宛先のない手紙
湖を後にした悠真たちは、雲の上へと続く不思議な階段の前に集まっていた。
悠真の手には、一通の古びた封筒がある。
表には赤い文字で、こう書かれていた。
【届け先が分からない手紙を、届けてください】
「手紙なのに、宛先がないんだね」とナナ。
「差出人の名前も書いていないよ」とミオが封筒を裏返した。
アヤは首をかしげた。
「うーん。これじゃあ、誰に届けたらいいのか分からないね!」
「だからこそ、僕たちに頼まれたのかもしれない」と悠真。
ハルは封筒をじっと見つめた。
「もしかすると、届け先を探すことそのものが、今回の冒険なんじゃないかな?」
「なるほど! よし、行ってみよう!」とソラ。
六人は階段を上り始めた。
一段上るたびに、周囲の景色が変わっていく。最初は湖が見えていたのに、やがて森も街も遠ざかり、あたり一面が白い雲に包まれた。
すると、雲の向こうから、ポッポーという音が聞こえてきた。
「今の音は何?」とミオ。
次の瞬間、雲の中から巨大な郵便列車が現れた。
列車は空中に浮かんだ線路の上を走り、最後尾には大きな郵便袋がいくつも積まれていた。
先頭車両の扉が開き、青い制服を着た小さな鳥が顔を出した。
「おや? 見かけないお客さんですね。空の郵便町へ行く方ですか?」
「はい! この手紙を届けたいんです」と悠真が封筒を見せた。
鳥は封筒を見た途端、目を丸くした。
「これは……!」
「何か知っているんですか?」とナナ。
鳥は少し困ったように頭をかいた。
「私は郵便配達員のピピです。この手紙は、ずいぶん昔から郵便局に保管されていたものに似ています。でも、宛先も差出人も記録されていないのです」
「ずいぶん昔から?」とハル。
「ええ。誰かが大切な思いを伝えようとして、それでも届けられなかった手紙なのかもしれません」
ピピは六人を列車に招き入れた。
列車が動き始めると、窓の外には雲の海が広がった。遠くには風車のような塔や、虹色の橋が見える。
やがて、雲の上に大きな町が姿を現した。
家々の屋根には郵便受けがついており、空には小さな配達船が飛び交っている。広場には巨大な時計があり、その針は不思議なことに逆向きに動いていた。
「わあ、すごい!」とアヤ。
「ここが空の郵便町です」とピピが胸を張った。
六人は町の中央にある郵便局へ向かった。
建物の中には、天井まで届く棚が並び、無数の手紙や小包が保管されていた。
ピピは古い記録帳を開き、封筒を調べ始めた。
「やはり、記録がありません……。ただし、この手紙には不思議な印がついています」
封筒の隅には、小さな星のマークが描かれていた。
その瞬間、手紙が淡く光り、封筒の中から一枚の紙がふわりと飛び出した。
紙には、たった一行だけ文字が浮かび上がった。
【あの日、言えなかったありがとう】
「ありがとう……?」とナナがつぶやいた。
ミオは静かにうなずいた。
「誰かに感謝を伝えたかったのに、伝えられなかったのかな」
「でも、誰に伝えたかったんだろう?」とソラ。
悠真は手紙を両手で包み込んだ。
「届け先は、住所じゃなくて、その人の心の中にあるのかもしれない」
すると、郵便局の奥から、古い鐘の音が響いた。
ゴーン……ゴーン……。
ピピの顔から、笑顔が消えた。
「大変です! あの鐘が鳴るのは、届け先のない手紙が消えてしまう前だけなんです!」
「消えるって、どういうこと?」とアヤ。
「このまま届け先が見つからなければ、手紙に込められた思いも、永遠に失われてしまいます!」
窓の外を見ると、巨大な時計の針が急速に逆回転していた。
その文字盤に、新しい文字が浮かび上がる。
【残された時間――あと三日】
悠真たちは顔を見合わせた。
三日以内に、手紙の届け先を見つけなければならない。
ハルは手紙を見つめ、静かに言った。
「大丈夫。まだ、届けることを諦めていない手紙なんだよ。きっと、誰かが待っているはずだから」
六人はうなずいた。
こうして、宛先のない手紙を届けるための調査が始まった。
しかし、郵便局の記録帳を最後までめくったピピは、ある一文を見つけて顔色を変えた。
そこには、こう書かれていた。
【この手紙の差出人は、空の郵便町には存在しない】
――差出人が存在しない手紙に、込められた思いとは何なのか。
六人の新たな謎解きが始まる。




