選び直せる未来
扉を開けると、そこには見覚えのない町が広がっていた。
けれど、不思議なことに――どこか懐かしい。
道の先には、いくつもの分かれ道がある。
【あのとき選ばなかった道】
【途中でやめた道】
【まだ選んでいない道】
【もう一度歩いてみる道】
悠真は立ち止まった。
「選ばなかった未来って、こんなにあるんだ……」
ミチが道を見渡す。
「でも、もう過ぎたことなんじゃないの?」
すると、町の中央から声がした。
「過ぎたことと、消えたことは違うよ」
振り返ると、一つの小さな光が浮かんでいた。
「僕は、選ばれなかった未来」
「選ばれなかった未来?」
「うん。ずっとここで待っていたんだ」
悠真は尋ねた。
「待っていたって……誰かに選んでもらうため?」
光は少し考える。
「最初はそう思っていた」
「でも?」
「誰かに選ばれなければ存在できないと思っていたけど……違った」
光の周囲に、小さな草が生えていく。
「僕自身が、もう一度始めてもいいんだって分かった」
その瞬間、一本の道が光り始めた。
【やり直す】
悠真は道を見つめる。
「やり直すって、過去を消すことじゃないよね?」
「もちろん」
光が答える。
「過去はそのまま。そこから別の一歩を選ぶんだ」
ユイが道の先を指差した。
「じゃあ、あの道は?」
そこには【選ばなかった】と書かれた道があった。
誰も歩いていない。
悠真が一歩近づくと、道の先から声が聞こえた。
「僕を選んだら、今までの道はなくなるの?」
悠真は首を横に振った。
「なくならないと思う」
「どうして?」
「選ばなかった道があったからこそ、今ここにいるんだから」
すると、道の両側に花が咲いた。
【過去】
【今】
【選び直した未来】
三つの道が一本につながる。
ミチが笑った。
「未来って、後ろを消して進むんじゃないんだね」
そのとき、町全体が大きく揺れた。
空から大量の紙が降ってくる。
紙には、それぞれ違う文字が書かれていた。
【もし、あのとき……】
【別の道を選んでいたら……】
【もう一度やってみたら……】
【今から始めたら……】
無数の「もしも」が町を埋め尽くしていく。
「大変だ!」
ユイが叫ぶ。
「このままだと、『もしも』だけで世界がいっぱいになっちゃう!」
悠真は紙を一枚拾った。
そして、それを静かに折った。
「だったら……」
紙は小さな舟になった。
「『もしも』を、今の自分が進むためのものにすればいい」
舟を川へ浮かべる。
すると他の紙も次々と舟に変わっていく。
【もしも】は川を流れ始めた。
過去へ戻るためではない。
未来へ進むために。
やがて町の中央に、大きな橋が現れた。
橋には、
【選び直すことは、過去を否定することではない】
と書かれている。
その下には、もう一つ。
【今の自分で、もう一度選ぶこと】
悠真は橋を渡った。
その瞬間、町の景色が一気に変わる。
選ばなかった未来だった場所に、新しい住民たちが集まり始めた。
ある者は海へ。
ある者は森へ。
ある者は町へ。
そして、まだ決めない者もいた。
誰も同じ未来を選ばない。
それでも、みんな同じ橋を渡っている。
「すごい……」
悠真がつぶやく。
すると空に新しい歴史の文字が浮かび上がった。
【第七十八の歴史――選び直す者たち】
その直後――。
町の一番奥に、これまで存在しなかった黒い扉が現れた。
扉には、たった一言。
【選び直せない未来】
悠真はその文字を見つめた。
「……今度は、選び直せない未来?」
扉の向こうから、静かな声が聞こえる。
「そう」
「そこでは、何が待っているの?」
しばらく沈黙したあと、声が答えた。
「選び直すことさえ、選択できなくなった世界」
黒い扉が、ゆっくりと開き始めた。
悠真たちは、その先を見つめた。
そして――一歩、踏み出した。




