知らない世界への扉
「最初の出会いの先に、まだ知らない世界がある……」
悠真は思い出帳の最後の一文を何度も読み返していた。
アヤは机の上に三つの鍵を並べる。
「星、鳥、笑顔……。この三つの鍵を使ったら、もう終わりのはずなんだけどなぁ」
「でも、思い出帳には続きがあるよ」
ナナがページを指差す。
すると突然――
三つの鍵が同時に光った。
「えっ?」
鍵から伸びた光が、床の上で一本の線になる。
線は壁へ向かって伸びていく。
やがて壁に、大きな扉の形が浮かび上がった。
「こんな扉、今までなかったよ!」
アヤが驚く。
悠真が扉に近づく。
取っ手の部分には、文字が刻まれていた。
――「まだ名前のない世界」
「名前のない世界……?」
ナナがつぶやく。
アヤが笑った。
「私たちが最初に行った、名前のない町と似てるね」
悠真はうなずいた。
「もしかしたら、何かつながっているのかもしれない」
三人で扉を開く。
ギィィ……。
扉の向こうには、真っ白な空間が広がっていた。
床も空も、遠くの景色もない。
ただ、中央に一本の道だけがある。
「どこまで続いてるんだろう?」
ナナが一歩進む。
すると、道の両側に小さな光が現れた。
一つ目の光には――
【まだ始まっていない物語】
二つ目には――
【まだ出会っていない人】
三つ目には――
【まだ決まっていない未来】
と書かれている。
「全部、『まだ』なんだね」
悠真が言う。
アヤは少し考えてから答えた。
「決まってないってことは……自由に始められるってことじゃない?」
その瞬間、白い空間に声が響いた。
『そうです』
三人が振り返る。
そこには、顔のない小さな光が浮かんでいた。
『ここは、まだ何も決まっていない世界』
『だから、名前もありません』
『物語もありません』
『住む人も、まだいません』
ナナが尋ねる。
「じゃあ、ここには何があるの?」
光は静かに答えた。
『可能性があります』
「可能性……」
悠真がつぶやく。
すると、目の前にいくつもの景色が現れた。
大きな町。
海辺の村。
空に浮かぶ島。
深い森。
そして、見たことのない世界。
「すごい……!」
アヤが目を輝かせる。
「全部、この先に作れるんだ!」
『ですが、一つだけお願いがあります』
光が三人を見る。
『この世界に、最初の一つを決めてください』
三人は顔を見合わせた。
「最初の一つ?」
『名前でもいい』
『場所でもいい』
『誰かとの出会いでもいい』
『何を最初にするかで、この世界の物語が始まります』
悠真は少し考えた。
そしてアヤとナナを見る。
「僕は……出会いがいいと思う」
「私も!」
アヤが笑う。
ナナも頷いた。
「誰かと出会える場所から始めたい」
三人が手を重ねる。
すると、真っ白だった世界に小さな広場が生まれた。
木が一本。
ベンチが一つ。
そして、広場へ続く道。
その瞬間、遠くから小さな足音が聞こえてきた。
トコ……トコ……。
三人が振り向く。
道の向こうから、一人の小さな子が歩いてくる。
「こんにちは……」
三人は驚いた。
この世界で初めて出会う人だった。
アヤが笑顔で答える。
「こんにちは!」
ナナも手を振る。
「初めまして」
悠真は思い出帳を開いた。
そこには新しい文字が浮かんでいた。
――『新しい世界の最初の出会い』
三人は顔を見合わせる。
今まで探してきたのは、失われた記憶だった。
けれど今度は違う。
まだ存在しない未来を、一緒に作っていく。
アヤが元気よく言った。
「レンタル姉妹、次のお仕事は――」
ナナが続ける。
「この世界の物語を、一緒に作ること!」
悠真も笑った。
「じゃあ、まずはこの子の話を聞いてみよう」
三人は新しい世界で、最初の一歩を踏み出した。
――名前のない世界。
そこには、まだ誰も知らない物語が待っている。




