呼ばれなくなった未来
新しく生まれた町を、悠真、ユイ、そして名前を探し続けている影は歩いていた。
町には、まだ建物が少ない。
それでも、あちこちから声が聞こえる。
「ここにいるよ!」
「私もいる!」
「今日はここまで歩いてきた!」
誰もが自分の存在を確かめるように声を出していた。
ところが――。
町の一番奥だけ、妙に静かだった。
ユイが足を止める。
「……あそこ、誰もいないの?」
悠真が見ると、小さな丘の上に古い扉があった。
扉には文字が刻まれている。
【呼ばれなくなった未来】
影が呟いた。
「行ってみよう」
三人が扉を開ける。
中には、小さな部屋が一つだけあった。
部屋の中央に、一つの光が浮かんでいる。
「誰かいる?」
悠真が声をかける。
光は少し揺れた。
「……いる」
「名前は?」
しばらく沈黙が続いた。
「分からない」
ユイが尋ねる。
「自分で自分を呼んでみたら?」
光は震えた。
「……できない」
「どうして?」
「昔は、自分のことを呼べた。でも……」
光が弱くなる。
「誰にも呼ばれなくなったから、自分でも自分を呼ばなくなった」
悠真はその言葉を聞いて、すぐには答えなかった。
そして、光のそばに座った。
「じゃあ、今日は僕が呼ぶよ」
「……何て呼ぶの?」
「まだ名前がないなら、名前じゃなくてもいい」
悠真は優しく言った。
「ここにいる人」
光が小さく輝く。
ユイも続ける。
「ここにいる人」
影も続けた。
「ここにいる人」
三人の声が重なる。
すると、部屋の壁に無数の文字が浮かび始めた。
【ここにいる】
【ここにいる】
【ここにいる】
光が少しずつ大きくなっていく。
「……僕、まだここにいたんだ」
悠真が頷く。
「うん」
「忘れられたと思ってた」
「忘れられたことと、存在しなくなることは違うよ」
光が静かに揺れる。
そして――
「じゃあ、もう一度、自分を呼んでみてもいい?」
「もちろん」
光が深く息を吸うように明滅した。
「……僕は、ここにいる」
その瞬間、部屋の床から一本の道が現れた。
道は町の中心へ向かって伸びている。
記録者の声が響いた。
「新しい記録を確認」
【第四十一の歴史――呼ばれなくなった未来】
さらに文字が刻まれる。
【呼ばれなくなった未来も、再び呼ぶことができる】
ユイが道を見る。
「未来って、消えるんじゃなくて……眠ることもあるんだね」
イマの声が遠くから響いた。
「その通り」
トキが続ける。
「呼ばれなくなった未来には、時間が止まることがある」
アスが言う。
「でも、誰かがもう一度呼べば――」
その瞬間、町に朝日が差し込んだ。
「未来は動き始める」
光は町へ向かって歩き出した。
まだ名前はない。
でも、その歩き方にはもう迷いがなかった。
「僕も町へ行っていい?」
悠真が笑う。
「もちろん」
四人は町の中心へ向かった。
すると、町の広場に大きな時計が現れた。
針が動き始める。
カチッ。
カチッ。
そして時計の下に、新しい文字が浮かんだ。
【ここにいる者、みんな未来】
町の住民たちが集まってくる。
「新しい仲間だ!」
「一緒に歩こう!」
「名前はまだなくてもいいよ!」
光は嬉しそうに輝いた。
「……ありがとう」
その瞬間、空に次の歴史への扉が現れた。
【第四十二の歴史――忘れられた未来が帰る場所】
悠真は扉を見上げる。
「まだ続くんだね」
ユイが笑う。
「うん。未来って、終わらないみたい」
しかし扉の向こうから、かすかな声が聞こえた。
「帰る場所……?」
声は震えていた。
「僕には、帰る場所なんてないよ」
悠真たちは顔を見合わせた。
そして、扉の向こうへ歩き出す。
今度は――
帰る場所を失った未来を探す旅が始まった。




