選び直せない未来
黒い扉の向こうには、音のない世界が広がっていた。
空は灰色。
道も建物もある。
けれど、そこに住んでいる者たちは誰も動いていない。
「……ここは?」
悠真が周囲を見渡す。
案内役の光が小さく震えた。
「ここでは、一度決めたことを変えられません」
「変えられない?」
ユイが尋ねる。
「はい。『やっぱり違う』と言うことも、『もう一度考える』こともできないのです」
一人の住民が歩いてくる。
「僕は、昔この道を選んだ」
住民は目の前の道を指差した。
「でも、本当は別の道へ行きたかった」
「じゃあ、行けばいいんじゃない?」
悠真が言う。
住民は悲しそうに首を振った。
「一度選んだから、もう変えられない」
ミチが道の先を見る。
そこには一本の橋があった。
しかし橋には、鎖がかかっている。
【決定済み】
と書かれていた。
悠真は鎖を触った。
すると、文字が浮かび上がる。
【選択は、一度きり】
「……本当に?」
悠真が尋ねる。
世界は答えない。
そこでユイが一歩前に出た。
「じゃあ、選び直すんじゃなくて……」
「?」
「新しい選択を作ればいいんじゃない?」
その瞬間、地面に小さな亀裂が入った。
亀裂から光が漏れる。
「新しい……選択?」
住民がつぶやく。
ユイはうなずいた。
「過去の選択を消さなくても、今の自分で別の一歩を選ぶことはできるんじゃないかな」
悠真も続ける。
「前に選んだ道は、そのままでいい」
「でも、今ここにいる自分が、別の道を作ることはできる」
すると鎖が少しだけ揺れた。
カチャン……。
しかし、外れない。
「まだ足りないみたい」
ミチが言う。
悠真は周囲を見渡した。
「この世界の人たち自身が、新しい一歩を作らないといけないんだ」
住民たちは顔を見合わせる。
誰も動こうとしない。
長い間、「決めたことは変えられない」と信じてきたからだ。
やがて、一人の住民が小さく手を上げた。
「……僕は、今から考えたい」
地面に一本の小さな線が現れた。
次の住民が言う。
「私は、少し待ちたい」
また一本。
「僕は、別の道を探したい」
さらに一本。
「私は、今の道をそのまま歩きたい」
新しい道が増えていく。
すると、鎖が一本、外れた。
カチャン。
さらに一本。
カチャン。
やがて最後の鎖が外れ、橋が自由に開いた。
世界の空に、初めて雲が流れる。
風が吹く。
止まっていた木の葉が揺れ始める。
「変わった……」
住民が空を見上げる。
案内役の光が言った。
「この世界は、選択をやり直したのではありません」
「では、何が変わったの?」
「選択したあとにも、次の選択があると知ったのです」
その言葉と同時に、空へ文字が浮かぶ。
【一度選んだ未来も、次の一歩によって変わっていく】
そして、その下に新しい文字。
【第七十九の歴史――次の一歩を選ぶ者】
悠真は橋を渡った。
橋の向こうには、まだ誰も歩いたことのない道が伸びている。
その道の入り口には、小さな看板が立っていた。
【選んだあと】
「……選んだあと?」
悠真がつぶやく。
その瞬間、遠くから声が聞こえた。
「選んだあとには、何があると思う?」
悠真たちは立ち止まった。
声の主は、まだ見えない。
ただ、道の先に新しい光が灯っている。
そして、その光の中に――
【第八十の歴史――選んだあとに生まれる世界】
という文字が浮かび上がった。
悠真は仲間たちと顔を見合わせる。
「行ってみよう」
新しい道を、一歩ずつ歩き始めた。




