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名前のない子

「こんにちは……」


小さな広場に現れた子は、三人を見上げながら、もう一度小さな声で挨拶した。


悠真はしゃがんで、その子と目線を合わせた。


「こんにちは。僕は悠真。こっちはアヤとナナだよ」


「私はアヤ! よろしくね!」


「わ、私はナナ……よろしくお願いします」


三人が名乗ると、子は少し安心したように笑った。


「……名前は?」


悠真が尋ねる。


すると、その子は困った顔をした。


「名前……ないの」


「え?」


アヤが驚く。


「この世界には、まだ名前がないから。だから、僕にも名前がないんだと思う」


その言葉を聞いて、三人は顔を見合わせた。


ナナが静かに言った。


「じゃあ……名前をつけてあげる?」


「うん!」


アヤが勢いよく立ち上がる。


「それなら、レンタル姉妹の出番だね!」


「でも……」


悠真は少し考えた。


「僕たちが勝手に決めるんじゃなくて、この子自身が選んだほうがいいんじゃないかな」


「……そうだね」


アヤも頷く。


「名前は、その人がこれから歩いていくための大切なものだもんね」


三人は広場のベンチに座った。


「どんな名前がいい?」


ナナが聞く。


子は空を見上げた。


空にはまだ雲も星もない。


「わからない……」


「じゃあ、好きなものを探してみよう!」


アヤが提案した。


すると、三人の足元から一本の道が伸びていった。


道の先には、小さな丘。


丘の上には、一本の木。


「どうやら、この世界も一緒に探してくれるみたいだね」


悠真が笑った。


四人は道を歩き始めた。


すると、歩くたびに世界が少しずつ変化していく。


道の両側に草が生え、小さな花が咲く。


空には白い雲が浮かび、遠くには山まで現れた。


「すごい……」


ナナが目を輝かせる。


「この世界、私たちが歩いたところからできていくんだ」


やがて丘に到着すると、木の根元に小さな石碑が現れた。


そこには文字が刻まれていた。


――「名前は、見つけるものでもあり、育てるものでもある」


子は石碑をじっと見つめた。


そして、少し考えてから言った。


「……僕、この世界が好き」


「うん」


悠真が頷く。


「じゃあ、その気持ちから名前を考えてみよう」


子はしばらく考えた。


そして、初めて自分から笑った。


「……『ハル』がいい」


「ハル?」


「うん。これから始まる感じがするから」


アヤが笑顔になる。


「いい名前じゃん!」


ナナも嬉しそうに頷いた。


「うん。すごく似合ってる」


悠真は手を差し出した。


「よろしくね、ハル」


ハルはその手を握った。


「よろしく……悠真。アヤ。ナナ」


その瞬間――。


空に光が広がった。


何もなかった世界に、太陽が現れる。


そして、遠くに小さな家が一軒。


さらにその向こうには、町らしき影まで浮かび上がった。


「名前が決まったから、世界がまた一歩進んだんだ!」


アヤが嬉しそうに叫ぶ。


すると、ハルの足元に一枚の紙が落ちてきた。


そこには新しい依頼が書かれていた。


【最初の町を作ってください】


「……町?」


ハルが紙を見つめる。


そして三人を見る。


「僕、この世界に友達が住める町を作りたい」


悠真は笑った。


「じゃあ、次の仕事は決まりだね」


アヤが胸を張る。


「レンタル姉妹、初めての世界づくりのお仕事!」


ナナも小さく拳を握った。


「みんなが帰ってこられる町を……作ろう」


名前のない世界は、少しずつ名前のある場所へ変わり始めていた。


そして、その最初の町づくりが――新しい物語の始まりになろうとしていた。

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