第二十四の歴史ーー町が自分の名前を探す
門の向こうから聞こえた声。
「僕も、この町に行っていい?」
悠真は大きく頷いた。
「もちろん。ここは、誰でも自分で選べる町だから」
門の向こうから、一人の少年が歩いてきた。
白い服。
胸には、第∞+3世界の紋章。
しかし――名前はない。
「僕には、まだ名前がないんだ」
少年は少し恥ずかしそうに笑った。
ミチが尋ねる。
「名前を決めたい?」
「ううん。今はまだ、決めたくない」
「そっか」
ミチはそれ以上、何も聞かなかった。
少年は町を見渡した。
「ここ……変な町だね」
ソラが笑う。
「名前がないから?」
「それもあるけど……」
少年は広場を見た。
家。
川。
木。
星。
そして、たくさんの住民。
「誰も、僕に『こうしなさい』って言わない」
悠真が答える。
「それが、この町の最初のルールだから」
少年は嬉しそうに笑った。
その瞬間――
町の中央にある時計が動いた。
カチッ。
カチッ。
そして文字が浮かぶ。
【新しい住民――確認】
【名前――未定】
【未来――自由】
続いて、町全体が光り始めた。
地面から一本の道が伸びる。
道の先には三つの看板。
【勇気】
【自由】
【発見】
さらに、その先には白い看板が一つ。
【まだ決まっていない】
「四つの道?」
アオが言った。
「町の名前を探すための道なのかな?」
記録者が本を開く。
ページに文字が浮かんだ。
【町は、自分自身の名前を選ぶ】
【しかし、町には口がない】
【町が何を大切にしているのかを知る必要がある】
悠真は町を見渡した。
「つまり……町に住んでいるみんなの思いを探すんだ」
ミチが頷く。
「名前を先に決めるんじゃなくて、この町がどんな町なのかを知るんだね」
「そういうことだと思う」
最初の道へ進む。
【勇気】
道の先には、小さな崖があった。
向こう側には家が一軒。
しかし橋はない。
名前のない住民たちは立ち止まった。
「渡れない……」
すると、一人の住民が前へ出た。
「じゃあ、橋を作ろう」
別の住民が木を運ぶ。
さらに別の住民が石を集める。
みんなで力を合わせると、小さな橋が完成した。
その瞬間、看板が変わった。
【勇気――誰かと一歩を踏み出すこと】
次に【自由】の道へ向かう。
そこには、真っ白な広場があった。
何もない。
「ここでは何をするんだろう?」
少年が考えていると、一人の住民が花を描いた。
別の住民は家を描いた。
別の住民は星を描いた。
誰も止めなかった。
やがて白い広場は、色々なものに満たされた。
看板が変わる。
【自由――自分で選び、誰かの選択も認めること】
そして【発見】の道。
森の中を進むと、誰も知らない小さな泉があった。
泉を覗くと、そこには町の未来が映っていた。
大きな町。
小さな村。
森に囲まれた町。
海辺の町。
空に浮かぶ町。
そして――
何も決まっていない町。
ミチが驚く。
「未来がいっぱいある……」
記録者が答える。
「どれも、この町が選べる未来です」
最後に、白い看板。
【まだ決まっていない】
その道だけは、何もなかった。
道を進んでも、景色が変わらない。
空もない。
地面もない。
名前すらない。
すると、新しく来た少年が呟いた。
「……ここ、好きかもしれない」
悠真が振り返る。
「どうして?」
「何も決まってないから」
少年は笑った。
「僕もまだ何者なのか分からない。だから、この場所を見ると安心する」
その言葉を聞いた瞬間――
町が大きく揺れた。
四つの道が一本につながる。
【勇気】
【自由】
【発見】
【未定】
そして、町の中央に巨大な文字が浮かんだ。
【この町が大切にするもの――選び続けること】
悠真は静かに頷いた。
「……これが、町の名前になるのかな」
しかし文字は消えた。
代わりに新しい言葉が現れる。
【まだ決めません】
「え?」
ソラが目を丸くする。
記録者が読み上げた。
【この町は、自分の名前を今すぐ決めないことを選びました】
ミチが笑った。
「町自身が選んだんだ」
「名前を決めないっていう名前……?」
アオが首を傾げる。
すると時計塔が鳴った。
ゴーン――。
空に新しい歴史が刻まれる。
【第二十四の歴史――町が自分の名前を探す】
【町は、名前より先に、自分が何を大切にするかを見つけた】
悠真は町を見渡した。
「じゃあ、名前はいつか決めればいい」
その瞬間。
町の外から、巨大な光が近づいてきた。
光の中には――
まだ見たことのない世界が映っている。
海の向こう。
山の向こう。
空のさらに向こう。
そして、その中心に一つの扉。
扉には文字があった。
【町の名前を決める者】
悠真が目を見開く。
「……誰が、この町の名前を決めるんだ?」
扉の向こうから声が聞こえた。
「それは――」
一拍の沈黙。
「この町に住む、全員です」
扉が開く。
新しい旅が始まろうとしていた。




