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まだ存在していない未来

巨大な門の前に、悠真たちは立っていた。


門には、今まで見たことのない文字が刻まれている。


記録者が何度読み直しても、その意味は分からなかった。


「やっぱり、読めない……」


キオクも首を横に振る。


「僕の記憶にも、この文字はない」


イマが門に手を触れた。


「今、この門はここにある。でも……その先には、まだ『今』がないみたい」


トキの持つ時計も、針を止めている。


「時間さえ、まだ始まっていない」


ミチが門を見上げた。


「じゃあ、ここには何があるんだろう?」


そのときだった。


門の向こうから、小さな声が聞こえた。


「……未来です」


全員が振り返る。


そこにいたのは、【名前――これから】と表示された少年だった。


少年は門を見つめている。


「未来……?」


悠真が尋ねる。


「うん。でも、普通の未来じゃない」


少年が門に手を伸ばす。


「ここにあるのは――まだ存在していない未来」


その瞬間。


門が、ゆっくりと開いた。


その先には、何もなかった。


空もない。


地面もない。


星もない。


ただ、無数の小さな光だけが浮かんでいる。


アカリが目を凝らす。


「光……?」


すると、その一つが突然、大きくなった。


光の中に、小さな町が映る。


しかし次の瞬間、町は消えた。


別の光には海が映る。


それも消える。


次は森。


次は空中都市。


次は誰もいない部屋。


次は、まだ生まれていない誰かの姿。


ミライが驚く。


「全部……未来の可能性?」


記録者が答える。


「いいえ。これは未来になる前のものです」


「未来になる前?」


「まだ、誰も選んでいない。だから存在として確定していないのです」


ハジメが一歩前へ出る。


「じゃあ、ここで何かを選んだら?」


記録者は黙った。


その代わり、空間に文字が浮かび上がった。


【選択された未来は、存在を始める】


悠真は周囲を見渡した。


「でも……僕たちが勝手に未来を決めていいのかな?」


その言葉に、少年が静かに首を横に振った。


「だから、ここでは『決める』んじゃない」


「じゃあ、何をするの?」


少年は答えた。


「未来に、質問するんです」


すると、一つの光が近づいてきた。


その光から声がする。


『僕は、どこへ行きたい?』


別の光。


『私は、誰と出会いたい?』


また別の光。


『僕は、何になりたい?』


さらに無数の声が重なる。


『どこへ?』


『誰と?』


『何をする?』


『何を見つける?』


『何を作る?』


悠真は笑った。


「なるほど……」


ミチも頷く。


「質問が、未来を作るんだ」


その瞬間、少年の胸の紋章が輝いた。


【名前――これから】


そして、その文字の下に新しい言葉が現れる。


【未来――探索中】


少年は驚いた。


「僕の未来も……まだ決まっていない」


悠真は微笑む。


「それなら、一緒に探そう」


「……うん」


その瞬間。


無数の光が一斉に輝いた。


何もなかった空間に、一本の道が生まれる。


しかし、その道には目的地がなかった。


ただ、先へ続いている。


道の入口に文字が浮かぶ。


【第十五の歴史――未来が存在する前】


トキの時計が、初めて動いた。


カチッ。


イマが目を見開く。


「今が……生まれた」


キオクの本にも、最初の一行が書かれる。


【第十五の歴史――開始】


そして、まだ存在していなかった未来の世界に、最初の一歩が刻まれた。


少年は道の先を見つめる。


「行こう」


悠真たちも歩き出す。


その瞬間、遠くで一つの光が人の形になった。


まだ名前もない。


まだ未来もない。


けれど、その存在は確かにこちらを見ていた。


そして――


「……僕も、未来を探していい?」


新しい声が響いた。

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