???の森
ひだまり町を出発した悠真、アヤ、ナナ、ハル、そして最初のお客さまの少女は、地図に描かれた道を歩いていた。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」
悠真が少女に声をかける。
「あ……そうだった」
少女は少し照れながら答えた。
「私の名前はミオ。旅をしながら、この世界のことを調べているの」
「ミオちゃんだね!」
アヤが笑顔になる。
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
ナナも頭を下げた。
しばらく歩くと、景色が変わり始めた。
草原だった場所に木々が増え、やがて道の両側を巨大な木が覆うようになった。
「ここが……???の森」
ハルが木々を見上げる。
森の入口には、古びた看板が立っていた。
【この先、まだ名前のない場所】
「この世界らしい看板だね」
悠真が苦笑する。
「名前がない場所、多すぎ!」
アヤが笑った。
五人は森へ入っていった。
すると――。
「……来て」
どこからか声が聞こえた。
ミオが立ち止まる。
「この声……!」
「どこから聞こえた?」
悠真が耳を澄ます。
「右……いや、左?」
ナナが周囲を見回す。
しかし、森の中には誰もいない。
「……来て」
今度は、反対側から声がした。
ハルが不安そうにアヤの服の袖をつかむ。
「声が森の中を動いてる……」
「大丈夫。みんな一緒だからね」
アヤが優しく答える。
さらに進むと、道が三つに分かれていた。
左の道には青い花。
真ん中の道には白い石。
右の道には黄色い葉。
その中央に、小さな看板があった。
【正しい道は、選ぶものではありません】
「どういう意味?」
ミオが首をかしげる。
悠真は三つの道をじっと見つめた。
「たぶん、どれか一つを選ぶんじゃないんだ」
「じゃあ……全部?」
ナナが聞く。
悠真が頷く。
「この世界は、僕たちが選んだものによって形が変わる。だったら――」
ハルが突然、三つの道の中央にある地面を指差した。
「ここ!」
そこには小さな芽が出ていた。
「この芽、道と道の間から出てる」
アヤが近づく。
「もしかして、この芽を育てたら……」
ハルがそっと手をかざした。
「大きくなって」
すると芽が光った。
ぐんぐん伸びていき、一本の木になる。
そして木の枝が三方向へ伸び、それぞれの道をつないだ。
「新しい道ができた!」
ミオが驚く。
三つに分かれていた道が、一本の大きな道になった。
その先には、森の中心へ続く光が見える。
「正しい道は一つじゃなかったんだ」
ナナがつぶやく。
「みんなで新しい道を作ることだったんだね」
五人は新しい道を歩いた。
森の奥へ進むほど、声がはっきりしてくる。
「……来て」
「……ここに来て」
やがて、大きな広場に出た。
そこには一本の巨大な木が立っていた。
しかし――。
その木には葉が一枚もなかった。
木の根元に、小さな光が浮かんでいる。
そして、その光から声がした。
「やっと……来てくれた」
ミオが前へ出る。
「あなたは誰?」
光は答えた。
「私は、この森の最初の記憶」
「最初の記憶?」
悠真が驚く。
光は静かに続けた。
「この世界には、まだ物語が少ない。だから、私は最初に生まれた記憶を守っている」
ハルが木を見上げる。
「じゃあ、どうして葉っぱがないの?」
光が答えた。
「誰かが、最初の記憶を忘れてしまったから」
その瞬間、巨大な木の幹に一つの文字が浮かび上がった。
【最初の約束】
「約束……?」
ミオがつぶやく。
光は言った。
「この森には、世界が生まれたばかりのころに交わされた約束がある」
「その約束を思い出せば、木に葉が戻る」
悠真たちは顔を見合わせた。
すると、ハルが木の根元に落ちている小さな箱を見つけた。
箱には鍵穴が一つ。
そして、その横には文字が刻まれていた。
【ひだまり町から来た者へ】
「えっ……」
アヤが驚く。
まだできたばかりの町の名前が、こんな森の奥にまで知られている。
ナナが箱を見つめる。
「この世界……私たちが思っているより、ずっと前から物語を準備していたのかも」
悠真は箱を手に取った。
すると、ひだまり町で作ったばかりの町の木から、一本の光る枝が伸びてきた。
その枝は悠真の手の中で、小さな鍵へと変わった。
「これで開けられる!」
ハルが叫ぶ。
悠真は箱の鍵穴に鍵を差し込んだ。
カチッ。
箱が開く。
中には一枚の古い紙が入っていた。
そこには――。
【最初の約束――この世界で出会った人を、ひとりにしない】
と書かれていた。
五人は静かに顔を見合わせた。
そして、巨大な木の枝先に――。
小さな緑色の葉が、一枚だけ芽吹いた。




