今がない世界
白い世界の奥に現れた暗闇。
悠真たちは、その入り口で立ち止まっていた。
「ここから先は……今がない」
案内役の光が静かに言った。
一歩入ると、音が消えた。
二歩目では、自分の姿さえ見えなくなった。
「悠真!」
ミチの声が遠くなる。
「ここにいるよ!」
悠真は叫んだ。
しかし、自分の声すら返ってこない。
そのとき、暗闇の中から声がした。
「今がないなら、何をすればいい?」
悠真は答えようとした。
けれど、言葉が出てこない。
時間もない。
動いているのか、止まっているのかも分からない。
すると、ユイの小さな声が聞こえた。
「……何もしなくても、ここにいることはできるよ」
その言葉だけが、暗闇の中に残った。
悠真も続ける。
「そうだね。今が分からなくても……ここにいる」
ミチも言った。
「僕もいるよ!」
一つ。
また一つ。
声が暗闇に小さな点を作っていく。
やがて、その点が光になった。
完全な暗闇の中に、初めて「ここ」が生まれる。
そして文字が浮かんだ。
【今は、時計だけでは決まらない】
【ここにいると感じることも、今を作る】
暗闇が少しずつ薄れていく。
その先に、小さな扉が現れた。
扉には――
【第八十五の歴史――今を取り戻す者】
と書かれていた。
悠真は扉を開く。
その向こうには、たくさんの人々が立っていた。
みんな、自分がどこにいるのか分からず、立ち尽くしている。
悠真は言った。
「まず、自分がここにいるって伝えてみよう」
一人が小さく言った。
「ここにいる」
別の人も続く。
「ここにいるよ」
やがて、世界中から声が響いた。
「ここにいる!」
暗闇が消え、空が戻った。
世界に「今」が戻ってきた。
そして空に、次の文字が浮かぶ。
【第八十六の歴史――今をつなぐ者】
その瞬間、遠くに大きな光の橋が現れた。
橋の向こうには、これまで旅してきたすべての世界が見えていた。
悠真は驚いて立ち尽くした。
「全部、つながってる……」
けれど橋の中央には、まだ空白が残っていた。
その空白に、一つの問いが浮かぶ。
【すべての世界をつないだあと、何をする?】
悠真は、その問いを見つめた。




