まだ見つけていない自分
悠真たちは、巨大な光の扉の前に立っていた。
扉には、はっきりとこう書かれている。
【第七十五の歴史――まだ見つけていない自分】
悠真が手を伸ばす。
しかし、扉は開かなかった。
「どうして?」
ユイが尋ねる。
すると扉から声が聞こえた。
「まだ、見つけていないから」
「……どういう意味?」
「僕を見つけるには、僕を探すだけでは足りない」
悠真は考え込んだ。
「じゃあ、何が必要なの?」
しばらく沈黙が続く。
やがて扉に新しい文字が浮かんだ。
【自分が変わることを、受け入れること】
「変わること……」
ミチがつぶやく。
その瞬間、悠真たちの前に三つの道が現れた。
【過去を振り返る】
【今を見つめる】
【未来へ進む】
悠真は三つの道を見比べた。
「どれを選べばいいんだろう?」
すると案内役の光が言った。
「どれを選んでも正解です」
「じゃあ……」
悠真は真ん中の道を選んだ。
【今を見つめる】
道を進むと、小さな湖があった。
湖面には、悠真たちの姿が映っている。
しかし、不思議なことに――。
映っている姿は、今の姿ではなかった。
ミチは少し成長した姿。
ユイは別の道を歩いている姿。
そして悠真自身も、まだ知らない姿になっている。
「これが未来?」
悠真が尋ねる。
湖から声がした。
「違う」
「じゃあ何?」
「可能性」
湖面の姿が次々と変わっていく。
笑っている姿。
悩んでいる姿。
誰かを助けている姿。
一人で旅をしている姿。
何もせず静かに過ごしている姿。
どれも違う。
けれど、どれも「ありえる自分」だった。
「こんなにたくさんあるんだ……」
悠真が驚く。
するとユイが言った。
「だから、未来を一つに決めなくてもいいんだね」
その言葉に湖が輝いた。
湖の中央から、小さな光が浮かび上がる。
「僕は、まだ何者になるか分からない」
光が言う。
「でも、何者になるか分からない自分も、今の僕なんだ」
悠真は笑った。
「うん」
すると光は、少しずつ人の姿になった。
だが、顔も名前もまだない。
「名前は?」
悠真が尋ねる。
光は首を横に振る。
「まだ決めない」
「そっか」
「いつか自分で決めたい」
悠真はうなずいた。
「それでいいと思う」
その瞬間、湖が大きく揺れた。
空から大量の光が降りてくる。
すると、さっきまで存在していた無数の「可能性の自分」たちが、一つずつ消えていった。
「消えちゃった!」
ミチが叫ぶ。
しかし、案内役の光は答えた。
「消えたのではありません」
光は湖の中へ溶け込んでいく。
「可能性として、未来へ戻ったのです」
そして湖面に一つの言葉が浮かぶ。
【自分は、一つの形ではない】
続いて――。
【変わるたびに、自分を見つけ直せる】
悠真はその言葉を見つめた。
「じゃあ……自分探しって、終わらないんだね」
「終わらないから、進めるんだよ」
ユイが答えた。
そのとき、巨大な光の扉が開いた。
その先には、道ではなく――無数の小さな家が並ぶ町があった。
一つ一つの家には、名前が書かれている。
【昨日】
【今日】
【明日】
【まだ知らない日】
そして町の中央には、誰の名前もない大きな家が一軒。
扉には、
【これからの自分】
と書かれていた。
悠真たちは顔を見合わせる。
「次は、あそこだね」
扉の向こうから、また声が聞こえた。
「待ってるよ」
その声は、悠真自身の声に少し似ていた。
そして新しい文字が浮かび上がる。
【第七十六の歴史――これからの自分と出会う者】
悠真は、ゆっくりとその扉へ歩き出した。




