選ばれなかった未来
黒い空間に、一本の道が伸びていた。
その道には、海も森も町もなかった。
ただ、何もない。
悠真は慎重に一歩を踏み出した。
「……ここが、選ばれなかった未来?」
ユイが後ろから続く。
「そうみたいだね。でも……」
ユイは周囲を見回した。
「何もないというより、何も決まってない感じがする」
すると、道の先から声が聞こえた。
「僕は……ずっとここにいた」
二人は足を止めた。
「でも、誰にも選ばれなかった」
暗闇の中に、小さな光が浮かび上がる。
光は人の姿になりかけていた。
「だから僕には、町もない。名前もない。未来もない」
悠真はその言葉を聞いて、静かに尋ねた。
「じゃあ、君は消えたいの?」
「……分からない」
光が揺れた。
「消えたいんじゃない。でも、選ばれていない僕が、ここにいていいのか分からない」
ユイが一歩前へ出た。
「僕も前は、自分の未来を誰かと同じにしなくちゃいけないと思ってた」
「……」
「でも違った。違う未来でも、つながることはできた」
光が少しだけ強くなる。
悠真も続けた。
「選ばれなかったっていうのは、必要ないってことじゃないと思う」
「……じゃあ、僕は何?」
悠真は少し考えた。
「まだ、誰にも選ばれていない未来」
「まだ……?」
「うん」
その言葉に、光が大きく揺れた。
その瞬間――。
黒い空間に、小さな扉が現れた。
扉には文字が浮かんでいる。
【選ばれていない未来】
その下に、もう一つの文字が現れた。
【選ぶ必要はある?】
ユイが驚く。
「これは……?」
記録者の声が遠くから響いた。
「記録できません」
「え?」
「この未来には、まだ選択が存在していません」
トキの声も続く。
「時間も流れていない」
イマの声が重なる。
「現在もない」
アスも言った。
「未来も……まだない」
悠真は扉を見つめた。
「じゃあ、どうすればいい?」
誰も答えなかった。
すると、光の存在が小さく言った。
「……僕が決めてもいい?」
悠真は笑った。
「もちろん」
「でも……何を決めればいい?」
「それも君が決めればいい」
長い沈黙。
やがて光が、初めて自分から一歩を踏み出した。
「じゃあ……」
光の中から、小さな手が現れる。
「僕は、この場所にいたい」
その瞬間。
黒かった空間に、初めて一本の道が生まれた。
そして、その道の先に――小さな朝の光が差し込んだ。
記録者が静かに告げる。
「新しい記録が始まります」
紙に文字が浮かんだ。
【第三十三の歴史――選ばれなかった未来】
そして、その下に続く。
【選ばれなかった未来は、存在しなかった未来ではない】
悠真は新しく生まれた道を見つめた。
「これから、この未来にも何かが生まれるのかな」
ユイが頷く。
「きっとね」
光の存在も、初めて笑った。
「じゃあ……僕の未来を探してみたい」
悠真は頷いた。
「行こう」
三人は、まだ誰にも選ばれていない道を歩き始めた。
その先には――
今まで見たことのない、新しい世界の入口があった。
扉には、こう書かれていた。
【第三十四の歴史――まだ選ばれていない世界】
悠真は扉に手を伸ばす。
「……開けよう」
そして三人は、新しい未来へ足を踏み入れた。




