存在した理由
悠真たちは、未来の街の地下へ続く階段を降りていた。
階段には、一定の間隔で文字が刻まれている。
【生まれる前】
【生まれた瞬間】
【最初の選択】
【最初の出会い】
そして、最も下の階。
【存在した理由】
ミチが足を止めた。
「ここだ」
階段の先には、大きな銀色の扉があった。
扉には鍵穴がない。
取っ手もない。
ただ中央に、一つの質問だけが浮かんでいる。
【あなたは、なぜ存在したい?】
悠真たちは黙った。
簡単には答えられない質問だった。
ハジメが最初に口を開く。
「僕は……この世界を見つけたかったから」
ミチは、
「まだ知らない未来を探したいから」
ソラは、
「いろんな場所を見てみたいから」
アオは、
「自分がどこへ行けるのか知りたいから」
一人ずつ答えていく。
そして最後に、名前のない少年へ視線が集まった。
少年はしばらく考えた。
「僕は……」
言葉が出てこない。
「まだ、分からない」
すると銀色の扉が光った。
【正解】
少年が驚く。
「え?」
悠真が笑う。
「分からないって答えも、ちゃんと答えなんだよ」
扉が開いた。
その先には、とてつもなく広い部屋があった。
壁一面に本が並んでいる。
しかし、どの本にもタイトルがない。
記録者が一冊を手に取った。
ページを開く。
すると、そこには見覚えのある出来事が書かれていた。
【第∞世界】
【第∞+1世界】
【第∞+2世界】
【第∞+3世界】
これまで旅してきた世界の記録だった。
キオクが驚く。
「全部……ここに記録されている」
記録者がページをめくる。
しかし、第∞+3世界の最後まで来たところで、文字が途切れている。
【この先――未記録】
トキが時計を見る。
「ここから先は、まだ時間が進んでいない」
イマも頷く。
「今もない」
アスが続ける。
「未来もない」
記録者が静かに言った。
「つまり、ここから先は……まだ誰も経験していない」
少年が一歩前へ出る。
「だから、僕たちが来たんだ」
その瞬間。
部屋の中央に、一冊だけ本が現れた。
表紙には大きく、
【第∞+3世界――存在理由】
と書かれている。
悠真が本を開く。
最初のページには、こう記されていた。
【この世界に、最初から決められた目的はない】
二ページ目。
【世界は、存在した理由を後から見つける】
三ページ目。
【住民もまた、自分が存在する理由を後から見つける】
少年がページを見つめる。
「じゃあ……」
そのとき、本に新しい文字が浮かんだ。
【存在理由とは、最初から与えられるものではない】
さらに文字が続く。
【生きて、出会い、選び、探した結果として見つかる】
少年は胸の紋章に手を当てた。
「僕がここにいる理由も……これから見つけるんだ」
悠真が頷く。
「そうだと思う」
すると、本の最後のページが勝手に開いた。
そこには一つだけ質問があった。
【では、第∞+3世界が存在する理由は?】
誰も答えられなかった。
ハジメも。
ミチも。
悠真も。
そのとき――
名前のない少年が一歩前へ出た。
「僕は……一つ思うことがある」
全員が少年を見る。
「この世界は、答えを見つけるためじゃなくて……」
少年はゆっくり続けた。
「みんなが、自分で答えを見つけられるようになるために存在しているんじゃないかな」
静寂。
そして――
世界中の時計が、一斉に動き始めた。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
空に文字が浮かぶ。
【第十八の歴史――存在理由】
【記録開始】
そして、その下に新しい一文。
【第∞+3世界の存在理由――探索中】
ハジメが笑った。
「まだ決まってないんだ」
悠真も笑う。
「だからこそ、これから探せる」
すると地下室の奥に、さらに一枚の扉が現れた。
そこには――
【第十九の歴史――世界の未来】
と書かれていた。
しかし扉の前には、もう一つの文字がある。
【この先へ進むには、世界そのものが選ばなければならない】
悠真たちは顔を見合わせた。
世界そのものが――選ぶ。
第∞+3世界の、新たな選択が始まろうとしていた。




