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地下に眠る最初の物語

「結構、深いね……」


階段を下りながら、ナナがつぶやいた。


一段、また一段。


図書館の地下は、地上とはまったく違っていた。


壁には無数の本棚が並び、その一冊一冊に小さな光が灯っている。


「ここにも本がいっぱいある!」


ハルが驚く。


案内役の本が、悠真たちの後ろをふわふわ飛びながら説明した。


「ここは、まだ誰にも読まれていない物語を保管する場所です」


「まだ読まれていない?」


ミオが聞く。


「はい。誰かが出会い、誰かが何かを感じたとき、その出来事は物語になります」


悠真は周囲を見渡した。


「じゃあ、この世界には無数の物語が眠っているんだ」


「その通りです」


やがて階段が終わった。


そこには巨大な扉があった。


扉の中央には、ひだまり町の大きな木と同じ模様が刻まれている。


そして、その下に文字があった。


【一人では開かない】


アヤが扉を押してみる。


「うーん!」


びくともしない。


「私一人じゃ無理だ!」


ナナも手を添える。


「私もやってみる」


悠真、ハル、ミオも加わった。


「せーの!」


五人で力を合わせる。


すると――。


ゴゴゴゴゴ……。


扉がゆっくり開いた。


「やった!」


ハルが喜ぶ。


その先には、広い部屋があった。


中央には、一冊の本が置かれた台。


周囲には何もない。


悠真が本へ近づく。


表紙には、


【最初の物語】


と書かれている。


「これだ……」


悠真が手を伸ばす。


しかし、触れる直前――。


パタン。


本がひとりでに開いた。


最初のページには、たった一行だけ書かれていた。


【最初の物語は、まだ生まれていない】


「え?」


アヤが首をかしげる。


「じゃあ、ここにあるのに、まだ始まってないってこと?」


案内役の本が静かに答える。


「はい。この本は、誰かが物語を始めるのを待っています」


「誰かって……誰?」


ナナが尋ねる。


その瞬間、部屋の中央に光が集まり始めた。


光は小さな人影へと変わっていく。


「こんにちは」


聞き覚えのある声だった。


「えっ……?」


ハルが目を丸くする。


そこに現れたのは――。


まだ名前を持っていなかったころの、ハルによく似た小さな姿だった。


「僕は、この世界が最初に作った『可能性』」


悠真たちは驚いて言葉を失った。


「可能性……?」


「うん。僕が最初に生まれた。でも、誰とも出会わなかったから、物語になれなかった」


小さな光の姿は続ける。


「だから、ずっと待っていた」


「何を?」


アヤが聞いた。


「誰かが僕を見つけてくれることを」


ハルが一歩前へ出た。


「でも、僕たちはもう君を見つけたよ」


光の姿がハルを見る。


「……うん」


「じゃあ、君の物語は始められるんじゃない?」


ハルが笑った。


その瞬間、本のページに文字が浮かび上がった。


【出会い】


一文字ずつ、ゆっくりと増えていく。


【名前】


【町】


【約束】


【仲間】


そして最後に――。


【これから】


本全体が眩しく輝いた。


すると地下室いっぱいに無数の光が舞い上がった。


それぞれの光の中には、小さな景色が映っている。


海。


山。


空に浮かぶ島。


大きな街。


小さな村。


そして――まだ見たことのない世界。


「これ全部、この世界の未来?」


ミオが息をのむ。


案内役の本が答えた。


「はい」


「じゃあ、まだ何も決まってないんだね」


悠真が言った。


「その通りです」


アヤが笑う。


「だったら、楽しみだね!」


ナナも頷く。


「これから、どんな人たちに出会うんだろう」


ハルは光に囲まれながら、嬉しそうに笑った。


そのとき――。


【最初の物語】


その本の表紙が光り、新しい文字が刻まれた。


【第一話――はじめての出会い】


「物語が始まった……」


悠真がつぶやく。


しかし、次の瞬間。


地下室の奥から、聞いたことのない声が響いた。


「――では、次の物語を始めよう」


全員が振り返る。


そこには、まだ誰も見たことのない巨大な扉が現れていた。


扉には――。


【第二の世界】


と書かれていた。

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