自分たちの記憶を探して
「僕たち自身の記憶を探すって……どうするんだろう?」
悠真は、広場のベンチに座りながら思い出帳を眺めていた。
アヤは腕を組んで考える。
「まずは、私たちが忘れていることを見つけないとね」
ナナが小さく手を挙げた。
「じゃあ……最初に出会った日のことから調べてみない?」
「いいね!」
三人は、レンタル姉妹サービスの建物へ戻った。
受付の奥には、これまでの依頼記録を保管している棚がある。
アヤが古いファイルを取り出した。
「これが私たちの最初の記録!」
表紙には、
【レンタル姉妹サービス・活動記録】
と書かれている。
ページをめくる。
最初の依頼。
【新しい町を見てほしい】
その次。
【失われた町の記憶を探してほしい】
さらに――
【失われた橋】
【空に残された記憶】
【忘れられた駅】
【帰る場所】
【星の記憶】
ここまでは、三人もよく覚えている。
しかし、その次のページをめくった瞬間――
三人は同時に止まった。
そこだけ、文字が消えていた。
「……真っ白」
ナナが驚く。
アヤがページをめくってみる。
次のページも、その次も真っ白だった。
「私たちの記憶だけ、書かれてない……」
悠真が思い出帳を開く。
すると、思い出帳も同じように白くなっていた。
そして中央に、短い文字が浮かぶ。
――『最初の記憶は、場所ではなく人にある』
「人?」
悠真が首をかしげる。
その瞬間、建物の扉が開いた。
「こんにちは」
一人の女性が入ってきた。
「レンタル姉妹をお願いしたいんですが……」
アヤが立ち上がる。
「もちろんです! どんなご依頼ですか?」
女性は少し困ったように笑った。
「実は……昔の友達を探しているんです」
三人は顔を見合わせた。
「昔の友達?」
「はい。子どものころ、一緒に遊んでいた友達です。でも、引っ越してから連絡が取れなくなって……名前も、顔も、ほとんど思い出せないんです」
女性は一枚の古い写真を取り出した。
写真には、二人の子どもが写っていた。
一人は依頼人。
もう一人は――
顔の部分だけ、白く消えている。
「顔が……」
ナナが驚く。
女性はうなずいた。
「なぜか、その子だけ思い出せないんです。でも、私はずっと、その子と何か約束した気がするんです」
悠真は写真を見つめた。
すると、思い出帳が突然光った。
――『この記憶を探してください』
「これ……」
アヤが驚く。
「私たちの記憶と、つながってる?」
女性も驚いた顔をする。
「私の記憶が……?」
「はい」
悠真がうなずく。
「一緒に探しましょう」
四人は、写真が撮影された場所へ向かった。
そこには古い公園が残っていた。
ブランコ。
ベンチ。
小さな木。
女性は木の前で立ち止まった。
「ここ……知ってる」
すると、木の根元から小さな箱が見つかった。
中には二枚の紙が入っている。
一枚目には、
『大きくなったら、またここで会おう』
二枚目には、
『そのときは、二人で新しい町を見つけよう』
と書かれていた。
女性の目が大きくなる。
「思い出した……」
そして、静かに笑った。
「私たちは、将来一緒に旅をする約束をしてたんだ」
その瞬間、写真の白く消えていた部分に、少しずつ色が戻り始めた。
顔が完全に戻ったわけではない。
けれど、笑っていることだけは分かった。
「全部思い出さなくても……大切だったことは分かるんですね」
ナナが言う。
女性はうなずいた。
「うん。ありがとう」
依頼が終わったあと、悠真たちは公園に残った。
思い出帳を開く。
そこには新しい文章が浮かんでいた。
――『あなたたちの記憶も、誰かとの出会いから始まっています』
アヤが悠真を見る。
「私たちも、誰かと出会ったから今ここにいるんだよね」
ナナも頷いた。
「じゃあ、私たちの最初の記憶を探すには……」
三人は同時に顔を上げた。
「最初に出会った場所へ行けばいい」
悠真が言った。
しかし――
その場所がどこだったのか。
三人とも、なぜか思い出せなかった。
思い出帳のページに、最後の一文が浮かぶ。
――『最初の出会いは、まだ誰にも見つけられていない』
三人の新しい記憶探しが、始まった。




