すべての未来の先
新しく開いた扉の向こうには、何もなかった。
空もない。
大地もない。
道もない。
そして、不思議なことに――時間すら感じられなかった。
悠真は、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「……ここは?」
ユイも周囲を見回す。
「未来……じゃないね」
その言葉に、オボロが小さくうなずいた。
「過去でもない。未来でもない。だったら、ここはいったい何なんだ?」
一行が進んでも、景色は変わらない。
しかし、しばらくすると、何もない空間に小さな光が現れた。
光は、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「ここには……まだ、何も決まっていない」
悠真が尋ねる。
「未来が決まっていない場所なの?」
「違う」
光は答えた。
「未来そのものが、まだ生まれていない場所」
一瞬、全員が黙った。
これまで旅してきた世界には、必ず何かがあった。
未来を選ぶ場所。
未来を作る場所。
未来をつなぐ場所。
未来を決めない場所。
けれど、ここには――未来という概念さえ存在しない。
ユラが呟く。
「じゃあ……ここから未来が始まるの?」
すると光は首を横に振った。
「それも違う」
「え?」
「ここでは、未来を作る必要すらない」
悠真は考え込んだ。
「じゃあ、何をする場所なんだ?」
光はしばらく黙っていた。
そして――
「何もしないで、ここにいる場所」
その瞬間、空間に小さな音が響いた。
ぽん。
悠真の足元に、小さな円が現れる。
そこには文字が浮かんでいた。
【今】
悠真は目を見開いた。
「今……?」
ミチが周囲を見回す。
「過去でも未来でもないなら……残るのは『今』なのかもしれない」
すると、別の場所にも文字が現れた。
【ここにいる】
さらに、その隣に――
【まだ決めない】
【ただ見る】
【ただ感じる】
いくつもの言葉が浮かび始める。
世界は、何かを選ばなくても少しずつ形を持ち始めていた。
悠真は静かに笑った。
「今まで、未来を作るには何かを選ばなきゃいけないと思ってた」
ユイが答える。
「でも……選ばなくても、ここにいることはできる」
すると、遠くから声がした。
「だったら……」
振り返る。
そこには、見覚えのない小さな光が立っていた。
光は少し震えながら言う。
「僕は、未来を決めなくても……ここにいていい?」
悠真は答えた。
「もちろん」
その瞬間、光の足元に一本の小さな線が生まれた。
道ではない。
未来でもない。
ただ――そこに存在するための場所だった。
そして空間の奥に、さらに大きな扉が現れる。
扉には、こう書かれていた。
【第六十の歴史――未来が生まれる前】
悠真は扉を見つめる。
「……まだ先がある」
オボロが笑う。
「どうやら、この旅には終点がないらしいな」
悠真は扉に手を伸ばした。
そして――
扉の向こうから、初めて「時間」の気配が流れてきた。
未来でも過去でもない。
その二つが生まれるより前の――
不思議な瞬間だった。




