第二の世界
「第二の世界……?」
悠真は、地下室の奥に現れた巨大な扉を見上げた。
扉には見たことのない模様が刻まれている。
中央には、二つの円。
その周りを、星や木、鳥のような形が取り囲んでいた。
「この扉……開けても大丈夫なのかな?」
ナナが少し不安そうに尋ねる。
案内役の本は、扉の前まで飛んでいった。
「この扉は、第一の世界の物語が始まったことで開いたのです」
「つまり……」
アヤが目を輝かせる。
「次の世界に行けるってこと?」
「はい」
ハルがすぐに扉へ近づく。
「行ってみたい!」
ミオも地図を広げた。
「私も。まだ見たことのない世界なら、調べてみたい」
悠真は四人の顔を見た。
「じゃあ、みんなで行こう」
五人が扉の前に並ぶ。
しかし、扉は開かなかった。
「……あれ?」
アヤが押してみる。
動かない。
悠真も押す。
やはり動かない。
すると扉に文字が浮かび上がった。
【第二の世界へ行くには、第一の世界から一つだけ贈り物を持っていくこと】
「贈り物?」
ナナが考える。
「何を持っていけばいいんだろう」
ハルは少し考えてから、胸元から小さな葉を取り出した。
???の森で生まれた、あの巨大な木の葉だった。
「これ……」
悠真が驚く。
「最初の約束を思い出したときの葉だね」
ハルは頷いた。
「この世界で、最初に大切にしたものだから」
アヤが笑う。
「それならぴったりだね!」
ハルが葉を扉の中央にある窪みに置く。
すると――。
ピカッ!
葉が光り、扉いっぱいに緑色の光が広がった。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉がゆっくり開く。
その向こうには、真っ白な空間が広がっていた。
「何もない……?」
ミオが驚く。
しかし、一歩進んだ瞬間――。
ドンッ!
足元から大地が現れた。
次に草。
木。
川。
そして青い空。
まるで世界そのものが、目の前で作られていく。
「すごい……!」
ナナが息をのむ。
「ここが第二の世界……」
アヤが周囲を見回す。
「でも、第一の世界とは少し違うね」
悠真も頷いた。
第一の世界では、出会いを選ぶことで世界が生まれていった。
けれど、この世界では――。
「音がない」
悠真が気づいた。
鳥の声も。
風の音も。
川のせせらぎも。
何も聞こえない。
ハルが地面を踏む。
「本当に静か……」
そのとき。
どこからか、小さな音が聞こえた。
――チリン。
風鈴のような音。
五人が振り返る。
遠くの丘の上に、小さな白い建物が現れていた。
建物の前には看板がある。
【音のない町】
「音のない町?」
ミオが読み上げる。
その瞬間、町の入口から一人の少年が走ってきた。
口を動かしている。
けれど、声が聞こえない。
「何か言ってる!」
アヤが駆け寄る。
少年は一生懸命に何かを伝えようとしている。
そして、地面に指で文字を書いた。
【音を探してください】
悠真たちは顔を見合わせた。
第二の世界で最初に出会った少年。
そして、この世界には――音がない。
少年がもう一度、地面に文字を書く。
【町から、音が全部消えてしまった】
すると遠くの丘から――。
また、
――チリン。
小さな音が一つだけ響いた。
少年が驚いて振り返る。
「今の音は、どこから?」
悠真が丘を見る。
そこには、一本の大きな木が立っていた。
木の枝には無数の風鈴。
しかし、風は吹いていない。
それでも一つだけ、風鈴が揺れていた。
――チリン。
その音を聞いた瞬間、少年が涙を浮かべた。
そして地面に、新しい文字を書いた。
【あの木の音を取り戻してほしい】
悠真は頷いた。
「わかった」
アヤが笑う。
「第二の世界で最初の依頼だね!」
ナナも静かに頷いた。
「今度は、音を取り戻す冒険……」
ハルは葉を握りしめる。
そして五人は、風鈴の木へ向かって歩き始めた。
第一の世界では「出会い」が物語を始めた。
第二の世界では――。
「音」が、最初の物語を始めようとしていた。




