帰る場所を失った未来
扉を抜けると、そこは真っ白な空間だった。
町もない。
道もない。
空もない。
ユイが辺りを見回す。
「ここが……帰る場所を失った未来?」
「たぶんね」
悠真は一歩進んだ。
すると、足元に小さな円が現れた。
その円の中には、一軒の家が描かれている。
「家……?」
名前を探し続けている影が近づく。
「でも、誰も住んでない」
さらに先へ進むと、今度は学校。
その先には公園。
そして、町。
どれも誰かが暮らしていたようなのに、住民の姿だけがない。
「ここには、何があったんだろう?」
ユイが尋ねた。
すると、白い空間の奥から声が聞こえた。
「ここは……帰る場所だった」
四人は振り返った。
そこに、一つの小さな光が浮かんでいた。
「昔は、家があった」
光が言う。
「町もあった。友達もいた」
「じゃあ、どうしてなくなったの?」
「みんなが、それぞれ違う未来を選んだから」
悠真が尋ねる。
「それは悪いことなの?」
「違う」
光は静かに答えた。
「それぞれの未来へ進むことは、悪くない。でも……誰も帰る場所を残さなかった」
その瞬間、描かれていた家が消えた。
学校も。
公園も。
町も。
「帰る場所がなくなったら、未来へ進んでも戻れない」
光の声が小さくなる。
「だから僕は、どこにも帰れなくなった」
ユイが少し考えてから言った。
「だったら……帰る場所を作ればいいんじゃない?」
「作る?」
「うん」
悠真も頷いた。
「帰る場所は、最初から決まっている必要はないと思う」
名前を探し続けている影が、地面に小さな石を置いた。
「ここから始めよう」
すると、石の周りに小さな草が生えた。
さらに光の存在が、小さな木を作る。
ユイはベンチを作った。
悠真は道を作った。
何もなかった白い空間に、少しずつ場所が生まれていく。
そして中央に、小さな家が完成した。
「これが……帰る場所?」
光が近づく。
「うん」
悠真は答えた。
「いつでも戻ってきていい場所」
光は家の扉に触れた。
扉が開く。
中には何もない。
それでも、光は嬉しそうに輝いた。
「……ただいま」
すると――
家の中に明かりが灯った。
「おかえり」
悠真が答える。
「おかえり」
ユイも続ける。
「おかえり」
影も笑った。
その瞬間、白い世界に無数の道が現れた。
海へ向かう道。
森へ向かう道。
町へ向かう道。
まだ存在しない世界へ向かう道。
そして、すべての道がこの小さな家へつながっている。
記録者の声が響く。
【第四十二の歴史――忘れられた未来が帰る場所】
さらに、新しい一文が刻まれた。
【帰る場所とは、過去にあるとは限らない】
【これから作ることもできる】
光は家の前に立った。
「僕、ここを守りたい」
悠真が頷く。
「じゃあ、ここは君の場所だね」
光はしばらく考えた。
「……僕だけの場所じゃなくて」
そして家を見つめる。
「誰かが帰りたいと思ったとき、帰ってこられる場所にしたい」
その言葉と同時に、家の上に小さな看板が現れた。
【おかえりの家】
ユイが笑う。
「いい名前だね」
しかし――。
その瞬間、家の奥から別の扉が現れた。
扉には、
【帰りたくても帰れない未来】
と書かれている。
悠真の表情が変わる。
「まだ、先がある……」
扉の向こうから、かすかな声がした。
「帰りたい……」
四人は顔を見合わせた。
悠真が扉へ手を伸ばす。
「行こう」
扉が開く。
その先には――
帰る場所を知っているのに、
そこへ戻ることができない未来が待っていた。




