未来を育てる者
悠真たちは、大きな木の向こうに現れた扉をくぐった。
そこには、広い庭が広がっていた。
庭には、まだ小さな芽しかない植物が無数に並んでいる。
一本一本の札には、違う言葉が書かれていた。
【希望】
【自由】
【安心】
【発見】
【旅】
【つながり】
そして、まだ何も書かれていない札もある。
ミチがしゃがみ込む。
「ここでは何をするの?」
案内役の光が答えた。
「ここは、未来を育てる場所です」
「未来って、育てられるの?」
「はい。でも、思い通りに育てることはできません」
悠真が芽を見る。
「じゃあ、どうするの?」
「水をあげることはできます。守ることもできます。必要なら、場所を変えることもできます。でも、どんな姿になるかまでは決められません」
ユイが小さな芽に触れる。
「なんだか、生き物みたい」
そのとき、一つの芽が震えた。
そして小さな声がした。
「僕は……何になればいいの?」
悠真たちは顔を見合わせた。
「何になってもいいんじゃないかな」
悠真が答える。
「でも、何になるか分からない」
「分からなくても大丈夫」
すると芽のそばに三つの札が現れた。
【大きくなる】
【横に広がる】
【まだ芽のままでいる】
芽はしばらく考えた。
「……まだ、決めない」
札が光る。
その瞬間、芽の周りに小さな花が一輪咲いた。
ミチが驚く。
「決めないことでも、育つんだ!」
「そうです」
案内役の光が言う。
「未来を育てるというのは、必ず大きくすることではありません」
「その人、その未来が望む形を待つことも、育てることなのです」
悠真は深くうなずいた。
すると庭の奥から、別の声が聞こえた。
「じゃあ、誰かが未来を育てるのをやめたら?」
振り返ると、一人の住民が立っていた。
その手には、枯れかけた植物がある。
「僕は、この未来を育てるのを途中でやめた」
住民はうつむいた。
「もう遅いかな?」
悠真は植物を見る。
葉は少ない。
けれど、根元には小さな緑色の芽が残っている。
「まだ終わってないよ」
「本当に?」
「うん。終わったと思ったところから、もう一度始めることもできるから」
住民は植物を庭に戻した。
水を少しだけ与える。
すると――。
小さな芽が、ほんの少しだけ開いた。
「……生きてる」
住民が笑った。
その瞬間、庭全体に風が吹いた。
たくさんの植物が揺れる。
【未来は、完成させるものではない】
文字が空に浮かぶ。
続いて――。
【育てながら、変えていくもの】
そして、庭の中央に大きな木が生まれた。
その木には、まだ実が一つもない。
悠真が木を見上げる。
「この木には、何が実るの?」
案内役の光は答えなかった。
代わりに、木の幹に新しい文字が浮かんだ。
【まだ分からない】
「……それも未来なんだね」
悠真が笑う。
すると、木の枝の一本から小さな光が落ちてきた。
光は地面に触れると、人の姿になった。
けれど、名前も姿もまだはっきりしない。
「僕は……」
その存在は自分の手を見つめる。
「これから、何を大切にしたいんだろう?」
悠真はすぐには答えなかった。
代わりに尋ねる。
「君は、今、何を見たい?」
存在は空を見上げる。
「……まだ知らないものを見たい」
すると、庭の奥に一本の道が現れた。
道の先には、今まで見たことのない空間が広がっている。
看板には――
【第八十二の歴史――まだ見ぬものを育てる者】
と書かれていた。
悠真たちは新しい道を見つめる。
ミチが笑った。
「今度は、何が待ってるんだろう?」
悠真は一歩踏み出した。
「それは、行ってみないと分からないよ」
その瞬間、道の先に無数の小さな光が灯った。
まるで、まだ誰にも見つけられていない未来たちが、悠真たちを待っているかのように――。




