世界の選択
【この先へ進むには、世界そのものが選ばなければならない】
その文字が浮かんだ扉の前で、悠真たちは立ち止まっていた。
「世界が……選ぶ?」
ミチが不思議そうに呟く。
ハジメは周囲を見渡した。
「でも、この世界には、たくさんの住民がいるよね」
「うん」
「だったら、その住民たちが選べばいいんじゃない?」
その瞬間――
地面が小さく震えた。
ゴゴゴゴ……。
街の建物が淡く光り始める。
空の星も。
森の木々も。
川の水も。
そして、まだ名前のない場所までも。
記録者が驚く。
「世界全体が……反応しています」
イマが目を閉じた。
「聞こえる」
悠真が尋ねる。
「何が?」
「たくさんの声」
耳を澄ます。
すると、あちこちから声が聞こえてきた。
『このまま続きたい』
『もっと見てみたい』
『新しい場所へ行きたい』
『誰かと出会いたい』
『まだ知らないものを探したい』
『変わりたい』
『変わりたくない』
様々な声が重なっていく。
ミライが驚く。
「みんな、違う未来を望んでる」
アカリが頷いた。
「一つには決められないね」
そのとき、空に巨大な文字が現れた。
【世界は、何を選ぶ?】
ハジメが考える。
「一つだけ選ぶ必要があるのかな?」
すると、文字が変わった。
【一つでなくてもよい】
悠真が笑った。
「なるほど」
ミチが続ける。
「じゃあ、この世界は――」
しかし、そこで言葉を止めた。
「みんなが違う未来を持ったまま、一緒に進む世界?」
その瞬間。
世界中に光が広がった。
街には新しい道が増える。
森には新しい木々が生まれる。
海にはまだ見たことのない島が浮かぶ。
空には新しい星座が描かれる。
そして、何もなかった場所にも一つの家が現れた。
少年がその家を見つめる。
「これは……?」
扉には文字が刻まれていた。
【まだ決まっていない未来の家】
少年が扉を開く。
中には何もない。
机も椅子もない。
ただ、壁に一枚の紙だけが貼られている。
【ここには、未来を自由に描いてください】
少年は紙を見つめた。
「僕の未来も……描いていいの?」
悠真が答える。
「もちろん」
少年は白い紙に手を伸ばした。
だが、まだ何も書かなかった。
「今は……空白のままにしておきたい」
すると紙には、
【未来――空白を選択】
と記録された。
記録者が微笑む。
「それも、この世界の未来の一つですね」
突然、外から大きな音がした。
ゴォォォン――!
全員が外へ出る。
空に巨大な門が浮かんでいる。
門には、
【第十九の歴史――世界の未来】
と書かれていた。
しかし、その下にはさらに一行。
【世界の未来を決める者――存在しない】
悠真が驚く。
「誰も決めない……?」
そのとき、ハジメが空を見上げた。
「違うよ」
「え?」
「世界の未来を決める人が、一人だけいないんだ」
ハジメは笑った。
「この世界にいる全員が、それぞれ未来を作っていくんだよ」
世界が大きく輝いた。
【世界の選択――共有】
【未来――無限】
【第十九の歴史――開始】
そして門が開く。
その先には、これまで見たことのない景色が広がっていた。
無数の世界が、星のように浮かんでいる。
しかし、その中に一つだけ――
真っ黒な世界があった。
記録者の本が突然震え始める。
ページに文字が浮かぶ。
【未確認世界】
【名前――なし】
【住民――なし】
【歴史――なし】
そして最後に――
【未来――あり】
悠真が目を見開く。
「住民も歴史もないのに……未来だけがある?」
すると黒い世界から、かすかな声が聞こえた。
「……誰か、来て」
悠真たちは顔を見合わせる。
まだ存在していないと思われた世界から――
確かに、誰かが助けを求めていた。




