時間を生きる者
白い光の中へ入った瞬間――。
悠真たちは、同時に立ち止まった。
「……時間が流れてる」
ミチがそう呟いた。
今までの世界とは違う。
風が吹き、雲が動き、光が少しずつ変化している。
ほんの少し前には何もなかった場所に、草が生え始めていた。
ユイが草を見つめる。
「さっきまで、ここには何もなかったよね」
「うん」
悠真が答える。
「時間が流れることで、世界が少しずつ変わってるんだ」
すると――。
遠くから、小さな足音が聞こえた。
トコ……トコ……。
一行が振り向く。
そこには、一人の小さな子どもが立っていた。
しかし、その子どもは不思議そうに周囲を見回している。
「ここ……どこ?」
悠真が近づく。
「大丈夫。ここは、時間が始まったばかりの世界だよ」
子どもは首を傾げた。
「時間って……何?」
悠真は少し考えてから答えた。
「変わっていくことかな」
子どもは自分の手を見る。
指を動かす。
「……さっきと違う」
「そう。それが時間だと思う」
子どもは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、僕も変わっていいんだ!」
その瞬間――。
子どもの背後に一本の木が生えた。
まだ小さな苗木だ。
しかし、時間が進むにつれて少しずつ大きくなっていく。
「すごい……」
ミオが目を輝かせる。
ところが突然、子どもが不安そうな顔をした。
「でも……変わったら、前の僕はいなくなるの?」
悠真はすぐには答えなかった。
そして、ゆっくりと言った。
「前の自分も、今の自分も、どっちも君だよ」
「……どっちも?」
「うん。昨日の自分がいたから、今日の自分がいる。今日の自分がいるから、明日の自分になれる」
子どもはしばらく考えた。
やがて木を見上げる。
「じゃあ、この木も……」
「うん」
「小さかった時の木も、この大きくなった木も、同じ木なんだね」
その瞬間、世界中に風が吹いた。
木の枝が伸びる。
草が広がる。
空に雲が生まれる。
時間が、世界を少しずつ育てていく。
すると空中に文字が浮かんだ。
【過去は消えない】
続いて――。
【未来はまだ決まらない】
そして最後に――。
【今は変わり続ける】
悠真は、その三つの言葉を見つめた。
「過去と未来と今……」
ユイが笑う。
「これまで旅してきた世界が、ここで全部つながってるみたい」
そのとき、遠くから鐘の音が響いた。
ゴーン……。
世界に初めて「一日」が生まれた。
子どもが驚く。
「今の音は?」
悠真が答える。
「たぶん……新しい時間が始まった合図だよ」
しかし鐘の向こうには、まだ見えない場所があった。
そこには巨大な塔がそびえ立っている。
塔の頂上には、一本の針。
その針は――未来ではなく、過去でもなく、悠真たちのいる「今」を指していた。
そして塔の壁に、新しい文字が浮かぶ。
【第六十二の歴史――今を選ぶ者】
悠真は塔を見上げた。
「今を……選ぶ?」
子どもも塔を見上げる。
「僕も行っていい?」
悠真は笑って答えた。
「もちろん。一緒に行こう」
一行は、時間の流れる世界で初めて生まれた道を歩き始めた。
その先には――
「今」という瞬間を、自分で選ぶための場所が待っていた。




