最初の依頼へ
「最初の依頼に戻るって……なんだか不思議だね」
悠真は、これまでの冒険を思い返しながら歩いていた。
アヤは思い出帳を抱えている。
「最初は、名前のない町だったよね」
「うん」
ナナも笑った。
「町の名前を無理に決めなくてもいいって、みんなで話したんだよね」
三人は、あの名前のない町へ戻ってきた。
町は以前よりもにぎやかになっていた。
広場では人々が話し合い、子どもたちは楽しそうに走り回っている。
けれど、町の入口にある看板には、今もこう書かれていた。
【名前――まだ決めない】
「変わってないね」
悠真が笑う。
すると、町の人が三人に気づいた。
「おかえりなさい!」
「おかえり……?」
ナナが驚く。
「私たち、まだここに一度しか来てないのに」
町の人は笑った。
「一度でも来てくれた人なら、いつでもおかえりですよ」
アヤが嬉しそうに言う。
「なんだか、この町らしいね」
そのとき、思い出帳が光り始めた。
ページを開く。
そこには、これまで訪れた場所の名前が次々と浮かび上がっていった。
失われた町。
海の向こうの島。
消えた橋。
空の記憶。
忘れられた駅。
帰る場所。
そして最後の星。
ナナがページを見つめる。
「全部、この町から始まって……この町に戻ってきたんだ」
悠真はうなずいた。
「でも、どうして最初の町が始まりだったんだろう?」
すると、町の中央にある広場から声がした。
「それは、この町が『まだ決まっていない町』だったからだよ」
三人が振り向く。
そこには、最初に出会った町の人が立っていた。
「この町には、最初から決まった物語がなかった」
「だから……いろんな記憶が集まってきた?」
悠真が尋ねる。
「そう」
町の人はうなずいた。
「名前がないからこそ、訪れた人たちが自分たちの記憶を持ち込めた。そして、この町は少しずつ変わっていった」
アヤが思い出帳を見る。
「じゃあ、私たちが探してきた記憶も、この町の一部になったんだ」
その瞬間、町のあちこちに小さな光が浮かんだ。
海の光。
橋の光。
駅の光。
星の光。
それらが広場に集まっていく。
やがて、巨大な光の木になった。
「わあ……!」
ナナが目を輝かせる。
木の枝には、たくさんの小さな光が実っている。
一つ一つが、誰かの記憶だった。
アヤがそっと手を伸ばす。
すると一つの光から声が聞こえた。
『またね』
別の光からは、
『ただいま』
そして別の光からは、
『一緒に見た星を忘れない』
ナナは嬉しそうに笑った。
「みんなの記憶が、ここでつながってるんだね」
悠真は思い出帳を閉じた。
「これで、全部終わったのかな」
その瞬間――
思い出帳の表紙に、新しい文字が浮かび上がった。
これまでとは違う、たった一つの言葉。
――『次は、あなたたち自身の記憶を探してください』
「……私たち自身?」
アヤが目を丸くする。
ナナも驚いた。
「私たちにも、忘れている記憶があるのかな?」
悠真は二人を見る。
「だったら、今度は僕たちの物語を探す番なのかもしれない」
三人はしばらく黙った。
そして、アヤが笑った。
「レンタル姉妹として、一緒に探してみよう!」
「うん!」
ナナも元気よく答える。
名前のない町の広場に、三人の笑い声が響いた。
その日、町の看板には初めて小さな文字が追加された。
【名前――まだ決めない】
その下に、
【でも、思い出は増えていく】
と。
――そして、新しい依頼が始まる。
今度の依頼人は、他の誰でもない。
悠真たち自身だった。




