最後の星の記憶
「最後の星……どこに行ったんだろう?」
悠真は夜空を見上げた。
たくさんの星が輝いている。
しかし、その中に一つだけ大きな空白があった。
アヤは思い出帳を開く。
「地図は……?」
ページを見ると、今までとは違うものが描かれていた。
星空の絵。
そして、その中央に一本の道。
「道があるよ」
ナナが指を差す。
「でも、この道……空へ続いてる」
三人が目を凝らすと、天文台の裏から淡い光が伸びていた。
光は山道を進み、空へ向かってまっすぐ伸びている。
「行ってみよう!」
三人は光の道を歩き始めた。
すると、足元に小さな光の階段が現れた。
一段。
また一段。
階段は雲の上まで続いている。
「すごい……」
ナナが驚く。
三人はゆっくり階段を上っていった。
雲の上には、小さな広場があった。
中央には大きな空っぽの台座がある。
台座には文字が刻まれていた。
――「ここに、最後の星があった」
悠真が読む。
「星があった……ってことは、誰かが持っていったのかな?」
すると、広場の端から声が聞こえた。
「持っていったんじゃないよ」
三人が振り返る。
そこには、一人の小さな人影が立っていた。
「私は、星を消したんだ」
「どうして?」
ナナが尋ねる。
人影は空を見上げた。
「その星は、私が大切な人と見た最後の星だったから」
少し寂しそうな声だった。
「思い出すたびに、その人がいなくなったことを思い出してしまう。だから、星ごと記憶を消したかった」
アヤは黙って話を聞いていた。
そして、優しく言った。
「忘れたかったんだね」
人影はうなずく。
「うん」
悠真はすぐに答えを出そうとはしなかった。
しばらくしてから、静かに言う。
「無理に思い出さなくてもいいと思う」
「え?」
「でも、消さなくてもいいんじゃないかな」
人影が顔を上げる。
「思い出したくない日は、思い出さなくていい。でも、その人と過ごした時間まで消さなくてもいい」
ナナも続けた。
「楽しかった記憶も、寂しい記憶も、全部その人との時間だから……」
人影は空を見つめた。
長い沈黙が続いた。
やがて、小さな光が一つ現れる。
それは、消えていた星の光だった。
「……本当は、忘れたかったんじゃないのかもしれない」
人影の声が震える。
「ただ、思い出すのが怖かったんだ」
アヤが笑う。
「だったら、少しずつでいいよ」
星の光がゆっくり台座へ戻っていく。
すると――
キラァァァ……。
夜空に最後の星が戻った。
大きな光が広がり、空いっぱいに星が輝く。
人影は涙を拭いながら、星を見上げた。
「……久しぶりに、この星を見た」
悠真たちも空を見上げる。
すると、思い出帳のページが開いた。
――『記憶は、消すものではなく、抱えて歩いていくもの』
そして、その下に新しい文字が現れる。
【星の記憶編――完】
「終わった……?」
ナナが驚く。
アヤは思い出帳をめくる。
すると、最後のページのさらに下に、小さな文字が浮かび上がった。
――『すべての記憶を探し終えたとき、最初の依頼へ戻りなさい』
「最初の依頼……?」
悠真が首をかしげる。
アヤも考え込む。
「私たちが最初に受けた依頼って……」
ナナが思い出す。
「新しい町を見てほしい、だったよね」
三人は顔を見合わせた。
失われた町。
海の向こうの島。
橋。
空。
駅。
帰る場所。
星。
すべての記憶をたどった先に、最初の依頼が待っている。
「戻ってみよう」
悠真が言った。
アヤとナナも笑顔でうなずく。
三人は光の階段を下り始めた。
――長い記憶探しの旅は、最初の場所へ戻ろうとしていた。
そしてそこには、まだ誰も気づいていない「新しい町の秘密」が残されていた。




