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未来がない場所

悠真たちは、真っ白な空間へ足を踏み入れた。


一歩進んでも、何も変わらない。


二歩進んでも、何もない。


空もない。


地面もない。


時間さえ、流れているのか分からない。


「……ここ、本当に世界なの?」


ミチが不安そうに尋ねる。


案内役の光は、周囲を見回した。


「分かりません」


「え?」


「ここには、未来が存在しないのです」


ユイが驚く。


「未来がないって……どういうこと?」


「可能性がない。選択肢もない。『これから』という言葉すら存在しません」


悠真は白い空間を見つめた。


「じゃあ、ここでは何も始まらないの?」


返事はない。


そのとき――。


遠くから、小さな音が聞こえた。


トン。


トン。


何かを叩くような音だった。


悠真たちは音の方向へ進む。


すると、白い空間の中に小さな存在が座っていた。


名前もない。


姿もはっきりしない。


ただ、両手で小さな石を握っている。


「何をしているの?」


悠真が尋ねる。


存在は答えた。


「分からない」


「その石は?」


「これも、分からない」


「じゃあ、どうして握っているの?」


存在は石を見つめる。


「……何かをしてみたかったから」


その瞬間――。


石の下に、小さな影ができた。


白い世界で初めて生まれた「違い」だった。


ミチが息をのむ。


「何かが生まれた!」


影は少しずつ広がる。


地面になる。


その上に、小さな草が一本生える。


「未来が生まれたの?」


案内役の光が答える。


「いいえ」


「じゃあ?」


「これは未来ではありません」


悠真が草を見る。


「今、なの?」


光はうなずいた。


「ここでは未来を作る前に、『今ここにいる』ということから始まったのです」


悠真は少し考えた。


「未来がない場所でも、今は作れるんだ」


存在は草を見つめる。


「僕は、未来を考えられない」


「それでもいいよ」


悠真が言う。


「まずは、今ここにいる。それだけでいい」


存在は小さくうなずいた。


すると草の隣に、もう一本草が生えた。


さらに小さな石。


そして、水のような光。


白い世界に少しずつ「今」が増えていく。


ところが突然――。


世界の上空に黒い亀裂が走った。


ビシッ。


「何?」


ユイが空を見上げる。


亀裂の向こうから、声が聞こえた。


「未来がないなら……この世界には、何も必要ない」


悠真たちは身構える。


しかし、そこから現れたのは敵ではなかった。


一つの大きな影だった。


影は静かに言う。


「僕は、未来を失った者」


「未来を失った?」


「何を選んでも、その先が見えなくなった」


影の周囲から、何もない白さが広がっていく。


「だから、もう何も望まない」


悠真は影を見つめる。


「望まなくてもいいよ」


影が驚く。


「……え?」


「でも、今ここにいることまで、なくさなくていい」


影は黙り込む。


やがて、小さな声で言った。


「今ここに……いる?」


「うん」


その瞬間、影の足元に小さな地面が生まれた。


影は初めて、自分の足で地面を踏んだ。


「……あったかい」


白い世界に、初めて声が響いた。


その声を聞いた瞬間、空に文字が浮かび上がる。


【未来がなくても、今はある】


そして――


【今があるなら、未来はあとから生まれる】


白い世界に、一本の細い道が現れた。


道の先には、まだ何もない。


けれど、その先には確かに「これから」がある。


新しい歴史の文字が浮かぶ。


【第八十四の歴史――今から未来が生まれる世界】


悠真は道を見つめた。


「未来を探すんじゃなくて……」


ミチが続ける。


「今を積み重ねた先に、未来が生まれるんだね」


そのとき、白い世界のさらに奥から、もう一つの声が聞こえた。


「じゃあ……『今』さえ失ったら?」


悠真たちは振り返った。


そこには、時間すら存在しない、完全な暗闇が広がっていた。


そして、その暗闇へ続く道が一本だけ伸びていた。


悠真は、その道を見つめた。


「……今度は、『今』がない場所?」


暗闇の奥で、何かが静かに動いた。

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