの名前が一つずつ消えかけた。
「みんな……! 僕たち、絶対に忘れちゃだめだ!」
悠真は必死に仲間たちの手をつないだ。
思い出をなくした博物館で、今度は彼ら自身の記憶が試されようとしていた。




