まだ選ばれていない世界
扉が開いた。
その向こうには、真っ白な世界が広がっていた。
空もない。
大地もない。
建物も、道もない。
「……何もないね」
ユイがつぶやく。
悠真は周囲を見回した。
「でも、さっきの黒い空間とは違う」
「どう違うの?」
「ここには……『これから』がある気がする」
すると、隣にいた光の存在が地面を見つめた。
「ここに、何か作ってもいいのかな?」
悠真は笑った。
「もちろん」
光の存在が恐る恐る手を伸ばす。
すると――
ぽんっ。
小さな石が一つ、白い地面に現れた。
「……できた」
さらに石を二つ。
その三つの石の間から、小さな草が生える。
ユイが目を輝かせた。
「すごい! 世界ができていく!」
だが、突然、空から声が響いた。
『待って』
三人は顔を上げた。
『まだ、決めないで』
「誰?」
悠真が尋ねる。
返事はない。
その代わり、空中に巨大な文字が浮かんだ。
【この世界は、まだ何になるのか決まっていません】
ユイが首をかしげる。
「それなら、どうして作っちゃいけないの?」
すると文字が変わった。
【作ることも、作らないことも、この世界の未来です】
光の存在が黙り込む。
「……じゃあ、僕が何かを作ったら、他の未来が消えちゃう?」
悠真はすぐには答えなかった。
しばらく考えたあと、ゆっくり言った。
「たぶん、消す必要はないんじゃないかな」
「え?」
「一つを選んだからって、他の可能性まで全部なくす必要はない」
その言葉に反応するように、白い世界に小さな分かれ道が現れた。
一方には【作る】。
もう一方には【作らない】。
さらに別の道には――
【まだ決めない】
ユイが笑った。
「三つもある」
光の存在が道を見つめる。
「僕は……」
一歩。
【作る】の道へ進みかける。
しかし、途中で止まった。
「やっぱり、まだ決めない」
すると――
三つの道が消えずに、そのまま残った。
悠真は驚いた。
「選ばなくても、道は残るんだ」
その瞬間、白い世界に初めて空が生まれた。
青でもなく、黒でもない。
まだ名前のない色だった。
そして空から、無数の小さな光が降ってくる。
ユイが手を伸ばす。
「これは……未来?」
光の一つが、ユイの手のひらで輝いた。
そこには一文字だけ浮かんでいた。
【未】
「『未』……?」
すると、別の光には、
【海】
また別の光には、
【森】
さらに別の光には、
【町】
そして――
【旅】
と書かれていた。
悠真は気づいた。
「未来の候補だ」
光の存在が尋ねる。
「じゃあ、この世界には、たくさんの未来があるの?」
「うん。でも、どれか一つに決めなくてもいい」
その瞬間、白い世界に小さな鐘の音が響いた。
カーン……。
遠くに、新しい扉が現れる。
扉にはこう書かれていた。
【第三十五の歴史――未来を残す世界】
記録者の声が響く。
「これは、新しい歴史です」
トキが続ける。
「この世界には、まだ一つの時間しかない」
イマが言う。
「今」
そしてアスが静かに続けた。
「未来は、まだ全部ここにある」
悠真は扉を見つめた。
「未来を一つにしない世界……か」
ユイが頷く。
「面白そうだね」
光の存在も笑った。
「僕も行きたい」
三人は扉の前に立った。
悠真が取っ手に手をかける。
すると扉の向こうから、誰かの声が聞こえた。
「――その世界に、僕の未来も残っていますか?」
三人は顔を見合わせた。
悠真が答える。
「もちろん」
扉がゆっくり開いていく。
その向こうには――
無数の未来が同時に存在する、巨大な世界が広がっていた。
そして、その世界にはまだ誰も知らない一つの秘密が隠されていた。
【未来は、選ぶだけではない】
その続きの文字が、ゆっくり現れる。
【未来は――】
そこで文字が途切れた。
悠真は目を見開いた。
「続きが……ない?」
ユイが前を見る。
「じゃあ、その続きを探そう」
三人は、新しい世界へ歩き出した。




