帰りたくても帰れない未来
扉の向こうには、一本の長い道が続いていた。
道の先には、確かに町が見える。
家もある。
灯りもある。
なのに――誰もそこへ入ることができない。
「どうして?」
ユイが首をかしげる。
道を歩いていた光が、悲しそうに答えた。
「帰りたい場所は見えている。でも、近づくと遠ざかってしまうんだ」
悠真が歩いてみる。
一歩。
二歩。
三歩。
町へ近づいている。
しかし、次の瞬間――
町が遠ざかった。
「本当だ……」
影も歩いてみる。
やはり同じだった。
ユイも試す。
結果は変わらない。
町は、どれだけ歩いても近づかなかった。
「まるで、帰ろうとするほど離れていくみたい」
悠真は道をじっと見た。
すると、道の端に小さな文字が浮かんでいることに気づいた。
【帰るとは、同じ場所に戻ること】
「……この世界では、そう決まってるのか」
ユイが尋ねる。
「じゃあ、その決まりを変えればいいんじゃない?」
悠真は頷いた。
「うん。でも、どうやって?」
光が静かに答えた。
「僕は、昔の自分に戻りたい」
「昔の自分?」
「何も知らなかった頃の僕に戻りたい」
すると町が少し近づいた。
しかし、すぐにまた遠ざかる。
光は俯いた。
「やっぱり無理だ」
悠真は首を横に振った。
「戻らなくていいんじゃないかな」
「え?」
「帰るって、昔の自分に戻ることじゃないと思う」
悠真は町を見つめる。
「今の自分のまま、帰っていいんだよ」
その瞬間――
道が大きく揺れた。
【帰る=戻る】
という文字が消える。
代わりに新しい文字が浮かんだ。
【帰る=今の自分で、もう一度つながる】
町が少し近づいた。
ユイが笑う。
「道が変わった!」
光は恐る恐る歩き始める。
一歩。
二歩。
三歩。
今度は町が遠ざからない。
むしろ、少しずつ近づいてくる。
「……行ける」
光の声が震える。
「僕、帰れる!」
そして――
町の入口へたどり着いた。
そこには一軒の小さな家があった。
光が扉を開く。
中には誰もいない。
けれど、机の上に一枚の紙が置かれていた。
そこには、
【おかえり】
とだけ書かれている。
光は紙を見つめた。
「……誰が書いたんだろう?」
悠真が答える。
「きっと、未来の君じゃないかな」
光は嬉しそうに輝いた。
「未来の僕が……?」
すると紙の文字が変わった。
【帰る場所は、誰かが待っている場所だけではない】
【自分がもう一度、つながろうと思える場所でもある】
記録者の声が響く。
【第四十三の歴史――帰りたくても帰れない未来】
さらに記録が続く。
【帰ることは、過去に戻ることではない】
【今の自分で、もう一度つながること】
その瞬間、町のあちこちに灯りがともった。
一つ。
二つ。
十。
百。
誰もいなかった町に、未来の住民たちが少しずつ戻ってくる。
「おかえり」
「ただいま」
「また会えたね」
そんな声が町いっぱいに広がった。
ユイが嬉しそうに言う。
「町が生き返ったみたい」
しかし、そのとき。
町の空に巨大な亀裂が入った。
悠真が見上げる。
「……何?」
亀裂の向こうには、真っ暗な世界が見える。
そこから、聞いたことのない声が響いた。
「帰る場所があっても……」
「帰る未来そのものがなくなったら、どうする?」
悠真たちは言葉を失った。
亀裂の向こうには、一本の道すら存在しない。
そして、その世界の入口に文字が浮かんだ。
【第四十四の歴史――帰る未来がない世界】
悠真は静かに拳を握った。
「今度は、帰る未来そのものを探すんだ」
ユイが頷く。
名前を探し続けている影も、町の光も続く。
四人は、新たな世界へ向かって歩き始めた。




