ただいまを探す人
森を抜けた三人は、夕暮れの町へやって来た。
「この町に、依頼を受けた人がいるのかな?」
悠真が周囲を見渡す。
すると、広場のベンチに一人の少年が座っていた。
少年は手に古い鍵を持っている。
「こんにちは」
アヤが声をかける。
少年は振り向いた。
「……こんにちは」
「何か困ってる?」
少年は少し考えてから答えた。
「僕……帰る場所を探してるんです」
三人は顔を見合わせた。
「もしかして、今回の依頼の……」
悠真が言いかけると、少年はうなずいた。
「この鍵だけ持ってるんです。でも、どこの鍵なのか分からなくて」
ナナが鍵を見る。
古い銀色の鍵だった。
持ち手には、小さな星の模様が刻まれている。
「名前は?」
「……分かりません」
「住んでいた場所は?」
「それも……思い出せません」
少年は困ったように笑った。
「でも、なぜか『帰らなきゃ』って思うんです」
アヤは優しく言った。
「じゃあ、一緒に探そう!」
「いいんですか?」
「もちろん!」
こうして四人で、少年の記憶を探すことになった。
まず町の中を歩いてみる。
商店。
公園。
図書館。
駅。
しかし、少年にはどこにも見覚えがない。
「ここじゃない……」
次に古い神社へ行った。
鳥居をくぐった瞬間、少年が立ち止まった。
「……この道」
「何か思い出した?」
悠真が尋ねる。
「分からない。でも、前にも歩いた気がする」
境内の奥には、大きな木があった。
木の根元には、小さな木箱が置かれている。
少年が近づく。
鍵を差し込む。
カチャッ。
鍵がぴったり合った。
「開いた!」
箱の中には、一枚の写真が入っていた。
写真には、少年と、笑顔の家族が写っている。
そして、その後ろには一軒の家。
「……お父さん……お母さん……」
少年の口から、初めて言葉が出た。
「思い出した?」
ナナが優しく聞く。
「全部じゃない。でも……この場所、知ってる」
写真の裏には住所が書かれていた。
四人はその住所へ向かった。
町の外れにある、小さな丘。
そこに古い家が建っていた。
少年は門の前で立ち止まった。
「ここ……」
扉には、星の形をした飾りがついている。
少年は持っていた鍵を差し込んだ。
カチャッ。
扉が開く。
中には、古い家具や本が残っていた。
そして壁には、一枚の紙が貼られていた。
『いつか帰ってきたときのために』
少年は紙を読む。
『もし忘れてしまっても、この家はあなたを待っています』
少年はしばらく黙っていた。
そして、小さく笑った。
「……ただいま」
その言葉を聞いた瞬間、家の中に柔らかな光が広がった。
思い出が少しずつ戻ってくる。
庭で遊んだこと。
家族と食事をしたこと。
雨の日に窓から外を眺めたこと。
そして、家族から言われた言葉。
『いつでも帰ってきていいんだよ』
「ここが……僕の帰る場所だったんだ」
アヤが微笑む。
「見つかったね」
ナナもうなずいた。
「よかった……」
悠真は、古いノートを開いた。
すると、依頼のページに新しい文字が浮かび上がった。
――『帰る場所とは、建物ではなく、帰っていいと思える場所』
悠真は静かにその言葉を読んだ。
少年は四人に頭を下げる。
「ありがとう。僕、一人だったら見つけられなかった」
アヤが笑う。
「レンタル姉妹は、一緒に探すのがお仕事だからね!」
ナナも少し胸を張る。
「これからは、思い出を一つずつ取り戻していけばいいよ」
少年はうなずいた。
夕暮れの空に、最初の星が輝き始めていた。
そのとき――
思い出帳が突然光る。
ページには新しい文字が浮かんだ。
【次の依頼――星が消えた夜の記憶を探してください】
悠真が空を見上げる。
「星が……消えた夜?」
アヤが目を輝かせる。
「なんだか、今までで一番不思議な依頼になりそう!」
ナナも空を見つめる。
すると、一つだけ輝いていた星が――
ふっと消えた。
三人は顔を見合わせた。
新しい記憶探しが、始まろうとしていた。




