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世界のない場所から

白い空間には、まだ何もなかった。


大地もない。


空もない。


時間さえ、ここでは流れていない。


ただ無数の光だけが、悠真たちの周りに集まっている。


子どもが不思議そうに尋ねた。


「最初に何を作ればいいの?」


悠真は周囲を見渡した。


「分からない」


「え?」


「何もない場所だから、正解もないんだと思う」


ユイが笑う。


「じゃあ、誰かが最初に決めるんじゃなくて、みんなで考えてみよう」


一つの光が前へ出た。


「僕は、大地がほしい」


その瞬間――。


白い空間に、ほんの小さな地面が生まれた。


別の光が言う。


「僕は空がほしい」


地面の上に青い空が広がる。


「私は水!」


川が生まれる。


「森がほしい!」


木々が芽を出す。


「町がほしい!」


遠くに家が一軒現れる。


一つ一つの願いによって、何もなかった場所が世界になっていく。


しかし、悠真は一つのことに気づいた。


「待って」


みんなが振り返る。


「どうしたの?」


悠真は、何も作られていない場所を指差した。


そこだけは、最初の白いままだった。


「ここは、どうする?」


誰も答えない。


ユイがその場所を見つめる。


「まだ決めない場所にしてもいいんじゃない?」


すると、白い場所に小さな文字が浮かんだ。


【未定】


子どもが嬉しそうに言う。


「何も決めない場所も、この世界にあるんだ!」


悠真は頷いた。


「そう。全部を決めなくても、世界は作れる」


その瞬間、世界全体が大きく広がった。


森と町の間に道ができる。


川に橋が架かる。


そして、何も決めない場所へも一本の道が伸びていく。


「誰かが行ってもいいし、行かなくてもいい」


ユイが言う。


「未来を残しておく場所なんだね」


すると、空から一枚の紙が降ってきた。


そこにはこう書かれている。


【この世界は、誰のもの?】


みんなが顔を見合わせる。


「僕のもの!」


と、子どもが言う。


別の光が答える。


「僕たちのもの!」


さらに別の光。


「誰のものでもないよ」


悠真は考えた。


そして言った。


「全部、正しいんじゃないかな」


「え?」


「この世界は、作った人のものでもある。でも、ここで暮らす人のものでもある。そして、まだ何も決めていない場所は、誰のものでもない」


その言葉に反応して、紙の文字が変わった。


【この世界は、一つの答えだけではない】


さらに――。


【違う答えが、一緒に存在できる】


世界の中央に、大きな広場が生まれた。


そこには誰の名前も刻まれていない。


ただ中央に、一本の木だけが植えられている。


その木には、まだ実がない。


子どもが見上げる。


「この木には、何がなるの?」


悠真は笑った。


「それは、これから決めるんじゃないかな」


すると木の枝の先に、小さな光が一つだけ生まれた。


実ではない。


星でもない。


新しい可能性のような光だった。


その光から、かすかな声が聞こえる。


「僕は……この世界で、何になればいい?」


悠真は答えなかった。


代わりに、その光へ問い返す。


「君は、何になりたい?」


光は長い間、考えた。


そして――。


「まだ、分からない」


その瞬間、木の枝が一本伸びた。


その先に、新しい道が生まれる。


空へ向かう道。


そして空の彼方に、新しい扉が現れた。


そこには――


【第七十一の歴史――まだ何者でもない者】


と書かれていた。


悠真はその扉を見上げる。


「世界が生まれた次は……そこに生きる者の物語か」


新しい光が、扉へ向かってゆっくり進み始めた。


まだ名前もない。


まだ未来もない。


まだ何者でもない。


それでも――


確かに、ここにいる。


悠真たちは、その後を追って歩き出した。

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