自分だけの未来
【第五十六の歴史】
新しい門をくぐると、そこには広大な草原が広がっていた。
しかし、草原には何もなかった。
建物もない。
道もない。
町もない。
あるのは、何人かの小さな光だけだった。
一つの光が悠真たちに気づく。
「ここが……自分だけの未来を作る場所?」
悠真は周囲を見渡した。
「そうみたいだね」
光は嬉しそうに尋ねた。
「じゃあ、何を作ればいい?」
悠真は笑った。
「それは君が決めることだよ」
光は少し考えた。
そして、地面に小さな家を作った。
「僕は、家がほしかった」
別の光は木を一本植えた。
「私は森がほしい」
さらに別の光は、遠くまで続く道を作った。
「僕は旅がしたい」
それぞれが、自分の未来を作り始める。
草原は少しずつ変わっていった。
家。
森。
川。
道。
小さな町。
そして、大きな山。
ユイが周囲を見渡す。
「みんな違う未来を作ってるね」
「うん」
悠真が答える。
「だから面白いんだと思う」
ところが――。
突然、草原の中央に大きな壁が現れた。
【自分だけの未来】
壁には、そう書かれている。
光たちが驚く。
「壁?」
「どうして?」
すると、壁の向こうから声がした。
「自分だけの未来なら、他の人の未来は入ってはいけない」
一人の光が言った。
「でも、僕は自分の家に友達を呼びたい」
別の光も言う。
「私も森を誰かに見てもらいたい」
しかし壁は動かない。
ユイが壁に触れる。
「自分だけの未来って、誰にも触れられない未来なのかな?」
悠真は首を横に振った。
「違うと思う」
「じゃあ、どういう意味?」
「自分で選んだ未来ってことじゃないかな」
悠真は壁に向かって言った。
「自分で作った未来だからこそ、誰を招くかも自分で決められる」
すると――。
壁に小さな扉が現れた。
その扉には、
【招く】
と書かれている。
一人の光が扉を開けた。
すると、自分で作った家へ別の光が入っていく。
「来てくれて嬉しい!」
「僕も、この家が好き!」
さらに森にも人が訪れる。
旅の道を一緒に歩く者も現れる。
それぞれの未来は、自分の形を保ったまま、少しずつ交流していった。
しかし、一人の光が尋ねた。
「もし、誰かが僕の未来を変えようとしたら?」
悠真は答えた。
「そのときは、『これは僕の未来だから』って伝えればいい」
光はうなずいた。
「自分で決めた未来を、自分で守るんだね」
世界の意思が静かに言う。
「そして、他の人の未来も尊重する」
その瞬間、草原全体が光に包まれた。
家も。
森も。
町も。
道も。
それぞれが独立して存在しながら、細い道でつながっている。
空に文字が浮かぶ。
【自分だけの未来は、閉じるための未来ではない】
そして――。
【自分で選び、自分で守り、自分で誰かを招く未来】
悠真はその文字を見上げた。
「これなら、みんな違う未来を持ったまま一緒にいられるね」
ユイが笑う。
「でも、まだ一つ問題があるよ」
「何?」
ユイは草原の奥を指差した。
そこには、何も作られていない場所が残っていた。
「まだ未来を作っていない人もいる」
悠真たちはそちらへ歩いていく。
そこには、一つの小さな光が立っていた。
「僕は……自分の未来が思いつかない」
悠真はその光の前にしゃがんだ。
「だったら、思いつくまで待ってもいい」
「待っても?」
「うん。未来は、急いで作らなくてもいいから」
光が少しだけ明るくなる。
すると、その足元に小さな文字が現れた。
【まだ決めない】
そして遠くに、また新しい扉が現れる。
【第五十七の歴史――未来を決めない者】
悠真はその扉を見つめた。
「今度は、未来を決めないことを選んだ人の物語か……」
ユイがうなずく。
「行ってみよう」
二人と世界の意思は、新しい扉へ向かって歩き始めた。
その先には、時間さえも急がない世界が待っていた。




